そして色が変わる【sideリピス】

■お借りしました:ダイゴロウさん、Eさん


------------------------------------------------------------


 差し出されたしんかのきせき。それと告げられた言葉に、まあ珍しいこともあるものだと感心の方がまず上回ってしまった。
 ユメキチが口にした言語はわたしは齧ったことしかないものだ。けれどもそんなにもお決まりな台詞は誰だってわかる。わたしが驚いたのは、彼がわたしの誕生日を覚えていたことだ。
 ああ、けれども報酬には現金な彼だ。これもそういった意図が含まれているのかもしれない。わたしにお菓子を進めてくれているEの表情と全然違うからこそすぐにわかる。

 大きな手。わたしの小さな手なんて簡単に覆えてしまうそれは、いとも簡単に手折ることだって出来る。その手はわたしを抱き上げることが容易で、わたしを落とすことだって造作ない。

 "どんな風に進化する(育つ)か気になった"

 それはつまり相応しく育たなければ面白くはないということだ。
 わたしは理解している。このユメキチという男がいとも簡単に掌をひっくり返してしまえる人間だということは。
 その中途半端な危険性を理解していて、それでいて彼を横に置いている。
 何故かって、理由は簡単だ。

 わたしが強くなれるからだ。

 わたしの手を握るその手を握り返しにっこりと笑う。

「わたしもユメキチもリアリストでしょうに」
「おいおい、今まさにロマンを語ったところだってのに」
「リアリストだからこそロマンチストなんでしょう」

 夢見るだけなら進化の先なんて気になりやしない。結果を求めるからこそ進化が起こるのだもの。
 しんかのきせき。それは果たして本当に奇跡なのかしら。わたしは、ずっとずっと軌跡だと考えているわ。

「いいわ、ロマンチストの夢を叶えてあげる。精々わたしの手足となりなさい」
「用心棒は手足じゃねェんだけどなァ」
「そういうところよ」

 ユメキチから渡されたしんかのきせきを一撫でし、ケースを閉じる。
 次に見た時は、来年には何色に見えるのだろう。それもまた成長していく、歳を重ねる楽しみの一つとなるのだろうか。そんな風に考えるのも楽しいかもしれない。

「ユメキチ」
「ん?」
「ありがとう」

 ふふ、と微笑んでわたしはユメキチの手を離してEに向き直った。純粋にわたしを祝ってくれている彼女に抱きつけば、やはりやさしく抱きしめ返されるものだから幸福な笑みが零れた。

 Eがくれたお菓子を口に含めば、あまいあまい、やさしい味がした。



------------

3月2日、リピスお誕生日おめでとうの話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?