青は青がわからない【sideグリモア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん
 
 
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 頭突きによってキマリスの体はころころと地面へと転がっていく。きょとんとした様子で起き上がり額を撫でているところを見ると、そう痛くはなかったようで。ただ驚いただけなのだろう。
 その子を抱き上げて膝の上にのせて。ぽかんとしているその子をグリモアが撫でているとシュテルは夜空に黒い流星を放つ。本来の用途とは異なり、魅せる技として射出されたそれは美しく軌跡を描き空に舞い上がり、破裂する。大きな星が小さな星に砕けたかのように降り注ぐ様に、キマリスはわかりやすく目を輝かせた。
 もっと、もっと見たいと言いたげにグリモアの腕の中ではしゃぎ、小さな手を降り注ぐ粒子に伸ばしては手に取って、嬉しそうな声を上げる。
 
 キマリスはバトルが一番好きだと思っていた。けれども、実はそうではなかったと知ったからこそグリモアはあの時女性についていけばいいと言ったのに。キマリスは未だに自分の腕の中にいる。バトルしか出来ない自分の腕の中に。
 
 テラーはグリモアの頭を撫でながらやさしく語り掛ける。グリモアはそれを静かに聞いていた。こういったバトルが苦手なのだと聞いても、俄には信じがたい。だって今腕の中にいるキマリスはとても嬉しそうに粒子を手にのせてすり合わせて、先の空に想いを馳せるかのように空を見ては楽しそうにしているのだから。
 
 ふと、グリモアが思い出したのは自分ではない少女のことだった。
 
「……俺には、出来ない」
 
 あんな綺麗なものを生み出すことは、出来ない。根本的にまず綺麗というものを理解していないからこそ、どうやればいいのかなんてわからない。テラーは教えてくれるとは言ったが、わからないものを教えてもらっても理解することは出来ないし、それはきっと身に付かない。それは自らの時間だけではなくテラー達の時間の無駄にもなると思えた。
 グリモアの頭を撫でていたテラーの手が一瞬止まる。それでもテラーはやさしい笑みを崩さないまま、そっかと明るく言葉を零す。それはテラーなりの思いやりとやさしさなのだろう。
 
「……ある方がいい」
「?」
「興味がある子が、いる」
 
 酷く端的で、わかりにくい言葉選びだ。それにテラーも首を傾げて、それでいて催促することはなく言葉足らずなグリモアの言葉の意味を必死に理解しようと頭を回転させる。それをグリモアが知ってか知らないかは別として、グリモアは続けた。
 
「メイジー。多分好き」
 
 思い出したのは夏祭りでコンテストをじっと見つめていたメイジーの姿だ。あの時もだが、共に旅をするようになって好きなのかもしれないとぼんやりと思っていた。キマリスが好むような、綺麗な技の魅せ方を。
 
「あの子、多分。夜寝ちゃうけど」
 
 何もかもの言葉が足りていない。けれども、グリモアは言いたいことは言い切ったとばかりにキマリスの頭を撫でていた。
 
 
 
 
 美しい技を眺めて喜ぶ時もだが、グリモアの手で頭を撫でられる時はそれ以上の嬉しそうな表情をキマリスがしていることに。
 やはりグリモアだけは、気付けない。

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