女眞珠王の復讐
新東宝時代の丹波哲郎は悪役と相場が決まっていたのだろうか。
公衆電話から三信商事の悪徳専務に電話を入れる丹波。
「大丈夫ですよ。すっかり奴と瓜二つになりましたからね。あとは任せておいてください」
そう言った丹波のいでたちは、三信商事のホープと目されている宇津井健の背広に靴まで同じ物なのであった。
その悪徳専務に呼び出される宇津井。
「ああ。君ね。これから箱根で静養している社長のところへ行ってね。この書類に判子を押してきてもらいたいのだよ」
「はい。わかりました」
その専務室に専務秘書である前田通子が現れる。
「ああ。そうだ前田君(役名失念)は、明日から私と一緒にカルカッタに行くんだったな。君たちは今夜でしばらくのお別れとなる訳だ。宇津井君。役目が終わったら急いで東京に帰ってきていいんだからね」
「はあ。これはどうも」
廊下に出た宇津井と前田通子は、今夜8時半には会おうと約束を交わしたのであった。
宇津井が箱根に向かうために会社を出ようとしたところ、小遣い室にはまだ小遣いさんがいた。小遣いさんと言うのは、会社の雑務、掃除やなんやかんやをやっている人で、大体年寄りがやっていた。
その小遣いさんと別れを交わして会社を宇津井は出た。
しかし、小遣いさんが二階へ上がる階段を見やると、確かに宇津井と同じ格好をした男が登っていくのが見えた。
小遣いさんは不審に思い階段を上っていくと、何やら経理室に人影がある。小遣いさんが懐中電灯で、その人影を照らすと、それは顔半分をスカーフで隠した丹波なのであった。
「だ、誰だ!あんたは!」
丹波は躊躇なくピストルを発砲し、小遣いさんは絶命した。
一方、宇津井は社長の静養先のホテルを訪れていた。
「社長。専務がこの書類に判子を押して欲しいと言っているのですが」
「君。そんなに急ぐことはないさ。私はどうも、あの専務のやり方が気に入らなくてね。どこか私のわからないところで不正をおこなっているようなんだよ。判子の方はあと四日でもしたら出社するから、その時に押すと専務には伝えておいてくれ」
「はあ」
「そう言えば明日は前田君が専務と一緒にカルカッタに向かう日じゃないか。今夜は前田君に会うんだろ。青春の時間は値千金だからな。名残のないように過ごすんだよ」
「ありがとうございます」
宇津井は恋する前田通子と、これで会えると言うことで、もうウハウハできびすを返して東京に向かった。
しかし、その直後にまたしても宇津井に扮装した丹波が現れ、社長が抵抗する間も無く彼を撃ち殺したのであった。
ホテルの庭を逃げてゆく丹波を目撃する従業員。
「あれ。あの人はさっき東京から来た人じゃないのかなあ。なんであんなところを歩いているんだろう」
「きっと出口を間違えたんじゃないのか」
この見間違えによって宇津井の不幸は始まるのだが、そもそもどちらかと言えばずんぐりむっくりした体躯の宇津井と、スマートな感じの丹波を見間違えると言うことに合点が行かないのであるが、俺のそのような疑問など知らないように物語は進んでいく。
東京で落ち合った宇津井と前田通子はタクシーに乗り、そのまま横浜に向かった。
「知っているクラブがあるの。そこのバンドマスターでトランペットの人と知り合いですのよ」
「へえ。君にそんな知り合いがいたんだ。行ってみよう」
そのクラブ、クラブ・ブルーでバンマスは確かにイカしたトランペットソロを吹いていた。
やがて曲がジャズからワルツに変わると、カップルたちは手を取り合って、腰に手を回して踊り始めた。
当然、その中に宇津井&前田通子がいたのだが、そこにも丹波が現れ女と踊りながら二人に近づき、宇津井のポケットに鍵を忍ばせるのであった。
朝。
三信商事の経理部長が金庫を開けると、そこから小遣いさんの死体が出てきたから、社内はパニックに陥った。さらに箱根では社長が殺されていることが発覚。しかし埠頭では専務と前田通子を乗せた客船が出航しようとしていた。
かつて洋行と言えば船旅が普通であった。そして埠頭に集まった人々は、出発する人と紙テープを取り合い別れを交わすのであった。
