意地悪確信犯【sideサラギ】
■お借りしました:イチカちゃん
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吐く息が白い。この時期であれば当然の現象だ。
宿の外で煙草を吸い終わり室内へと戻ろうとした時、ついてきていたガラムが俺のコートを軽く咥えて引き留めてくる。
「……何だ」
ガラムはどこかそわそわした様子でこちらを見上げている。その尾も揺れていることから少しばかりの興奮状態であることが見受けられる。溜息を一つ。本当にお前もわかりやすすぎることだ。乱雑にその頭を撫でて、俺は中へと戻る。
時を数える針はもう頂点に二本とも届いていた。
***
コランダ地方の年末年始は自分達の故郷とは一風変わった催しだった。ロケット花火が町の至る所から打ち上がる様は普通に煩かったが、イチカは楽しんでいた。あそこまでの花火が打ち上がる様はそうそう見ることは無いから、珍しさは確かにある。
「サラギ」
買い物をしているイチカを遠目に見ていたが、声を掛けられて横に向かう。覗き込めばジュエリー類を見ていたことがわかった。
「どれがいいと思う?」
「どれも同じに見える」
「いつもそればっかり……」
そうは言われても実際にどれも同じに見えるのだ。形が違うだとか石が違うだとか、色が違うだとか。そういう違いがあることはわかるが興味が無いから目に入らない。故にどれも同じに見える、ただそれだけのこと。
「眼鏡つけた方がいい」
「この方が楽なんだよ」
「近眼」
「余計なもん見なくて済むだろ」
実際近視でよかったと思うことの方が多い。軽くぼやけた視界はどうでもいいものを自動で見えにくくしてくれるフィルターに他ならず、俺にとっては実に便利なものなのだから。
俺の言葉に僅かに表情を曇らせ、言葉を探すように口を噤んだイチカに何か勘違いをしてそうだとも思い、顔を寄せた。そうすればわかりやすく硬直するのだから、本当にわかりやすくて可愛いと思う。
「それに、見たいものはこんぐらい近付けばいいだけだしな」
「……あっそう」
逃げるようにそっぽを向いたイチカの耳を軽く撫でて、ジュエリー類に目を向けた。その中の一つが目に留まって、手に取ると同時に店主に頼んで支払いを済ませる。
イチカがこちらを向くよりも先に、彼女の耳へと購入したばかりのそれをつければ驚いたような声が鼓膜を擽った。慌てたように振り返った彼女の耳につけた赤が揺れる。白いリボンから水晶と共に垂れ下がった苺を模した赤の石。
「えっ、何……」
「誕生日おめでとう」
「………は」
「日付変わったら言おうと思ったら寝てたんだよ」
「……だ、からって、今……?!」
色々と言いたいことがありすぎて追いつけていない彼女の様子に、自然と笑みが浮かんでしまう。口元を押さえてそっぽを向けば拗ねたイチカが俺の身体を引っ張る感覚だけが伝わった。
***
イチカちゃんお誕生日おめでとうございます!
苺モチーフのイヤリングを勝手に贈らさせてもらいました。
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