世界で一番嫌いなもの【sideミィレン】

■自キャラだけの話です。
 冬のプチイベントの後の話。

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 ”その名前だけは絶対に教えるな”

 どうしてこんなことになったんだったか。私は手元に集まった資料と情報と目の前に立ち塞がる性別不明の医者を眺めて、溜息をついた。

 事の発端は一人の依頼者が情報を求めてきたからだ。私の恩人の孫であるガラドという青年。彼は私に珍しく悪事が関係していないことで情報を求めにきた。その内容は、失踪している自らの血縁者がこの土地にいないか、というものだった。
 彼はそれ以上の詳細は話さなかったが、その表情と様子からして真剣なのだということはわかった。失踪している姉と兄の名前と外見的特徴を伝えられて、私は仕事に臨んだ。

 そしてわかったこととしては、失踪したという彼の姉は確かにこの土地にいたということだった。いた、なのだ。
 陰鬱な溜息を吐き出す。彼女の詳細はおおよそ十年程前から忽然と消えている。エリューズシティに一人の男性と共に移り住んだという情報を最後に、だ。この情報も探し回ってようやく見つけられたものだ。だからこそガラドに渡すには十分だろうと思うのだが、今現在ガラドの姉がどうしているかはわからない。
 こんな中途半端な情報を渡していいものかと示唆していた時に、お得意先である医者、ドティスが私の情報を勝手に見て、ああ告げたのだ。

「あなたね、勝手に情報を盗み見るんじゃないわよ。それでいてこれは私と客の取引。あなたは関係ないことよ」

 ドティスがガラドのことを気にかけていることは知っている。ドティスも私の客だからだ。こちらはドティスの要望通り、依頼人の守秘義務を守っているというのにドティスは他の客の情報を盗み見た。勝手に見られた私にも難はあると思うが、シンボラーとヨノワールのタッグを組んで不意打ちで盗み見られてしまえば仕方がない。
 とはいえ腹が立ったのでバトルを仕掛け互いに一体ずつ戦闘不能になり今に至るのだが。一旦バトルを終えたのはドティスが治療させろと激怒したからであり、本当におかしな医者だと思う。

「あの馬鹿が払う倍の金額を出す。それでいいだろうが」
「よくないわよ。彼は彼で必死で……」
「最悪の現実を突きつけるよりかは夢を見させていた方がいいだろうが」
「……答えじゃないそれ」

 苦々し気に呟いたドティスは私の前に宝石の詰まった小袋を置いた。これを受け取れば私はガラドに偽りを伝え、彼を裏切ることになる。情報屋としての信頼も矜持も捨てることになる。

「……ウーイー」

 私の呼びかけにすぐ傍に控えていたウーイーが飛び出す。威嚇のために噛みつかせれば、ヨノワールのエピビルの影で振り払わせたドティスが頭が痛そうに溜息を吐く。

「悪いけれど、こっちも情報屋としてのプライドがあるのよ」
「この頑固者の脳筋が……」
「あなたも人のこと言えないわよ」

 互いに距離を取り合図を放つ。意固地なのはお互い様だ。だが今回ばかりは私の方が間違ったことは言っていないと断言する。それがドティスのやさしさだとしても。それに、だ。

 私は何よりも、偽りが。偽られることが大嫌いだ。

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