【習作】霊能系現代モノ

「はぁ~……そろそろ仕事しなきゃダメか」

 石火矢雷雨が祓い屋業を再開したのは、預金残高が底をついた一週間後だった。
 彼から連絡を受けた里中聡志は、久しぶりに訪れた彼の事務所の汚さに、「うわ」と小さく声を漏らす。
「石火矢。掃除くらいはちゃんとやれよ」
「俺、そういうの向いてないからさぁ」
「向いてるかどうかの話じゃないだろ。依頼人が来るんだ、話の出来る状態にしとけ」
 里中に言われた石火矢は、「はいはい」と答えながら、ソファに散らばったゴミを床の端へ退かす。
 座る場所くらいは作ってやろう、という心積もりなのだろうが……
「有り得ん。手伝ってやるからもう少しちゃんとやれ」
「聡志手伝ってくれんの? 優しい~」
「お前……いいから、適当な袋寄こせ。ゴミ詰めるから」
 謀られたか?
 里中は疑ってから、そんなわけないなと内心で呆れる。
 つい手を出してしまうのは、自分の悪い癖だ。

(なんだかんだ言って、面倒見る理由が欲しかったんだな、俺は)

 幼馴染の弱み、とでも言うのだろうか。
 里中は小さい頃から、石火矢の事を放っておけなかった。
 そのせいで結果、こんな世界・・・・・にまで手を出すことになってしまった。
 放置されたペットボトルのラベルを剥きながら、はぁと里中は息を吐く。
 決して、後悔してるわけではないのだが……
 これで良いのだろうか、としばしば考え込んでしまう。

 怪異の現場は、ある彫刻家のアトリエだった屋敷だ。
 その彫刻家が無くなった後、孫娘が遺品の整理をしようと屋敷を訪れた時、怪異は起こった。
 彫刻が動き、孫娘を襲ったのだ。
 事前に聞いた話の通り、屋敷の中には、人の形をした彫刻が無数に放置されている。

「こうも彫刻だらけだと、不気味だな」
「でも、良い出来じゃん? これとか俺好きだわ」
「俺には全く分からん」

 石火矢はそれらの作品に感じる部分があるようだが、里中には分からない。
 何が良いのだろう、と疑問に思いながら、里中が彫刻の一つに手を伸ばすと。

 ぐわり。
 鈍色の彫刻が動き出し、その手が里中の腕を強く、掴む。

「ぐっ……クソッ!」
 彫刻の力は強く、振りほどけない。
 ならばと里中がもう片方の手で腰に手を伸ばした所で、ギュイン!
 光の弾丸が、里中を掴む彫刻を砕いた。
「大丈夫?」
「すまん、助かった」
「気にすんなって。あーでも、引き金分かったわ」
 ふぅ、と石火矢が銃の形にした指先に息を掛ける。
 それから彼は、指の銃口をまた別の彫刻へ向けた。
「壊してOKなんだよね? 数多いし、聡志も頑張ってね」
「当然だ。俺だって少しは……」
 答えながら、里中は腰に提げた警棒を抜く。
 呪符を巻き、霊力を付与した警棒だ。これを使えば、霊力の無い里中でも多少は戦える。
(まぁ、これなら鉄バットでも良さそうだが!)
 ガィンッ! 力づくで振り下ろした警棒で、里中は彫刻を砕き割る。
 霊体ならともかく、実体のある怪異ならバットの方が振り馴れていたのだが。
 伸ばされる腕から距離を取り、斬り払うように警棒を振るう里中。
 その頬のすぐ横を、石火矢が放つ霊力弾が掠める。
「危ないだろ!?」
「ちゃんと気を付けてるって」
 ヘラヘラと笑う石火矢に、はぁと里中は嘆息する。
 嘘は言っていないのだ。彼なりの気を付ける、だが。
 そうして、二人であらかたの彫刻を壊した後で、里中は石火矢に問う。

「今回の怪異の引き金、なんだったんだ?」
「決まってんじゃん。自分の遺した作品を守りたかったんでしょ」

 ねぇ、と石火矢は中空に向けて呟いた。
 里中が視線の先を追うと、そこには黒い靄のような何かが見える。

「でもさ、こういうのはダメでしょ。アンタの作品、ただの怪異になっちゃうじゃん」

 その靄はきっと、依頼人の祖父なのだろう。
 石火矢の言葉に納得したのか、ただ力を失ったのか……
 ふわりと風に消えた靄を見て、石火矢は「よーし」と腕を伸ばす。

「お仕事完了! なぁ聡志、帰りなんか奢って?」
「なんでだよ。その前に壊したコレ、少し片づけてくぞ」
「えー……。ま、いっか」

 嫌な顔をする石火矢だが、意外と素直に頷いた。
 里中は不思議に思いながらも、早速掃除用具を探しに向かう。
(しかし、作品を守りたかった……ね)
 壊す以外に、方法があれば良かったのだが。
 けれど怪異となってしまった以上、求められるのは迅速な解決だ。
 苦い気持ちを抱きつつ、掃除用具を見つけた里中が石火矢の元に戻る。
 すると石火矢は、砕けた彫刻の一部を拾い、じぃと見つめていた。

「……俺は、忘れないでおいてやるからさ」

 誰にともない呟きに、里中は「ああ」と思う。
 だから掃除嫌いの石火矢が、簡単に後片付けを了承したのか。
 理解した彼は、けれど何も言わずに、石火矢と共に砕けた彫刻を拾う。
 せめてここに作品があったことを、自分たちは忘れずにいよう。
 それが供養になるのか、里中にはやはり、分からないのだが。


この作品はPBWプラットフォーム『アルパカコネクト』用に作成したサンプルノベルです。但し世界観はサンプル用の螺子巻オリジナルとなります。

https://alpaca-connect.com/creator/3/660/


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