「お母さんを頼みまーす」
前田通子はそう言って岸壁から離れていった。そこには宇津井の他に、彼の妹の三ツ矢歌子、前田通子の母がいた。無事に前田通子がカルカッタについて欲しい、って何度もカルカッタって書いている訳なのであるが、何かここにも疑問を感じるのであって、50年代のこの頃にアメリカとかではなく、インドとなんの取引があって、専務&前田通子はカルカッタに向かうのだろう。
そんな俺の疑問とは関係なく、宇津井、三ツ矢歌子、母の前には突然警察が現れた。
「君を三信商事社長殺害、並びに千五百万円窃取容疑で逮捕する」
「な、なんのことなんです」
「いいから署まで来てもらおう」
「そんな!兄は人殺しなんてできる人じゃないんです!」
三ツ矢歌子に抱きつく母。しかし宇津井は問答無用で連行されていった。
「証拠は上がっているんだ。君が社長を殺害したあと逃げていくのを、従業員が目撃している。君は金庫の鍵を奪うと千五百万円を盗んだ。それを小遣いに見られたものだから、小遣いまで殺した。そして金庫の鍵が君のポケットから出てきた。これ以上の証拠があると言うのかね」
「違うんです!僕は何も知らない!僕は何もやっていないんだ!」
一方、洋上の人となっていた専務の特等室に船長がやってきた。
「ただいま東京から連絡がありまして、ご同乗されている秘書の方は殺人事件の共謀者ということで、船長特権として身柄を拘束したいのですが」
「なに。ここは船の上ですよ。どこにも逃げられる訳がない。どうです。身柄は私が預かるということでは」
「はあ。お客さまがそうおっしゃるなら、それでもよろしいのですが」
そして前田通子は専務の部屋に呼び出された。
「前田君。宇津井君は社長殺害の容疑者として、警察に捕まったよ」
「えっ!」
「前田君。私は以前から君のことが好きだったんだ。なっ。いいだろ。前田君」
「何をなさるんです!やめてください!」
そう言って前田通子を追いかけ回す好色な専務。前田通子が後部甲板に逃げ出る頃には、そのブラウスははだけ、シミーズが露わになっているのであった。
その前田通子の姿に専務はさらに興奮したのか彼女の身体に抱き着こうとする。
「やめてください!」
揉み合いになる二人。やがて勢い余った前田理子は、そのまま海へと落下していった。
ジャングルの景色。何かパプアニューギニア的な音楽が聞こえてくる。
ロビンソン・クルーソーを醤油で煮詰めて、もともと田吾作づらした男。仮にここでは彼のことをスケベと呼ぶことにしよう。
スケベが海岸を見てやると、裸体に近い女が波打ち際に打ち上げられているから、もうびっくりして仲間を呼びにいったのである。
仲間というのはスケベも合わせて、顔に傷のある銀二、とっつぁん、親方、天知茂の五人の男たちであった。
親方はとっつぁんに前田通子の心臓の辺りを押してみろと言う、そこはジャングルの中の掘立て小屋というかバナナの葉っぱで作ったような簡易な、しかし彼らのしてみれば苦心の末に作った小屋であったのだろう。
やがて前田通子は意識を取り戻したが、周りには見知らぬ男たちがいる。自分の身体には腰巻きにビキニの出来損ないみたいなのしか着けていないということもあって、警戒感を全面に出した。
「ククク。何も心配することはねえだよ。取って食おうって訳じゃねえんだ。あんた、この島に流れついたみたいだな。おおかた船から落っこちたってところか。運がいいぜ。本当ならスクリューに飲まれて死んじまうところだったんだ。俺たちゃよ。九州の五島列島のカツオ漁師なんだが、台風に遭っちまってよ。この南の島に流れ着いたって訳よ。もうここに一年近くいるだがよ。こうやってバナナだのなんだの色々あるし、逆に太っちまってよ。あんたもバナナ食うだか」
そう言ったのはカツオ船の親方だった。そう親方が言っているうちにもスケベは、前田通子を見て舌なめずりをしている。
「親方。今夜のところは静かにしておいてあげたほうがいいんでねえですかい」
