ペンは剣と共に【sideリピス】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:アニーニケさん、プリシラさん
 
  
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 こちらを見定めるような眼差し。それが不快ではないと思うのは、彼がわたしを”トレーナー”として認識してくれたからだろう。礼儀正しい人だと思う。事前にこちらの力量を確認してくれるのだから。思い出すのは今までバトルしてきたジムトレーナーやジムリーダー達の姿だ。そう、だって彼らもそうだった。こちらの力量を見極めたうえで、適切な対応をしてくれる。
 強そうだからという直感で声をかけたが、コランダ地方にはこおりタイプのジムがあることを思い出す。彼が出したポケモンがこおりタイプのコオリッポだからそう思っただけなのだが、果たして真実はどうなのだろう。
 最も、今はそんなこと関係ない。ここにいるのは純粋なトレーナー同士なのだから。

「嬉しいわ。ありがとうアニ」
 
 基本的には人の名前はフルネームで呼ぶようにしている。けれども相手が略称を許してくれるのならばわたしは喜んでそれに甘んじよう。咄嗟の時に備えて単純に呼びやすい方が好みだ。手持ちも、人も。
 
「こっちはプリシラだ。よろしくな」
「プリシラもよろしくね」
 
 場にトトとプリシラ、二匹が出てトレーナーは巻き込まれないために一歩下がる。プリシラが現れただけで周囲には冷えた冷気が漂っており、もう少しでやってくる冬の季節を少しだけ早く感じられたような錯覚に陥った。
 まずは相手の動きを読むべきかとも考えたが、何か詰まれる前に動いた方が得策だとすぐに脳が解を弾き出す。何故かって、そんなのコオリッポの特性と覚えられる技を考えたら、長期戦はトトにとって不利でしかないからだ。
 
「ラスターカノン!」
「初撃でそうくるか。プリシラ、たきのぼりで受け流せ!」
 
 わたしが技の一言目を発した瞬間にラスターカノンだと理解したトトは弾かれたように技を射出する。技構成の際に一文字目が同じになる技は基本避けて組むようにしたのは、わたしの指示にすぐにポケモン達が応じれるようにだ。トトは特に顕著にそれを体現してくれている。
 放たれた鋼の光は真っ直ぐ吸い込まれるようにプリシラの頭部を狙った。まずはだって、それを壊さないと話が始まらない。しかしわたしがアイスフェイスを壊したいことなどお見通しだったようだ。腕に水流をまとったプリシラは、光を掬い上げるように持ち上げて、水の勢いで軌道を反らす。そしてそのままこちらに滑り込んでトトの腹部を殴りつけた。技を放ったばかりで隙だらけだった体が揺れるが、それで倒れるようなやわな子ではない。
 自分の身体を殴り飛ばしたばかりで、近くにいたプリシラの腕をトトは力任せに掴み、大地を揺らした。同じ空を飛べない翼を持つもの同士、とんで逃げることなど許さないとばかりに。震源地のすぐ傍にいたせいで、衝撃は距離をとっている時よりも強くプリシラの体に響く。
 ぱきん、と氷の顔が割れた。
 
「特性を知ってたんだな」
「アイスフェイスでしょう。まずはその綺麗な氷をはがさないとどうにもならない」
「当たりだ。他の懸念点は?」
「耐久力の高さと」
 
 どこか楽しそうに問いかけてくるアニーニケにわたしはそこまで言って空を見た。
 
「わたしがコオリッポのトレーナーなら、アイスフェイスをもう一度戻すことを考えるわ」
「……満点だ」
 
 トトの腕を振り払ったプリシラが後ろに下がりつつ、両手を広げて空を仰ぐ。晴れ切っていた空には雲が漂い、集まり。それらは集合して暗く白い色を持つ。はらはら、と降り注ぎ始めたあられ。それらが示す答えなど、一つだ。
 
「耐久戦はよくない。そう思ってるだろ?」
「ええ」
「じゃあどうするんだ?」
 
 降り注ぐあられに呼応するかのように砕いたばかりの氷の顔が再び形成されていく。丸くなっていたそれが、再び正方形へと。試すようにどこか楽しそうなアニーニケに、わたしははっきりと答えた。トトへの指示という形で。
 
「短期決戦よ」
 
 鋼の技はまだ扱い慣れていない。だからこそわたしがああいえばトトが使い慣れている技を放つとわかっていた。
 忠実なわたしの騎士は、迷いなくハイドロポンプを射出した。

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