運が良けりゃ

山田洋次は「男はつらいよ」を撮り続けるようになる以前、ハナ肇を主演とした『バカが戦車でやってくる』や、『バカ丸出し』といったような「バカ」シリーズを連発していた。

この作品『運が良けりゃ』は、そう言った一連のシリーズから派生した時代劇なのであろうか。それも落語の代表的な演目を織り交ぜて構成してあるようだ。

まずこの作品、オールセットという点か素晴らしい。

特に主人公のハナ肇演じるところの熊をはじめとする長屋の住人が住む長屋が最高で、長屋というよりも貧民窟。この貧民窟を再現している松竹の美術さんたちの力量は、職人技と言えるものがある。

この長屋がいわゆる裏長屋という形式のもので、往来に面した表通りには様々な問屋などの大店が軒を並べている。その大店の裏にへばりつくようにして、長屋、貧民窟が立っている。

で、この作品の場合、長屋の大家が往来に面している反物屋で、ここの道楽息子、砂塚秀夫はなぜかハナ肇をはじめとする貧乏人たちとつるんで遊んでいる。

ハナ肇と犬塚弘演じる八は左官職人。他の連中もクズ広いなどのその日暮らしの職業。さらに長屋の中には座頭のあん摩がいたり、おかん婆という長屋の連中に高利貸しをしている婆さんがいる。

その熊も女房に愛想を尽かされ出て行かれ、今は息子のたー坊と妹のおせい、倍賞千恵子と貧民窟で暮しているのであった。

雨が三日も降れば人足、職人が干上がるのが昔の常で、長屋の男どもは女たちが内職をしているのをよそに酒を飲んだり、ふて寝をしたりしていた。そこへ反物屋の若旦那が現れる。

