真っ白な輝くパレット【sideレフティア】

こちらの流れをお借りしています。
 
■お借りしました:ミユキくん、タマちゃん


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 ミユキ君旅に出るんですって。育ててくれた母がどこか嬉しそうに告げるものだから、レフティアも自然と嬉しくなってしまう。
 ミユキはレフティアと同様、旅館を経営している家の子だ。その幼さにしてはえらすぎる程の働き者で心優しいその子とはよく他愛のない話をしたものだ。自分よりも随分としっかりした子であると思いつつも、もっと子供らしく自由に子どもらしく遊んでもいいだろうに、と心の中でひっそりと思っていたことはミユキには伝えていない。
 そんな彼が旅に出るというのだ。トレーナーになんてなれないと言われたと言っていたし、本人もそれを肯定するようなことを言っていた。けれどもレフティアはけしてそんなことはないと思っていた。何故なら――。
 ああ、よかったと彼の旅立ちにまるで自分のことのように喜んでいたレフティアだったが、母から旅立ちの日が今日だと聞いて。___小さな悲鳴を上げて慌てて家を飛び出た。



 家を飛び出た瞬間に雪を踏んで滑ったレフティアは苦笑を零すヴィティにすぐに背に乗せられた。ごめんなさいね、とレフティアもヴィティ同様に苦笑を零す。ヴィティに乗って駆ける途中、ミユキの祖母を見かけた。
 慌てて聞けばつい先ほど町を出たばかりなのだという。これはまずい。レフティアは慌てながらも礼儀正しくお辞儀をし、ヴィティに懇願した。
 彼に追いついて、と。
 

 走って走って、ようやっと雪景色の世界をパウワウを小脇に抱きかかえる後ろ姿を見つけた。大声を上げることは得意ではない。大きく息を吸い込むことが苦手だからだ。それでも思わず声を上げた。

「ミユキさま!」

 レフティアの声に反応してミユキが振り返る。ヴィティがミユキの横に並んだのはそれと同時で、彼は驚いた様子でヴィティと、その背に乗るレフティアを見上げた。勿論小脇に抱えられているタマもぽかんとした様子で見上げていて。
 ああ、と自然と笑みが零れてしまう。だってその表情が、どちらともあまりに似すぎていて。やっぱり自分の思考に違いはなかったとレフティアは自然と微笑みを零した。

「レフテアさ、ど、どうしたんですか」
「ミユキさまの旅立ちと聞きまして、いてもたってもいられず見送りにきてしまいました」

 驚かせてしまいましたね、と苦笑を零しながらレフティアはヴィティの背から降ろしてもらう。そして慌てて持ってきたビビヨンのせつげんの模様柄の巾着をミユキへと差し出す。
 不思議そうに巾着を受け取ったミユキに開けてください、とレフティアが促せば遠慮がちにだが巾着が開かれ、オレンの実とモモンの実が二つずつに、モンスターボールが三つ覗いた。

「これは……?」
「餞別ですわ。急いでいたので家にあったものになってしまいましたが……旅の役に立てばと」
「お、おら、こんなに貰えねえだ」
「わたくしからの我儘です」

 ふふ、と微笑んで巾着を手にすると、勝手にミユキの鞄に括りつける。ゆらゆらと揺れる巾着は縫物の練習に作っていたうちの一つだが、それでもレフティア自身は気に入った出来になっているものだ。
 あとは、とどうしても伝えたかったことをレフティアはミユキに告げた。

「ミユキさま、ミユキさまは昨日わたくしにこう仰いました。動作がゆったりだからこそトレーナーになれないと」
「う、うん」
「けれどもわたくしは、トレーナーになるのにそんなこと関係ないと思うのです。最も大切なものは……」

 ミユキの瞳から目を反らし、彼のこれからの相棒となったであろうタマに微笑む。その表情に、様子に、自分の判断は何一つとして違っていないことを再度確認する。

「ポケモン達と目と目を合わせて、呼吸も、心も、相手に寄り添って向き合ってあげることだと」

 彼が昨日発したトロい、というのは侮辱的な発言だ。しかしそれは捉える側の見方によって生まれる見解にすぎない。ゆっくりであるということは、他者のペースに合わせてあげられる程の心と器の広さと度量だということ。他者を思いやり案じ行動することが出来るということ。
 彼の何が劣っているというのだろうか。彼はこんなにも誇らしいほどに、優れたやさしい子だというのに。

「タマさまの懐いている様子から、あなたさまがトレーナーとしての素質を強く持っていることはは一目瞭然」

 だからこそ、ミユキはトレーナーとして相応しいとレフティアはずっとずっと思っていた。それをやっといえることがこんなにも嬉しいだなんて。
 勝手な見解、甘すぎる解釈だと言われればそれもまた仕方がない。しかし自分の思った意見はこうなのから、それでいい。

「ミユキさま、どうか謙遜なさらないで。あなたさまはとてもやさしくて素敵なお方」

 胸に手を当てて穏やかに微笑む。自分とて未だジムトレーナーになったばかりで右も左も、何もかもがわからず手探りな状態だ。けれども、新人トレーナーとして旅立つ彼には絶対にこう告げようと決めていた。

「だからこそ、この町であなたさまが挑戦しにきてくださるのを、一人のジムトレーナーとして……心待ちにしていますね」

 珍しく雪の降らない。陽のあたたかな日。旅立ちを祝福してくれているのなら、どうか今日ばかりはずっとそのままで。
 

 コランダ地方に輝きに向かうあなたへ。
 その真っ白な雪のような輝きが更なる色を映し込み、色鮮やかな虹色にならんことを。

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