狂気と狂愛【sideシャッル・キラーダ】

この話の後の話。
 
■お借りしました:テイさん
 
  
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 どんな生き物も、幸福であるが時が最も輝かしい表情を見せる。それは食事の時間であったり趣味を謳歌している時間であったり大切な者といる時間であったりと、多種多様だ。
 では自分にとっての幸福とは何かと問われれば、それは金が手に入る時と、         瞬間を見る時だ。
 
 テイの話を聞きながら歩く道中はとても有意義なものだった。彼は愛おしい大切な存在について、本当に"嬉しそうに幸せそうに"話してくれた。
 ああ、悪食が顔を覗かせてしまう。
 相手が恥ずかしがるからと伴侶の名は聞けなかったが、必要すぎる情報は得た。十分すぎる程に。別段テイから聞き出す必要だってありはしなかったのだが、"自分が話したことが理由で"という要因だけで、こういった善人には響くことをよく知っている。
 
「ふふ、本当に素敵なご夫婦のようで。幸せなお話を聞かせて頂き、お腹いっぱいです」
 
 照れくさそうに笑う彼はやはり愉快だ、という素直な好印象を抱く。本当に本当に、幸せそうでいてくれて、ありがとうと。
 
「そっちはどうなんだ?」
「私には勿体ないほどの素敵な方ですよ」
 
 そうですね、と周囲を見渡して見つけた、一輪の花を撫でる。小さく儚くも美しい紫のそれをやさしく右手で撫でてからテイを見上げた。
 
「この花のように、というのも臭すぎるでしょうか」
「喜ぶんじゃないか?」
「だと嬉しいのですが」
 
 摘むことはせずに立ち上がり、再び歩き出せば目的のそれが目に見えた。テイと共に同行する予定としていたチェックポイントの"惑わし森"だ。
 
「楽しい時ほどあっという間でしたね」
「ああ。ここまでありがとうな」
「いえいえ。またこのイベント中に会えましたら嬉しいですし……ああ、お店にも伺わせて頂きたいです」
 
 左手を差し出して握手を求める。マレというメブキジカはやはり嫌そうに邪魔をしようとしてきたが、流石に何回もそういった態度を人にとるのは失礼だと思ったのかテイが謝罪を口にした。
 
「ごめんな……」
「いえいえ、お気になさらず」
 
 もう、十分すぎる程に楽しませて頂いたうえに、他の楽しみも見つけさせてくれたのだから。
 
 
***
 
 
 テイとメブキジカと別れてからもシャッルはとても上機嫌だった。そりゃあそうだ。あんなにも壊しがいのある玩具を見つけてしまったのだから。
 
「キラーダ」
 
 名を呼ばれて、嬉しさに身を擦り寄らせた。
 
「伴侶さんにも会いたいですよね?」
 
 折角なのですからと笑うシャッルの笑顔に、瞳の色に、ぞくりと背筋が、心臓が震える。ああ、そう、それ。その瞳。私は、私はシャッルのその瞳が愛おしくて愛おしくて堪らないのだ。
 好きだわ、狂ったあなた。もっともっとその狂気を見せて。あなたの最も素敵な姿。それが見られるのなら、私はなんだってする。
 
「ふふ、同意見で安心しました」
 
 狂気に満ちた瞳のままやさしく頭を撫でてくれて、私は興奮と悦楽のあまりに意識が飛びそうになった。

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