そう言ったのは一番年長のとっつぁんだった。男たちは全員、スケベと同じくロビンソン・クルーソーを醤油で煮詰めたようなボロボロの格好をしていて、九州、五島列島からやってきたという割には言葉の端々に、「オラ」とか「◯◯だで」と言ったどう考えても東北訛りのところがあるのだが、それは俺の思い違いなのだろうか。
しかし、一年間も丘に上がらずに孤島に取り残されていた男たちの中に、若い女が突然現れたのだから成り行きは見えている。
一番最初に動いたのは、やはりスケベだった。前田通子が寝ている小屋に足を忍ばせて侵入すると、やにわに抱きついた。
「キャー!」
「いいでねえかよ。減るもんでもねえだしよ」
発奮しているスケベの体に突然蹴りがめり込む。
「このバカタレが!我慢できなくなって夜這いかけおったか!」
そう言ったのは親方であったが、そういう彼も言葉とは裏腹に前田通子をわがものにしようとしていた。小屋の外に逃げる前田通子。そこには銀二もいて、俺もやるならやってやるという構えであった。騒ぎを聞いて、とっつぁんと天知茂もやってきた。
「そんなに騒ぐことはねえだよ。くじ引きで順番を決めたらええだがよ」
「親方。頼んます。オラたち全員が日本に戻った時に、恥ずかしくないようにしましょうや」
「なにい。学校の校長先生みたいな口をききやがって。だが。今夜のところはとっつぁんに免じて、このくらいのところにしておいてやらあ」
〝学校の校長先生みたいな口をききやがって〟この親方の台詞は名台詞だと思った。天知茂もとっつぁんと同じ立場を取ったが、明くる朝、とっつぁんがジャングル淵の池に立っていると突然スケベがやってきて、とっつぁんを棍棒でめった撃ちにして殺害した。
この作品『女眞珠王の復讐』なのであるが、カット割やカメラアングルなどは至って単調で、映像にリズミカルなところはない。
しかし、このジャングルのセットは気張ったというか、よくできていると思う。そこがパプアニューギニアなのか、フィリピンなのかは分からないが、南洋のジャングルをよく再現していると思う。
逆に次のシーンからは海際の岩場のロケになるのだが、それこそ横須賀の荒崎辺りで撮影したんだろ、という荒さを感じさせるのである。
その岩場に天知茂と前田通子はいたのだが、そこから離れて銀二と親方がいた。二人に合流するスケベ。
「どうだった」
「なに。あんな老いぼれ簡単に料理してやったで」
それを聞いた親方は天知に近づき、岩場にあった石を持ち上げると、それを天知の頭に打ち付けた。その場に倒れる天知。
「グフフフフ」
「やめて!」
前田通子の身体に抱きつく親方。それを見ていた銀二は、スケベをけしかけた。
「先を越されて悔しくないだかよ」
「ちくしょう!」
スケベが持っているモリで親方をひと突きすると、親方は苦悶の表情を浮かべて絶命した。
「キヒヒヒヒ」
スケベが舌なめずりをして、前田通子に抱き着こうとしたところを、銀二はナイフでひと突きにした。銀二は頭脳プレーができる男であった。
岩場を逃げる前田通子。それを追う銀二。
この作品が公開されたのは1956年のことで、当時は日本初のフルヌードが映った作品として話題になったようである。
しかし、そのヌードというのは前田通子の後ろ姿のほんの短いワンカットで、俺も言われて見なければ気づかなかった。
それよりも岩場を腰巻き一つに手ブラで逃げてゆく前田通子の姿の方がセンセーショナルのように思えた。
この56年に手ブラというセクシー路線の背景には、活弁士上がりの新東宝、大蔵貢社長の「狸映画を撮れ!狐映画を撮れ!各社が気取った映画を撮っているうちに、我が社はお色気映画を撮るんだ!」という方針があったことは間違いのない事実だろう。
崖まで追い詰められた前田通子。じりじりと歩みを詰める銀二。前田通子万事休すかと思われたその時、天知が現れて銀二と揉み合いになり、銀二は荒波の中に落ちて行った。天知は気絶していただけなのであった。