「よし。ちょうどいいのがきたぞ」

「ちょうどいいのってなんなのさ」

「なーに。全部俺に任せておけよ」

そう言うなり熊をはじめ長屋の男たち&若旦那は料亭にくりこんで女郎を呼び、どんちゃん騒ぎを展開させ、

「酒だ!酒だ!酒だ!とにかくうまいものじゃんじゃん持ってこーい!」

と言ったり、三味線の音に合わせて踊り狂うのであった。

朝。

熊たちが起きると、番頭の藤田まことが、

「お勘定ですが」

と言って現れた。

「お土産にうな重と揃いの半纏ということことなので、こちらも用意させていただきました」

「おう。誰か財布持ってねえか」

顔を見合わせる男たち。

「棟梁。すいません。俺が忘れてきちまったんだ」

と犬塚弘。

「なに!このやろ!」

「お客さん。それは困りますな」

「いや。慌てることはねえんだ。きょうは大事な上棟式だからってよ。金をさんざ使っちゃいけねえから持ってこなかったっていうことだけなのよ。ちょいと馬用意してくんな」

「馬ですか」

「早馬のことよ」

「じゃああたしがお供します」

一同、藤田まことの顔を見て、

「あっははは。こいつはいいや」

そのまま堀割りのところまでやってきた一同、立ち小便をしようと言い出す。

「どうだい番頭さんも一緒によ」

「いや。わたしは出てくる時にやってきましたから」

「人情だと思ってよ。ちょっとぐらい出るんじゃねえのか」

「じゃあ。ちょっとだけ」

そう言って藤田まことが列に並ぶと、連中はそのままやつを堀割りに突き落とし逃走した。

上機嫌に長屋へ帰ってきた男たちは、熊をはじめ、

「さあ。土産持ってきたぞー。飯、まだ食ってねえんだろー。うなぎだ!うなぎだ!」

と、はしゃいでいたが、八の家ではそれどころではなかった。

夫婦喧嘩が絶えなかった女房が、八に愛想を尽かし他の男と駆け落ちしてしまったのだ。

天井の梁に紐をかけ首吊りをしようとしている八。

「へへん。やれるものならやってみな。どうせ腐っている梁だ。そのまま落ちてくるのが山だぜ」

「ちっくしょう!」

八が紐に首をかけ、そのままブラ下がると、本当にそのまま梁が落下してきたのであった。

そんな騒ぎもあった。

おかん婆は夜中に銭勘定するのが楽しみであった。

それをそっと覗き見ている長屋の女。そこへ座頭が帰ってくる。女は座頭の袖を引っ張り、おかん婆の様子を覗けとゼスチャーで教える。

それに気づいたおかん婆。

「めくらが人の家覗いて何が見えるんだーっ!」

逃げ出した二人であった。

この長屋には肥取りの親子がきていた。

父親の左卜全はもう自分は歳だからだと、これからは息子の田辺靖雄を寄こすという。その田辺が肥取りに来るたびに、倍賞千恵子は何となく彼のことが気になっていたのであった。

しかしそんな頃、名古屋方面の大名である青びょうたんみたいな顔をした安田伸は、籠に乗っている時、長屋の木戸に立っている倍賞千恵子を気に入り、側室として迎え入れたいと言い出した。

そして、その使者が花澤徳衛の元へやってきた。

花澤徳衛は長屋の大家であったが、雇われ大家であって、長屋を所有している反物屋からは長屋の連中から家賃を取ってくるように言われ、長屋の連中には口を酸っぱくして家賃を払え、払えと言っても一向に払ってもらえないもどかしい立ち位置にいた。

そんな花澤徳衛のところへ名古屋弁訛りの武士が現れ、倍賞千恵子を殿の側室に迎えたいと言われたものだから仰天してしまい話を熊のところへ持って行った。

話はあっという間に長屋の連中に広まり、熊のところへは大勢が集まってきた。花澤徳衛が、

「熊、よく聞けよ。これはすごいことなんだぞ」

と言っても、当の熊はなんの話なんだがよく分からない様子。

「お前がだよ。お大名の兄上になれるんだぜ。こりゃ年に100石は固いよな」

「なんで100石が俺のところへ入るんだよ」

「だから」

何がなんだかわからないまま、裃を着させられ、大家の乗る籠と一緒に大名屋敷に向かう熊であったが、すれ違いざま倍賞千恵子と会い、

「お兄ちゃん。どこ行くの?」

と聞かれ、

「急いでるんだ。訳は長屋のみんなに聞いてくれ」

と答えた。

倍賞千恵子は長屋のみんなからことの仔細を聞きご立腹であった。

「なんだい。大名かなんだか知らないが、頭ごなしに人のことをお妾にしようなんて失礼にもほどがあるよ」

「でもよお。いい話だと思わねえかい」

そんなやり取りをしていたら、花澤徳衛と熊が長屋に帰ってきた。

そして花澤徳衛は疲れ果て、熊は手と足を縛られ、口には猿轡をつけられていた。

「本当にこのバカ。お屋敷まで行ったのはいいが、飲みつけねえ高い酒を飲んだ途端、俺の妹は妾になんかさせねえぞーって言って暴れ出しやがって。向こうではこんな外道な兄貴がいたんじゃ、この話はなかったことにするって言い出して。こんな兄貴を持ったぱかりに不憫だぜ。なあ、おせいよ」

おせい、倍賞千恵子はみんなに背を向けて、少し笑いながら涙を見せていた。

田辺靖雄のこともあったし、熊が話をご破算にしてくれたことが嬉しかったのだ。

このハナ肇の兄と倍賞千恵子の妹という設定は、このあとの「男はつらいよ」に継承されて行ったのではないだろうか。

ガサツもので騒動ばかり起こしている兄と、少し利発な妹という関係が、それを連想させる。

一方、若旦那のほうはというと自宅に軟禁状態にされていた。

長屋のこ汚い連中と女郎を買いに行ったということで、柱に縛り付けられていた。だが時には番頭に金をせびり、

「そろばんをパチクリすりゃいいだけの話じゃないのさー」

とも言い。実はその番頭と母ができているということも知っていた。

その母が妹と香道なんかやって香木の匂いを嗅ぎ、

「いい匂いだこと」

なんてやっている時に、長屋から糞尿の匂いが立ち込めてくると床から転げ落ちて爆笑したこともあった。

夏になると長屋の衆は総出で井戸の掃除をし始めた。

それは井戸の水を一度総ざらいするもので、滑車を付けた縄をみんなで引っ張り、水を外へ掻き出す作業だった。この時、みんなが大きな掛け声を出すので、若旦那の母はこれにも渋い顔をしていたが、若旦那はこれにも爆笑していた。

