流れ星は流れない【sideミィレン】

■自キャラだけの話です


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 空に浮かぶ満天の星。百点満点ともいえるその美しさに目が奪われ、見惚れ。言葉を失ってしまった。こんなにも美しいものがあるというのか。こんなにもこんなにも、こんなにも、心が高揚するものはあるのかと。
 私の腕の中でアイも同様に空を見上げて、言葉を失っていた。かと思うと私の視線に気付いて、ぱあと明るく無邪気な笑顔を浮かべる。私達同じことを考えているみたいね。

「アイ、アイ。とっても綺麗ね」

 こっそり抜け出してきちゃったからマザーには怒られてしまうかもしれないわね。でも、こんなにも美しい夜空を見逃してしまっていた方が寂しくて悲しくて、勿体ないわ。
 私の言葉に同意するようにその子は頷いて、澄んだ鈴の音を響かせた。


***


 酷く星夜が美しい夜だった。

 酒場にて偶然にも再会を果たした、馬鹿な青年は私のことをちゃんと覚えていたらしい。私の視線に気付くと苦笑を零しながら私の横に座った。

「こんばんは」
「お久しゅう」
「疲れた顔ね。一杯奢ってくれるなら話を聞いてあげてもいいわよ?」
「いやー……後が怖いっすね……」

 賢いこと。ガラドは苦笑を零しながら、私の分も注文を行う。ということは、だ。視線を向ければ彼は疲れきった顔で私に一枚の紙を差し出した。注文した酒が届くまでの間に内容を改めて、店内を彩っていたランプの火に接触させる。ふつふつと燃え上がったそれを灰皿へとおけば、何も無かったかのように消えてしまった。
 それが焼失したと同時にマスターが流したグラスが二つこちらへ滑り、二つともに受け止めたガラドは一つを私へと差し出した。

「ふふ。私の好みを覚えていてくれて何よりだわ」
「お褒めに預かり光栄で」
「舌も潤うわ」

 にこり、と微笑んで了承の意を示す。求める情報を渡してあげようじゃあないか。

「……私に語る事が出来るのは今宵はここまでね」
「おん、助かりましたわ」

 彼が求めた情報を話し終えて、グラスの中に残っていた酒を飲み干す。しっかりと対価を払ったからこそこちらは情報を渡したというのに、彼は悪人に相応しくない笑顔で頭を下げた。
 本当に、愚かな事だ。奪ってしまったポケモンのトレーナーが今いる場所が知りたいなどと。そんな愚かなことに加担して、心を痛めていることも愚かに他ならない。しかし彼が好んで悪事を行っていないことだけはわかるものだから、本当に困りものだ。恩人の孫との関係がこんな最低なビジネスだなんて。

「いいわよ。あなたの見る目は悪くないもの。また奢ってちょうだいな」

 他のどうでもいい人間であれば深く踏み込むことはせず、やさしい言葉とて悪人にはかけやしない。それでも私が彼に甘くなるのは恩人の孫だからという側面が強い。しかも悪人になりたくない悪人なのだから余計だ。
 私の言葉に彼は苦笑を零し、自分の分の酒も飲み干すと早々に酒場を出ていった。

 彼が酒場を出ていった際に扉から見えた夜空。その星々の美しさに、あの子の姿を思い出す。
 楽しそうに無邪気に明るく笑ってくれていた私の最愛の子。

 私の腕の中で、またその鈴の音を響かせて。

 願いを抱き、決意を改めて私は次の客の相手に回った。

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