資格がなくとも【sideリピス】

こちらの流れをお借りしています。

■お借りしました:ロニーくん、メイジーちゃん
 
 


 
 
 思い出す。はじめてポケモンを孵した時のことを。その可愛さを、その愛おしさを。
 後悔する。あの子を悪意からまもれなかった時のことを。あの苦しさを、あの苛立ちを。
 
 
 
 
 
 
 ポケモン達の姿は見つからないものの、卵だけは集まっていく。それぞれ卵を抱き上げながら博士の元まで向かいながら他愛のない雑談を行った。
 
「ココはメイジーが孵したのね」
「う、うん」
「わたしの探してる子のうちの一匹と同じだわ」
「お揃いさんですね」
 
 紳士さんの言葉にええ、とわたしは頷く。最も、メイジーから聞く限りではお互いが孵した子の性格は全く違うのだろうが。
 
「とても甘えん坊でね、可愛いのよ。もう一匹に関してはノーコメントとさせて頂くけれども」
「えっ……?」
「ノーコメントとはこれまた……何故ですか?」
「問題児だから」
 
 ルルはおそらく本当に単純にはぐれたのだとわかる。しかしササは絶対にそんな訳がない。大方わたしから”御褒美をもらえないこと”に不満になり、”他に御褒美を求めに行った”のだろう。
 とはいえあの子が求める御褒美なんてそうほいほい他人から搾取していいものではない。そのためササはササで早く見つけ出さないといけないのだ。
 
「そうだわ、紳士さん」
「はい、何でしょう?」
「演劇か何かの問いかけには近からず遠からず、だったかしら」
 
 少しばかり前の話だ。彼に一度問い掛けた際に返された答えを口にすればきょとんとした後にはい、と微笑みが返される。
 
「ねえメイジー」
「えっ、う、うん、何?」
「さっきのクルークの花火とても綺麗だったわよね」
 
 同意を求めるようにメイジーに話を振れば、顔を赤くし慌てながらも何度も頷きが返される。先程も思ったのだが、首は痛くなったりしないのだろうか。
 
「ムムへのプレゼントも考えたら、ひとまず有力候補は一つかなと思ったの」
 
 打ち上げられた花火。それに用いられた技の魅せ方に、指示出しのこだわり。迷子を探すための手法、発想力の転換。
 
「わたしはそれが開かれていない地域の生まれだから、直接見たことは無いのだけども」
「なら……答えを聞いてもいいですか?」
「え、嫌よ」
 
 はっきりと告げれば、どうしてか紳士さんだけではなくメイジーまでが間の抜けた声を零す。その反応にわたしの方が逆に首を傾げてしまった。
 
「やっぱり謎は解かれるまでが一番楽しいでしょう?」
 
 知識を得ることが好きだ。考えることが好きだ。だからこそこの祭りの期間中、解を考え続けることが最も楽しいと判断した。
 それに何より。
 
「それにわたし、名前は本人の口から直接聞きたい派なの」
 
 勿論そこにユメキチやスウィートらは含まれないというか論外だ。彼らは絶対に名乗らないことがわかっているからこそ暴いた。けれどもあの二人と、今目の前にいる二人は全然違う。
 年相応の子どもらしくあることを許される時間は背伸びなんかせずに、わたしとてそれなりでいたいのだ。
 祭りが終わるまでこうして他愛のない時間を過ごしたいというわたしの、ただの我儘。
 
 不意に、トトの方から驚いたような声が上がる。反射でそちらの方を向けば、トトが抱えていた卵に罅が入り始めているではないか。慌てふためくトトを宥めていると、亀裂がどんどんと大きくなっていく。
 既視感。そこにあったのは間違いのないそれだ。次いで思い出すものはその後のことで。
 
 泣いて震えるあの子にわたしは何度も謝った。
 
 は、とする。気付いた時にはわたしはその子と目が合っていた。
 星の煌めきを思わせる模様の瞳。小さな産声を上げて頭に卵の殻をのせながらも、その子はしっかりとわたしを見上げていた。
 そしてあの時のルルのように、生まれて初めて見たわたしを親と思ったのか短い手足をこちらへと伸ばしてくる。
 
 もう二度とわたし、卵を孵したいなんて思っていなかったのよ。だってわたしは失敗したから。今だってあの子を見失っている、最低なおやだから。
 それでも、やっぱり駄目ね。こんな風に愛らしい声と瞳で求められたら、抗えないわ。
 
「ナックラー……」
「リピスさんのことをおやと認識しているみたいですね……?」
「ええ、そうみたい」
 
 二人の声に返事をしながら、トトの腕の中でこちらに前足を懸命に伸ばすナックラーの頭を撫でた。
 こうなってしまったら仕方ないわよね。博士に対してか、自分に対してか、それとも本当のこの子の親に対してか。
 それはきっと、全てにだ。
 
「お誕生日おめでとう、ビビ」
 
 ナックラーの最終進化は何だったか咄嗟に思い出せなくて、かろうじて思い出せた第二進化の姿のビブラーバからNNをつける。わたしの呼びかけが自分に向けられたものだとはすぐに気付いたらしい。
 その子は嬉しそうにはしゃいで、わたしの腕の中に収まった。
 
 
 
 
 
 
 やり直しの機会だなんて思うことすら、烏滸がましい。
 けれども、今度こそ失敗したりなんかしないわ。
 
 
 
****************
 
*新しく手持ちに加わったポケモン

■ビビ:ナックラー♀(モンスターボール)
【性格】おくびょう
【特性】かいりきバサミ

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