「みんな。スイカが切れたよ」

そう言って倍賞千恵子が現れ、井戸のそばにスイカを置くと、おかん婆さんは懐にスイカを入れ消えようとした。

「ほれ。婆さん。猫の仏さんだ」

そう言って熊が井戸の底から出てきた猫の死骸を婆さんに向かって放ると、婆さんは逃げ出してしまった。

「婆さん。曲がっていた腰が伸びたぜ」

「あっはははは」

若旦那は本来、左官職人である熊と八の仕事場に現れ聞いた。

「おせいちゃん。誰か好いた人あるのかねえ」

「なんでもありゃ。肥取りの男と出来てるって聞いたぜ」

「ちくしょう。せんないわ。それじゃああたしはクソ以下ってことなのかさ」

ここで、この若旦那を演じる砂塚秀夫について書いておきたい。

この作品が公開された66年。砂塚秀夫は東映の高倉健を主演とした『網走番外地』シリーズにも常連として出演していたし、東宝の岡本喜八監督作品においては戦争物などにも出演していた。

いわば各社、ジャンルを問わずに活躍していた俳優である。そしてその三枚目的魅力によって、大いに映画館に笑いの渦を作っていたと想像でき、その才能はこの作品においても活かされている。

なよった大店の若旦那なんて結構難しい役どころだと思うが、シャラシャラした所作など板についている。

いつまで経っても店子から家賃を取れない花澤徳衛に業を煮やし、若旦那の父は彼を首にすると言いだした。その噂はあっという間に長屋の衆に広まっていった。

「ああ見えて、本当はいい人だったんだよ」

「何もお払い箱にすることはないだろうよ」

そこへ熊が言った。

「よし。俺にいい考えがある。お前ら魚河岸へ行ってサンマをできるだけ買ってこい」

「そんなことしてどうするんだよ」

「いいからよ。俺の言う通りにしてみなよ」

熊の言う通りに長屋では通りいっぱいに七輪を並べ、そこでサンマを焼き始めた。

するとある者が熊に聞く、

「これどこで買ってきたんだ」

「河岸だーっ!」

叫ぶ熊。大店の窓からはサンマを焼いている煙だけが見える。そこへ響いてくる熊の声が、

「火事だーっ!」

と聞こえる。それが一向に止まないので、大店はパニックに陥っていった。

「やった!ついにやったぞー!」

そんな中にあって歓喜の声を上げる若旦那。慌てふためく皆をよそに、番台から金をくすねる若旦那。

長屋の衆がサンマをこれでもかと焼いている時、倍賞千恵子が言った。

「半鐘の音が聞こえる」

確かに耳を澄ますと、遠くから半鐘の音が聞こえ、時を待たずして橋の向こうから火消したちが現れ、勢いよく長屋になだれ込んできて、屋根に登って纏を降り、その壁を鳶口で破壊してゆく。

「やめてくれーっ!こりゃ火事じゃねえんだ!火事じゃねえんだよ!」

「町人!ならばなぜ火事だ、火事だと叫んだのだ!」

「いや。あっしは河岸だ、河岸だと言っただけのこって」

「そのような言い訳は通用せぬ!」

「ちっくしょう!こうなったらヤケクソだーっ!」

そう言うと熊は役人に糞尿をどっさり浴びせたが、そのままお縄になり、小伝馬町へ送られた。

季節は巡り冬になった。

おかん婆さんは病気になり寝たきりになってしまった。そんな夜、倍賞千恵子が一人で寝ていると、何やら壁から音がする。その音はだんだんと大きくなってきて、壁に穴が開き、そこから婆さんの腕が出てきた。恐れおののく倍賞千恵子。婆さんは腕に銀貨を握っている。

