成長を祈って【sideホアンシー・ミー】
▼こちらの流れをお借りしています。
■お借りしました:メイジーちゃん、ココくん、ララくん
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一目見た瞬間でわかってしまった。自分のはじめてのパートナー。その人が恋焦がれて求めた男性の血縁者だと。
それは即ち____天涯孤独だと思われていたミィレンの”二人目”の血縁者ということだ。
狂ったフリをすることは得意だ。私という存在はそういう存在だから。それなりに愛嬌を振り撒いて、少し意味をずらして答えて。ただただ楽しいことだけを追い求める。そんなフリをするのが、私はただ得意なだけ。
完全にお節介を発動させたミーの姿は、本来のミィレンの姿そのものだ。私以外誰も知らないミィレンの血縁者であろうあの子どもの歪さに不安になって、あんな風にバトルを申し込んだのだ。
本当に奇妙なことだ。ミィレンは家族を探してなんていなかったのに。彼女はただ孤児として生きてきて、自らを産んですぐに亡くなった母の姿すら知りやしないのに。
この地方にきて、二人の血縁者だと思わしき人間に出会ってしまうなんて。
***
「じゃあ決まり!君達なんてお名前?」
「め、メイジーです」
「……グリモア」
バトルを挑まれれば断る理由なんてないグリモアは既に出すポケモンを考えてボールを構えていたが、それを見たミーはんーんと首を横に振った。
「その子と、その子ね」
そしてわざわざ戦う相手を指名してきたのだ。ミーが示したのはココと、キマリスだ。ココは自らバトルを志願して、メイジーもそれを受け入れたのだから当然の流れだ。しかし何故グリモア側の手持ちはキマリスをと指名されたのか。グリモアにはわからない。
それでも指名されればキマリスはバトルが出来る嬉しさから飛び跳ねて前に躍り出る。オロバスを出そうとしていたグリモアはその様子を見て仕方ないとばかりにボールを懐に戻した。
「ふふ。あっちの方行こうね」
ここは人が多く狭い場所だ。祭りに迷惑をかける訳にはいかないとミーは祭りの会場から少し離れた箇所を指差した。
場を移して、ミーは腕に抱いていたホアンシーをバトルフィールドに出した。ミーが出したのは一匹だけだ。
「ホアンシー、楽しんでおいで」
「二体一ですか……?」
「うん!大丈夫大丈夫」
問題ないとばかりに笑うミーの様子にメイジーは本当にいいのだろうかと不安もありつつも安心をするが、一方でグリモアは若干の不快さを感じていた。それは即ちこちら側が弱いと言われたようなものだ。
審判を司るかのように間に立ったのは先までステージに立っていたユワンだ。その横にララとベリトが見守るように並ぶ。ベリトは羨ましそうにキマリスを眺めていたが。
ユワンは両者を見下ろしたあと、小さい火を吐き出した。それが開戦の合図だとばかりに弾けて、一番に動いたのはキマリスだ。先のミーの発言で舐められたと思っていたキマリスがじっとしていられる筈もなかったのだ。そしてそんなキマリスの様子を見たココもつられて後を追ってしまう。
「こ、ココ!待って?!」
「あはは、そうなっちゃうかあ。ホアンシー」
慌てたメイジーと、何も言わないグリモアを見てミーはどこか納得したように笑いながら手を叩く。その手の合図に合わせてホアンシーも手を何度か不規則に叩きながら、くるくると身を揺らめかせた。不規則で不安定なステップ。けれどもどうしてかそれから目を反らすことが出来ず____目が回る。
目を回しその場に躓いたキマリスの上に、同じように目を回したココが落下した。
「えっ……?!何が今……」
「フラフラダンス」
「……って何……?」
依然として慌てるメイジーの横で淡々とグリモアが呟く。その声にミーは大当たり!と笑顔を浮かべた。
「フラフラダンス、自分以外の子をこんらんさせちゃう技だよ。可愛いでしょ」
「こんらん……」
「ポケモンバトルでは状態異常も大きな戦略の一つ!こんらんしちゃった子はトレーナーの指示を聞きづらくなっちゃう」
だから二対一で問題ないよとミーは告げたのか、とグリモアは内心で考える。フラフラダンスは使用ポケモン以外全員が対象の技だ。だからこそ、一匹の方が動きやすいのだろう。
「メイジー」
「?これ何……?」
「キーのみ」
キーのみ、とグリモアはメイジーにそれを渡したが、それが何の効果を持つのか旅に出たばかりでバトルに慣れていないメイジーが知っている訳もない。かといってグリモアが詳しい説明をする訳もない。そういう子どもなのだ。
「ポケモンのこんらん状態を治すきのみだよ。持たせておけば、自分で食べることも出来るね!」
「そ、そうなんだ……」
「使ってごらん」
楽しそうに促すミーにメイジーが頷いてココの方までキーのみを投げれば、その子は目を回しながらも器用にキーのみを口にする。揺れていた身体が落ち着き、再びココが羽ばたいたことで混乱状態が治ったのだと理解が出来る。
「キマリス」
同様にキーのみをキマリスに使っていたグリモアは混乱状態が解けたばかりで動揺していたキマリスに呼びかける。はっとした様子で振り返ったキマリスに、グリモアは淡々と告げる。
「焦りすぎ。突っ込まない」
はっとした様子でキマリスがこくりと頷き、再び正面を見遣る。その様に、どうしてかミーは満足気だった。
***
バトルの結果はというと、途中で終わる形となった。何故ならミーの方から中断の声が上がったからだ。ホアンシーがアッパーという形のかわらわりをココとキマリスに喰らわせた辺りで。
中断とはいえ、ミーの勝利は見えていた。それなのにバトルを止めたことがグリモアには理解が出来なくて、はじめてのバトルに緊張でいっぱいいっぱいだったメイジーには何かを考える余裕すらない。
「君」
「……」
「その子は、君がいいんだよ」
キマリスを見てから、グリモアを見下ろしてミーはその額を指で弾く。きょとんとした様子で自分を見上げてくるグリモアに再び笑顔を浮かべて、今度はメイジーの方を見下ろした。
「はじめてのバトルお疲れ様。よく出来ました!」
アッパーを受けてくらくらしていたココを抱き上げていたメイジーの頭を整えられた髪が崩れない程度に撫でる。そんなミーの横でホアンシーは相変わらずふらふらしながら手を叩いていた。まるで新人トレーナーの門出を祝う拍手を送るかのように。
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