さらにとっつぁんも生きていたということが分かり、三人での共同生活が始まったのだが、前田通子は海に潜り始め、真珠貝を採ってくるようになった。
その真珠貝から出てくる真珠の美しさに、とっつぁんも天知も目を見張ったが、その前田通子の潜水シーンというのが、またなかなかのもので、どう見ても大きな水槽に女が潜っている様を撮影しているとしか思えないのである。
50年代の当時、水中カメラとかはなかったという機材的な側面は分かるのであるが、そこに泳いでいる魚がどう見ても鯉であって、少なくとも海水魚は泳がせて欲しかったというところが正直な感想である。
東京の街の景色に「二年後」の字幕が被さる。
羽田空港に到着した飛行機から颯爽とした姿、フォーマルな姿で現れたのは前田通子であって、そのお供としてスーツ姿で登場したのは、とっつぁんと天知であり、そこにはロビンソン・クルーソーを醤油で煮詰めたような面影は微塵もなかった。
彼らに殺到するマスコミ各社。新聞の一面には「女眞珠王来日す」という見出しが打たれ、前田通子は日系アメリカ人として、真珠によって巨万の財をなしたということが紹介されていたのだが、それだけの財をなすのに前田通子は、あの南洋の海に真珠貝を求めて何万回と潜ったというのだろう。
一方の宇津井はというと東京拘置所に収監されている身であった。その宇津井に面会にやってきた三ツ矢歌子。金網越しに宇津井が叫ぶ。
「違うんだよ!俺はやってないんだよ!俺は知らないんだよ!」
「兄さん・・・」
「すまない。今日の兄さんはどうかしているんだよ。何か頭に血が昇ってしまって」
東京拘置所から出てきた三ツ矢歌子に高級車が横付けする。その車から出てきたのは、とっつぁん、いや今は老紳士然とした男なのであった。
「この車にお乗りください。あなたをあるところへお連れします」
三ツ矢歌子は訝しがりながらも、その車に乗ると着いたところは高級ホテルで、その一室に通された。そして、そこで待っていたのは前田通子なのであった。
「通子さん!生きていたんですか!」
「ええ。今は日系アメリカ人ということになっているんですけど、私は生きて日本に帰ってきたんです。すべては宇津井さんを陥れた不正をただす為に。しかし、私が今名乗り出てしまうと宇津井さんの共犯ということになり逮捕されてしまいます。ですから、私は私のやり方で、この不正を糾そうと思うのです」
前田通子は死んでしまった母親の墓前でも、不正を糺すことを誓った。
三信商事の社長室では二人の男が密かに笑っていた。
「私もついに社長椅子に座ることができたよ」
「そして私は専務ということに」
そこに座っていたのは、かつての悪徳専務と丹波なのであった。二人は最初から宇津井を陥れ、三信商事を我がものにすることが狙いなのであった。
椅子に座りながら爪を磨いている丹波。ニヒルな丹波。
「しかし油断はなりませんよ。あの女真珠王。どことなく前田君にそっくりなんですな」
「バカなことを言うな。彼女は確かに海の中に落ちていったんだよ」
そこに丹波の子分のような男が現れて、三ツ矢歌子が高級車に乗って女真珠王が泊まっているホテルまで行ったと言うことを報告する。
子分は三ツ矢歌子が車に乗るところに居合わせ、その車のナンバーを控え、追っていくと女真珠王、つまり前田通子の泊まっているホテルを割り出したのだ。
「これはますます怪しいな」
その直後の東京株式市場は荒れに荒れた。ある株式操作によって三信商事の株は、みるみるうちに下落していったのだ。
現在のように静かに電光掲示板が流れているなんてものじゃなく、50年代の株式市場は熱気溢れる男たちが手で、五とか三とか指し示しているヤッチャ場であった。
自社の株が下落していく様を見てヒステリックになる悪徳社長。それを陰から見やりながら不敵に笑うのは天知であった。前田通子は、その有り余る財力で株価を操ったのである。
「三信商事モウダメアルヨ。ワタシ女真珠王ノトコロニイクコトヨ」
そう昔の映画によく出てくるカリカチュアライズされた中国人貿易商は、社長と丹波に別れを告げて社長室を出て行った。
