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ある見習い看護婦の記録 赤い制服

某日、ラピュタ阿佐ヶ谷のレイト特集「大映ハレンチ青春白書」を観に行く。

今回の作品は『ある見習い看護婦の記録 赤い制服』(69年)。今回のはコメディタッチでなかなか楽しめた。

大病院に勤務する看護婦の物語だが、その女の園でドタバタを繰り広げる五人娘が主人公。彼女たちは制服の丈をミニにしてしまったり、ことごとく病院の規律を乱してしまう。

この病院の看護婦は大奥並みの封建主義で、満州事変以来の従軍看護婦の勲章を自慢にしている総婦長を筆頭にヒエラルキーが構築されており、その最底辺にいるのが見習い看護婦の一年生である五人娘。

しかし屋上でゴーゴーを踊ったりと大騒ぎ。そこに総婦長が雷を落とすのだが、興味深いのは自分たちが楽しんでいる音楽をグループサウンズとは呼ばずに、ダンモ(モダンジャズ)と呼んでいることだ。

総婦長が普段敬愛している「従軍看護婦歌」という曲を現代風にアレンジして踊っているのだが、それを「これ私の知り合いのダンモのミュージシャンの人に編曲してもらったんです。イカしてるでしょ」などと言ってみせる。

前に見た『フリーセックス 十代の青い性』はモノクロだったが、さすがにこの作品はカラーで、看護婦の制服も医科ごとにピンクだったり、紫だったり、黄色だったりと面白い。

そんな中、次期総婦長選挙が始まり、ヒステリーばかり起こしているので、おヒスの局と呼ばれている婦長(丹下キヨ子)と、守銭奴で金のことばかり考えているのでおゲルの局(どうもこの時代、金のことをドイツ語のゲルと呼ぶことが流行ったらしい。ムスタングというバンドの「ゲルピン・ロック」(金欠ロック)は名曲)と呼ばれている婦長(若水ヤエ子)の双方が、どちらの派閥にも属さない五人娘をなんとか取り込もうと、あの手この手を使ってくる。そのなかで五人娘それぞれの個性が見えてくるというストーリーの展開を見せる。

例えば五人娘の一人、渥美マリは下半身がゆうこときかない患者の枕元に、「午前二時、看護婦寮にきてね」と手紙を忍ばせておく、それを見た患者は車椅子でなんとか看護婦寮まで辿り着くが、渥美マリのいる部屋は二階、どうしても行くことができない。そこで他の患者に助けを依頼。だが助けを受けた患者は松葉杖をつきながら、どんどん二階へ行ってしまう。

そこにはダンモに乗ってエロく踊る渥美マリの姿が!当然それは病院中の男どもの話題になり、夜な夜な看護婦寮に男どもが大挙してやってくることに。

結局それが露見して、渥美マリは雷を落とされるのだが、開き直っている。

「私、もともと看護婦になりたくてここに入ったんじゃないんですもの。私そのうちジャズダンサーになりたいの。ここは三度の食事も保証されているし、入院患者さんのなかには、ジャズ関係の人もいるかもしれないでしょ」

と先輩看護婦をあきれさせる。しかし車椅子の男はエロダンス見たさに、必死になって二階まで辿り着き、歩けるようになっていた。

「ありがとう。僕が歩けるようになったのは君のおかげなんだよ」

と袖を濡らす男。

このようにして五人娘のエピソードが綴られるのだが、傑作だったのはインポになって入院していた大泉晃を南美川洋子が催眠術で治療するというものだった。

インポ=大泉晃というキャスティングが素晴らしい。退行催眠にかかった大泉晃は小学生の時に女教師からこっぴどく怒られたことがトラウマになりインポになっていたことが判明。

それを解消してやると、多いにハッスルしだし、南美川洋子に襲いかかり出す始末。ナースステーションに逃げてくると、見境のなくなっている晃はおヒスの局に「お母さ~ん!!!」とか言って抱きつく。こういう飛び道具的なポジションをきっちりこなすところに、さすがは大泉晃だと思った。