「餅。餅を買ってこい」

銀貨を受け取ると倍賞千恵子は言われるままに餅を買ってきて、婆さんの元へ届けた。

「お婆。餅買ってきたよ」

髪は乱れ、鬼のような形相をしている婆さん。

「金をくすねてないだろうな」

「そんなことないって。お茶でも入れようか」

「はやく出ていけ」

婆さんの部屋をあとにした倍賞千恵子であったが、自分の部屋に戻るとさっき婆さんが開けた穴から婆さんの部屋を覗き込んだ。

すると婆さんは懐から巾着を取り出し、その中に入っていた金を餅でくるみはじめ、そのままその餅を飲み込んでいく。声ひとつあげることできずに、その様子を覗き込んでいる倍賞千恵子。

婆さんが最後の餅を飲み込み始めた時、

「ヴーッ」

という唸り声をあげた。急いで部屋を飛び出し、婆さんの元へ走る倍賞千恵子。

「お婆っ!」

すでに婆さんは窒息して絶命していた。

騒ぎを聞いて長屋のみんなが集まってくる。

「なんだい。どうしたんだい」

「お婆が。お婆が・・・」

中を覗き込むみんな。

「死んでるよ。こりゃ」

「ナンマンダブ。ナンマンダブ。ナンマンダブ」

そこへ小伝馬町から熊が戻ってきた。

「おーい。どうしたんだ。みんな辛気くせえ顔して」

「おかん婆さんが死んじゃったんだよ」

「おっ。ババア、ついにくたばりやがったか。どっかに金隠してあるんだろ。みんな。家探ししろ。家探し」

そう言って熊たちは婆さんの家に上がり込み、金を探し始める。

「飲んじゃったんだよ」

「えっ」

「餅にお金包んで飲んじゃったんだよ」

「あーあ。この婆さん。金まであの世に持ってちまったよ」

そう座頭が言う。

「ちょいとおせいちゃん。あんた黙ってそれを見ていたのかい」

「そうだよ。そうだよ」

「だって怖かったんだよ。見ているもんでなきゃあの怖さはわからないよ」

そう言うと彼女は泣き出して行ってしまった。

そんなところに若旦那が現れる。

「あら。どうしたのさ。みんな集まって」

「婆さんが仏になっちまってよ」

「それはご愁傷様。でも、みんな集まっていて調度いいから言うけどさ。うちの親父がね。この長屋はもう取り壊して、馬を繋いでおく馬場にするって言っているんだよ。だからみんなに出て行く支度しろって」

「なにい!俺たちゃここ追い出されたら行くとこないんだぞ!それを人間様を差し置いて馬場にするだと!」

そう凄む熊。

「わたしじゃないんだよ。親父が言っているんだよ」

「親父のところに帰ってたら、こう言ってやがれ。大家と言えば親も同然、店子と言えば子も同然。それがこっちは仏の一人出てるんだぞ。普通だったら煮しめの一つでも用意して、酒の二升でも届けるっていうのが当たり前じゃねえか。そう親父に言ってやれ。あんまり承知しねえと死人にかんかんのう躍らせるぞ」

