やさしいゆめ【sideミィレン】
■回想でですがお借りしました:ダヴィドさん
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花屋の前を通りがかる。微かに雪が降る中伺えたそれに、言葉を失った。
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一緒にお出かけをしたいの、とそう告げたのは私からだった。誘った日はまあわかりやすくもバレンタインデーな訳で、自分が何を望んでいるかなんて彼にはきっと全て筒抜けだったことだろう。
それでも彼は少しきょとんとしてから、はにかんだように微笑んでくれたものだから。私は、嬉しくて舞い上がったのだ。
彼の横に並んでとりとめのない会話をした。何度も何度も。本当にどうでもいい小さな世間話を何度も、何度も。
彼から話を振ってくれたこともあったし、私は彼がしてくれる話が好きだった。私には知らない世界のことも彼は知っていて。だからこそ新しい世界の話が聞けるのは何よりも嬉しかった。
「ダヴィ」
「何だい?」
「……ええと、その」
雪が降る中、一度足を止めて彼を見上げる。やさしく微笑んでくれた彼にまた、みっともなく胸を高鳴らせながら私は用意してきたチョコレートを差し出して。嬉しそうにそれを受け取りつつも自分も準備していたのだと差し出された一輪の薔薇に、喜びのあまり言葉を失ったのだ。
***
手持ち達のために作ったチョコレートクッキー。それをあげれば、皆喜んで食べてくれた。ホアンシーはクッキーを持ったままくるくると回っていて、そのままこけかけてしまうものだから慌ててユワンが支えてやっている。
「?どうしたの?」
クッキーを持ったまま私の横にやってきたベイシャンに、あなたは食べないのかと問いかければ、その子は不意にぽろぽろと雫を零し始めてしまう。ぎょっとしてその子の涙を指で拭って、頭を抱きしめる。やさしくやさしく何度も撫でてやっていれば、少しは落ち着いたのかその子は顔を上げて私を見た。
「……ごめんね」
ベイシャンがどうしてあんな哀しそうな顔をして泣いたのかなんて、わかっている。あの日からずっと、ずっと、ずっと。私の代わりに泣き続けてくれているのは、この子なのだ。
「ううん、違うわね。ありがとう」
私の代わりに泣き続けて、壊れそうだった私の心を守ってくれた。分離化でもさせなければ、幸せな昼の夢でも見なければ狂って堕ちて、終わってしまいそうだった私を守ってくれたのはこの子。昼の時間だけでも辛い時を全て忘れて、ただ、ただ、幸せな女の子として生きる時間をくれた。
眠りにつけば昼の夢を見る。しあわせそうに笑って、世界に溶け込む少女の姿を。置いてきた、昔の自分の姿を。
「……滑稽ね。それなのに、ついてきてくれてありがとう」
しあわせな夢を見続ける愚かな自分。もうそれが戻ってくることのない、掴めることのない夢だと理解していて、私は昼を眠りに費やす。それが今の愚かな自分の心を守る、唯一の方法なのだから。
ふと、フォチーが警戒を露わに私を呼んだ。彼女があんな表情をする理由はたった一つしかない訳で。
ああ、また嫌がらせにきたのね。
溜息を一つ零して、余っていたチョコレートクッキーを自分の口の中に放り投げる。たった一つ余っていたそれはもう、全てなくなってしまった。
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