この作品を面白くさせている点に、五人娘のエピソード以外のサイドストーリーもきっちり描いているということがあげられる。

おゲルの局は金のことしか頭になく、株に投資したりなんかしている。しかしその株が暴落。ふてくされた顔をして食堂に現れコックに向かって、「ねえ!酒ないの!飲ませてちょうだいよ!」とわめく。

コックは腕はあるのだが、病院の食堂では自分の腕がふるえないと、時々内緒で御馳走を作って、五人娘に振る舞っている職人気質の男。

「おいおい。なに言ってるんだよ。ここは病院の食堂だぜ。酒なんかあるわけねえだろ」

「いいからなんでも持ってらっしゃいよ!酒でも飲まなきゃやってらんないのよ!」

「しょうがねえなぁ。俺が持っている焼酎しかないぜ」

そういって酒をがぶ飲みするおゲルの局。泥酔したおゲルはコックに、「私をタクシーでアパートまで送って行きなさいよ!」と無理難題を言う。根が優しいコックはおゲルを部屋まで送って行き介抱する。そのうちおゲルはコックに「抱いて」とか言い出す始末。

一夜明けて朝の光が部屋に射す中、床を一緒にしている二人。コックはおゲルに問う。

「はじめてだったのか?」

「うん・・・」

完全におばはんであるおゲルのそのはにかみぶりが爆笑を誘う。だがオチはここでつかず、病院で相変わらず守銭奴ぶりを発揮しているおゲルを突然つわりが襲う。

ことを知ったコックは「おれの子だろ。産んでくれよ。結婚してささやかな幸せってやつを築こうじゃないか」と頼むが、おゲルは「なにいってんのよ。私の財産が目当てなんでしょ。子供は降ろすわ」とコックを信用しない。しかもそのおゲルが産婦人科婦長なのだから笑える。

「違うんだよ。俺は自分の店出したいと思って300万貯めてあるんだよ。おまえはそこの女将で、俺は板さんそれでいいじゃないかよ」

の言葉にやっと納得し、看護婦を引退することを決意する。

これにて総婦長選挙はおヒスの局が勝利したかに見えたが、五人娘の一人、ショートカットの水木正子が薬品貯蔵室にモルヒネを取りに行ったところ骸骨が現れ、水木は仰天し、他の看護婦にそのことを言っても誰もばかばかしいと取り合ってくれない。

と同時に、貯蔵室から大量のモルヒネが紛失していることが分り、警察沙汰に。その嫌疑は水木に及ぶことになった。

これにはなにか裏があると思った五人娘は、貯蔵室近くに貼っていた。そこでおヒスの局と病院の理事長が共謀して、モルヒネを麻薬として横流ししていて、そろそろ危ないからやめようとか言っている会話を聞いてしまう。

ことの正体を知った五人娘は、そのまま貯蔵室に突入。ドタバタ感を出しつつ、そのままおヒスの局と理事長をやっつけてしまう。

おヒスと理事長は逮捕され、病院から派閥はなくなり、これでみんな楽しく働けると思っていたが、総婦長は五人娘に病院の風紀を乱したことは許されないとして、首を申し付ける。

「せっかく看護婦の仕事やる気が出てきたのになぁ」

と病院の入り口で荷物を持ってしょげている五人娘に、「俺は北の診療所に行くんだ。よかったら一緒に来ないか」と声をかけたのは、普段から彼女たちを可愛がっていた先生であった。

「やったー!先生いかすー!」と、そのまま先生と五人娘は救急車に乗って、ダンモのビートにノッて駅まで向かうのであった。というところでエンドマーク。

今回の作品は随所に笑いどころがあり、またお色気度もアップし、大映にしては珍しくウェットな感じもなかったので楽しめた。

クレジットに松坂慶子の名前があったが、この頃は駆け出しの頃で、スクリーンにその姿を発見することはできなかった。 

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