優柔不断のさようなら【sideガラド】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テイさん、ルーミィちゃん
 
 
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 悔しい程に、清々しい負けだった。
 けれども真っ向勝負の力比べに技と機転のぶつかり合い。その何もかもが楽しくて嬉しくて、全員が同じように思っていると思っていた。
 
 だからまさかこんな状況になるとは微塵も思わなかった。
 
「指輪…っ、私だって、贈っ、た事ない、の、に…!」
 
 支えたままだったルーミィが不意に涙を溢れさせ始めた。その様に流石にぎょっとするが、もっと驚いたのは彼女が発した内容だ。指輪、指輪というのは思い当たるのは現状自分の所持しているキーストーンのことぐらいしか思いつかない。思いつかないが、しかし何故指輪をルーミィが贈っていないことを気にして泣き出してしまったのか。
 視線をテイとドティスに向ければテイは慌てた様子で、ドティスは額に指を当てて目を閉じている。二人に今ここで相談するのもこれまたおかしな話かと思い考える。
 まさかとは思うが、思い当たる理由は一つしかない。まさかそんな感情をルーミィが自分に抱いてくれるとは思っていなかったので驚き反面、____喜んでいる自分がいることは申し訳なく思う。
 
「……ドティ」
「何だ」
「これ、返すわ」
 
 これ、とドティスに差し出したのは先程使ったばかりのキーストーン、とそれが収まった指輪だ。共に旅をしていた時に俺にこれをくれたドティスは驚いた様子で俺を見返した。し、何ならテイもルーミィも驚いた様子で俺の行動を見ていた。
 
「盗まれたんだろう」
「せやけど」
「メガシンカをする相棒は俺にはもういない」
「それも知っとるけど」
 
 俺がドティスに出会う前、ドティスにはメガシンカが可能な手持ちがいたのだと聞いている。珍しい色違いのアブソルだったらしい相棒の名前はサリシンといって、互いの旅の目的を応援するために道を分かれたのだと。
 ドティスはそのサリシン以外とメガシンカを行うつもりは一切ないらしく、キーストーンは宝の持ち腐れだと、持っていたキーストーンをなくした俺にくれたのだ。
 
「彼女泣かせてまで、持っとるんは流石になあて」
 
 勿論ドティスの気持ちは嬉しかった。俺にとってキーストーンは当時なければならないものだったし、これのおかげで助かった場面も多々ある。けれども、大切な人を泣かせてまで所持するのは、俺には荷が重い。
 
「………勝手にしろ」
「おおきに」
 
 溜息をついてから、ドティスは指輪を受け取ってくれた。それに安心しつつも、どこか寂しく思う自分もいた。ドティスとの旅を終えた後も、あの指輪は心の支えの一つでもあった。共に旅をした人間が急にいなくなって寂しさで空いた穴を埋めるかのような、安心感も与えてくれていたのだ。
 でも、ドティスにはテイがいるし、俺にはルーミィがいる。二人を不快にさせないためにも俺がこのままドティスの厚意に甘える訳にはいかないと判断した。
 
 ドティスはテイの腕をひいて、その場から離れていく。気を利かせてくれたのだろう。俺は苦笑しながら手を振って、改めて支えたままだったルーミィを見下ろした。
 
「ごめんな、泣かせてもうて」
 
 何を言えばいいのかなんて、正直わからない。ただ、今俺に出来ることと言えることといえば所詮これだけなのだ。嫌がられたらどうしようかと不安になりつつも、彼女の涙を指先で拭った。

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