無【sideグリモア】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:テラーさん
 
 
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 強く髪を引っ張られた瞬間、条件反射とばかりにグリモアはフォカロルの鱗を研ぎ澄まさせて作ったナイフで自らの髪を切り落とした。
 引っ張っていたものが急に千切れたことで髪を掴んでいた女は情けなくその場に手をついた。今が好機だと、ナイフではなくフォカロルが入ったボールを女に投げつけられたのは____グリモアが他者を傷つけることの面倒くささを理解していたからだろう。
 
 呪われた子は、やさしいこではないのだから。
 
 
***
 
 
 テラーに言われた言葉にグリモアはどうしたものかと悩む。旅のこと、と言われて色々と考えた結果、コランダ地方に来るまでのことは特にあまり覚えていないのだ。なんとなく思い出すことは出来るが、フォカロルからはあまり話さない方がいいとも言われているし、無関心すぎてああ、あんなこともあったな程度にしか覚えていない。
 知りたいと言われたとしても自らのことで語れることも特には無い。悩んだ結果、グリモアは膝の上にのせていたキマリスを抱き上げてテラーの顔の前にキマリスの顔を運ぶ。
 勿論テラーはきょとんとしていて、キマリスはきょとんとした後楽しげに笑顔を浮かべた。
 
「…………俺のこと、わからないから。手持ちのことなら」
 
 そう告げればキマリスは楽しそうに先までグリモアの髪をやさしく掬ったテラーの指を握って笑う。
 その指先を眺めながらグリモアは昔のことを思い出す。いうならば悪人と呼べる人間がこちらを騙そうとしてきたこと。それから逃げようとした際にグリモアの髪を掴んだこと。
 テラーが先程掬ったものは掴まれなかったあの時左側の髪の毛であり、あの時右側ではなく左側の髪を掴まれていたら、今テラーが掬っていたのは逆の髪になっていたのかもしれない。
 自分が受けた嫌な体験だというのに、それすらもグリモアは嫌だとは思わない。というか、何とも思わない。どこまでも自分のことを他人事のように、グリモアは眺める。
 
 ああ、でも。あの出来事と女にだけは一つだけ感謝していることがある。あれのおかげで無関心ではあれど、悪意にだけは気付けるようになったのだから。そう思えば切れた髪の一房も、受けた痛みもいい教育料だったのかもしれない。
 そんなことを、考えていた。

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