擬似の好奇心【sideムム】

■お借りしました:Eさん


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 ねえ、と声をかける。ボクの声に反応して彼女は振り返った。あの男の手持ちにしてはあまりにも珍しすぎる存在。やさしさを持ってリピスに接する彼女に。

『ムムじゃないか。どうしたんだい』
『Eは、お母さんなの?』
『……昔の話だけどね』
『そう。じゃあお願いがあるの』

 なんだい、と首を傾げたEの近くまで寄って見上げる。自分よりも遥かに大きな彼女は、関わる立場が違えば恐怖したかもしれない。

『撫でて欲しいんだ、頭を』
『……ん?』

 ぽかん、としたEの反応に、まあそりゃ急にこんなことを言われたらそういう反応になるだろうとも納得出来る。ただでさえボクはダイゴロウ達の手持ち達とはあまり話さないようにしていた。基本はよくわかっていないルルやササ、全てを理解しているゼブライカに任せてダイゴロウや彼の手持ち達とは距離を置いていたのだ。何故かってそんなの得体が知れなくて何をされるかわからないからに決まっている。

 そんなボクが何故急にこんな突拍子もないことを頼んだのかというと、好奇心もあるが、一番の大きな理由としては最悪なことにボクはリピスに嫉妬したからだ。
 だってそうだろう。リピスには両親がちゃんといて大切に育てられて愛情も受け取って。けれどボクは生まれてすぐに、"リピスのために"と母親とまともに接することも出来ず引き離された。
 ボクの母親はリピスをとても大切にしていた。それはリピスが母親のトレーナーの娘であることが理由となっている。だけれども、母の実の娘はこのボクなのだ。それなのにあの母親は実の娘ではない人間の娘を優先して、ボクを撫でてくれたことすらない。
 ボクは母親の愛を奪った人間の護衛としてずっとずっと生まれた時から働かされているだけ。だから母親の愛情なんてわからない。
 リピスの母親がリピスを撫でたり抱きしめたりしているのを見ても何も思わなかった。人間同士だからだ。けれども、ポケモンがリピスにやさしくするのを見るのは、酷く嫌だった。それが妬みからくる嫉妬だと気付いた時にはササをサイコキネシスでサッカーボール代わりにしたものだ。

『……変なお願いしてる自覚はあるよ。無理なら別にいいし。変なこと言ってごめんね、じゃ』

 ボクは背を向けた。やっぱりやめておけばよかった。そんな後悔がぐるぐると頭の中を何度も巡った。本当の母親でもない存在に擬似的なものを求めて、何があるでも無いのに。
 ああ、本当に慣れないことをした。

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