帰って若旦那が親父に熊の言ったことを告げるとビンタをくらった。

「わたしが言ってるんじゃないんですよー。熊が言ってるんですよー。それから死人にかんかんのう踊らせるって」

「ああ。踊らせてみられるものならやってもらおうじゃないか。これまで生きてきたが、死人のかんかんのうなんか見たこたありゃしない」

その話を今度は熊のほうに持って帰ると、熊は若旦那に前を向けといいおかん婆さんの死体を、その背中に乗っける。

「よせよ」

そう言って若旦那が振り向くと、そこにはおかん婆の真っ青な死に顔が。

「ひゃーっ!」

「これからお前の親父のところで死人にかんかんのう躍らせるからよっ。八、婆さんの背中押せ!」

「ひゃー!後生だからやめてくれよ!」

「何が後生だよ!意気地のないやつだな!押すんだよ!」

人形みたいになった婆さんの死体が長屋の中を運ばれてゆく。

大店の軒先をまたいだ熊。

「どうも。あっしは熊っていうチンケな野郎ですが、こちらの旦那さんが死人のかんかんのうを見たいというのでこうして参りました」

「お前が熊か。わしはそんな脅しには乗らんぞ」

「そうですかい。おう。お前ら入ってこいよ」

すると現れた若旦那におんぶされた婆さんの死体。

「お前ら!カッポレ歌え!」

「カッポレ、カッポレ・・・」

「もっと景気良くやるんだよ!」

「カッポレ、カッポレ。甘茶でカッポレ。よーいと良いとな」

その歌声に合わせて、婆さんの死体を躍らせる熊。恐怖のあまりに腰を抜かす店主や番頭たち。

「長屋を取り壊さねえと証文を書け!」

「お前さん!なんとかして!」

「カッポレ、カッポレ。甘茶でカッポレ。よーいと良いとな」

「か、書く!だからやめてくれ!」

熊は婆さんの死体を使って強引に長屋の存続を取り付けたが、長屋に帰ると、そのまま漬物を漬けていた桶を棺桶にして、その中に婆さんの死体を入れて担がせ、夕闇が迫るなか火葬場へと向かった。

そして、その火葬場に待っていたのは誰あろう我らが渥美清扮するオンボウであった。

「だから。ふんっ。わからねえ奴らだな。ふんっ。鑑札なしで人焼くことはできねえんだよ。ふんっ」

近世。やはりオンボウは被差別民であったのだろうか。ボサボサの髪にモジャモジャに伸ばしたヒゲ。そして体には皮でできた着物を纏っている。

この渥美清扮するオンボウの姿は、映像に記録された被差別民のサンプルとして歴史学や民俗学的資料として貴重なものであることは間違いない。

さらに会話の最中、ふんっ、ふんっと鼻くそを飛ばすように鼻で息する渥美清の小芝居も効いている。ワンシーンながら確実に存在感を残している。

「構わねえからこいつふんじばっちまえ!こちとら時間がねえんだ!」

そして渥美清は柱に縛られ、婆さんの死体は焼かれた。だが熊たちの目的は婆さんを弔ってやるというよりも他にあった。

灰になったばかりの婆さんの体の一部を熊が取り出すと、そこから金属の塊が出てきた。

「こいつ使ってよ。達者で暮らせよ。これだけありゃしばらくの店賃にはならあな」

「熊。お前どっかいっちまうのかよ」

「あれだけの騒動起こしたのよ。今度捕まったら打ち首ものよ」

「熊。お前、いいやつだったなあー」

そう言って泣きながら熊の体にすがる者もいた。

そこへ若旦那が現れる。

「熊さん。逃げなくてもいいんだよ。熊さんが捕まれば、わたしも死人にかんかんのう踊らせたっていうことで同罪になるんだし、そしたら店の身上もおしまいだ。それに番頭と母親のことなど洗いざらいぶちまけてやったら親父のやつぐうの音も出なくなってね」

「そうかい。心配させるなよ」

春。桜の花咲く頃。

長屋では倍賞千恵子が花嫁衣装に袖を通していた。

「せっかくの妹の晴れの姿だというのに熊はどこへ行ったんだ。大方、博打場にでも行ったんだろう。なあ。八」

その声は花澤徳衛。

「へ、へい」

やがて歌いだされる「高砂」。そこへむしろを被ってすってんてんになって熊が帰ってくる。

最後のカットは俯瞰から桜が散るなか、長屋の片隅で佇んでいる熊とおせい、倍賞千恵子の姿であった。

ここからさらに山田洋次とハナ肇のコンビ作、『バカが戦車でやってくる』などを見てもいいと思ったし、落語好きの人なら各シーンを見ていて、ああ、ここはこの演目を基にしているなどとわかるだろうし、また昨今は落語ブームでもあるそうだから、落語入門として見る映画としてもいいんじゃないかと思った。

そんな佳作と思える一本である。

それにしても渥美清のオンボウは強烈だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?