夜の街をバトカーのサイレン音が切り裂く。荷台に何人もの警察官を乗せたトラックがゆく。新聞には宇津井の死刑確定が近いことが載っていた。
それを知ってか知らずにか宇津井は脱獄を決行。今は暗闇に紛れて警察から追われる見になっていた。
夜の繁華街を逃げる宇津井。それを追う警察。飲み屋の横丁を、トンネルの中を逃げてゆく宇津井。その眼光はさながら黒豹と言ったところで、役者・宇津井健という人にはこういう側面もあったのだなと思わされた。
「例の株の下落ですがね。あれは間違いなく前田君がやったことなんですよ」
またもや爪を磨きながら丹波はそう言う。
「頼む。今回は前田君を殺ってくれんかね」
「前回の報酬は専務の地位だったですな。ですが今回はキャッシュがいいですな」
「金ならいくらでも出す」
「おっと。これはビジネスなんですよ。女真珠王の方でより高い金額を積んで来ればどうなるか分かりませんよ」
「そんな。俺とお前はバタビア時代からの腐れ縁だろ」
そう悪徳社長が言った時、丹波はピストルを構え廊下に出た。するとそこには誰もいなかったが、廊下にチョークで「話ハ全部キイタ。必ズ復讐ヲスル。死刑囚」と書いてあった。
老紳士は前田通子に、クラブ・ブルーの権利書を手に入れたことを告げた。前田通子は社長と丹波に取引があると言って、クラブ・ブルーに誘き出す作戦に出たのだ。
まず最初にやってきたのは丹波であった。ステージでは例のように、バンマスがイカしたトランペットを吹いていたが、丹波は地下室に案内され、そこにあった椅子に座り爪を磨き出した。
「やはり前田君。あなただったんですな。しかしですよ。あなたがそれなりの金額を積んでくださるというのなら、私はあの社長を始末してもいいんですがね」
「そんな問題じゃないんです!今からでも遅くありません!警察に自首してください!」
「それはできない相談ですな」
余裕をかましていた丹波だが、そこにクラブ・ブルー専属のヤクザなのか、いかつい男たちが七、八人現れた。
次に現れたのは社長であった。
「あっ!やはり前田君!君は私の会社をメチャクチャにしおって!」
「もう降参することですな」
そう丹波が言うと隣の部屋からテープの音声が流れてきた。
「いや。奴はバタビア時代の私の上司で、諜報機関にいた訳ですよ。なので工作、隠蔽、隠匿、密輸などは得意のものでしてな。その手腕を活かして三信商事を乗っ取る腹積りで、すべての罪を宇津井君にきせたんですよ」
バタビアと言う言葉が気になって調べてみたのだが、インドネシアにある街の名前で戦中は日本軍が支配していた。56年のこの頃は、まだ戦後という世相が濃厚であったのだろう。
「テープを持って逃げるんだ!」
そう社長が叫ぶと丹波はオープンリールのテープを奪い、階段を駆け上がった。すると丹波はクラブのホステスに打ち殺された。ホステスはかつての三信商事の社員で、丹波の愛人だったという設定なのだが、途中で幽霊のように消えていたキャラであり、ここにきて突如として現れたのだ。
丹波とこの女の関係をもっとサイドストーリーのように描いていれば、作品はもっと面白いものになったと思う。
追い詰められた社長は前田通子を人質に取り、そのこめかみに銃口を当てた。これにはさすがのバンマスも、うかつに手を出せないと思ったその時、宇津井が黒豹のごとく突っ込んできた。
宇津井によってコテンパンにされた社長は、そのまま警察に連行されていった。
見つめ合う宇津井と前田通子。二人はクラブのステージをバックに接吻を交わした。というところで、この作品は終わる。
所詮はC級モンド映画であると一口に切り捨てることもできる。
だが一時期ではあったが、このような映画が娯楽用として量産され、使い捨てられていったということも邦画史の大事な一側面であることには変わりはない。
だからまた新東宝の映画を見てしまうのである。
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