光の色【sideゼブライカ】

■自キャラだけの話です。
この話【https://note.com/zeno/n/n6fb67ec31a08】のゼブライカ目線の話。

  
-----------------------------------------------------------
 
  
 感情の起伏には乏しい方だ、と仲間からは何度も言われた。私自身それを理解していたし、それを詰られていた訳でもなかったため気にしていなかった。
 
 ジムリーダーベリルがリピス嬢とバトルをしている姿を見ると、どうしても思い出してしまう。
 自らのはじめての主の姿を。我儘で傍若無人、それでいて臆病者の寂しがり屋な可愛らしい彼女を。
 彼女が死した後、彼女の手持ちだった私達はそれぞれが散ってしまった。
 ムムの父であるロズレイドはリリーに別れを告げて、ムムを連れて先に交換されていた私の元にきた。リピス嬢の義理の父親にあたり、クラードの親友にあたる彼の元に。
 バクフーン、ニドクイン、シャワーズ、エモンガ、アリアドス。他の皆は野生に帰ったと聞いた。その後のことは、分からない。
 けれどももしも彼等とまた出会えることがあるのならば、と私は微かな願いを抱いてしまう。
 
 主。貴女と彼にそっくりな奇跡の結晶、貴女達の愛しい子が貴女達の軌跡を辿る様を。貴女達の血を受け継ぎ前を見据え成長する姿を。
 皆とともに見守りたかった、と。
 
 雫が頬を伝った。小さな赤ん坊だったあの子はもういない。歩くことの出来なかったあの子はいましっかりと二本の脚で大地を踏みしめ、前を向いて笑っている。
 主が見ることの叶わなかった姿を、主の愛した仲間達とともに見守ってやりたかった。
 いいや、違う。こんなにも立派になったのだと、自慢してやりたかったのだ。それでいて褒め称えてやってほしかった、喜んでほしかった。
 私達が愛した主は、こんなにも素敵な宝を残していってくれたのだと。
 
『……ゼブライカ、泣いてるの?』
『ああ……そうだな、泣いている』
 
 ムムが驚いた様子で私を見上げた。ああ、母の愛を欲する君にも伝えてあげられたらどんなにいいだろうか。君を愛する父は、確かに生まれた時からずっと君の傍にいたのだと。
 しかしそれを伝えるのは私の役目ではないし、それを二匹が望まないのなら私が何か口出すのは野暮でしかない。
 
『……ゼブライカはさ、リピスを』
『私の感情は、少しだけ君達とは違うだろう』
『え?』
『しかし、根底は同じだろうよ』
 
 過程は違う。けれども私もムムも、確かに同じ感情を持っているのは確かだ。それをムムも理解しているだろうに、わからないよと嘯いてそっぽを向いた。
 
「トレーナーは、わたしは。ついてきてくれるこの子達を愛する者」
 
 リピス嬢の声が聞こえて、ムムの身体がぴくりと震えた。その先を聞きたくないとばかりに身を縮こまらせようとするからこそ、もう、それが答えだというのに。
 追撃するかのように言葉が降り注ぐ。
 
「わたしはこの子達を愛していることよ」
 
 トドメでしかない。ムムは唇を噛み締めて俯いてしまった。
 難儀なことだと思いつつ、こればかりはいつかはムムが素直になれるのを祈るしかないのだろう。
 今はただ、あの子が愛せる子であることを喜ぼうじゃないか。
 
 主。愛することに臆病だった貴女よ。臆病だった貴女の恐怖すらも剥ぎ取って愛を与えた彼のおかげで貴女は愛を知った。愛することを知った。
 だからこそ、貴女が愛を持ってはじめて名付けた娘は__しっかりと愛をもって育ったのだ。
 
 眩き光が、辺りを包み込む。その奇跡の光の色は進化の光であり、成長の光のようでもあった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?