「いまの仕事の進め方、正しいですか? それとも間違っていますか?」(第1回)
土木技術者 杉浦 伸哉
「働き方改革」と言われていますが、それについて、我々建設業はどんな取り組みをしているのでしょうか。「改革」なんです。「改善」ではない
のです。
「改革」と「改善」の違いはなんでしょうか。この違いを我々建設業界はどのように理解し、どのように取り組んで行くべきなのでしょうか。
本コラムでは、いま我々建設業が進めている、多くの「働き方改革」に資する取り組みとして、その進め方が本当に正しいのか、従来の慣れや経験値を有するあまり、本当に必要な「改革」が阻害されていないかなどを、述べていきたいと思っています。
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では早速「図1」をみてください。
まずは生産性を高めるための方法です。これはとても簡単ですよね。
生産性を上げるためには、その行為を行うにあたり、分母を下げて分子を上げれば自ずと生産性は上がるのです。
残業せずに、通常の生産量を倍にできれば、生産性は2倍になったと言えます。これを一般的には「業務改善」と称して、古来日本では高度経済成長期の合い言葉として進めてきました。この最たるものが、自動車産業を中心として製造業で進められている取り組みです。
海外では「KAIZEN」という言葉で有名です。
海外での「KAIZEN」活動はとても積極的に進めており、日本ではあまりにも当たり前の言葉になりすぎて「今更改善なんて」という言葉も聞かれますが、まだまだその効果は絶大です。
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次は、ICTツールを入れたから生産性が高くなったという事例です。
図2の右を見てください。
例えば、ICT重機を導入して施工を行ったら、通常施工のための準備や、施工後の確認や検査などに比べて2割どころか3割以上も効率があがったと、実際に自ら実施している施工会社の人達は言われます。
それを裏付けるデータは、多くのものが現在国土交通省や地方自治体でも公開されていますので、疑う余地はありません。
しかし、それでもなお、本当にそうなのか?と言われる方々が多いのも事実です。
その感覚の違いはどこから生まれるのでしょうか。実は、ここに大きな落とし穴があるのです。
では、どのような落とし穴か実際に見ていきましょう。
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まず、図2の左側を見てください。
この改善エリアでは実施すべきことは明確なので、誰も疑う余地はありません。経費削減はまさに時間削減と置き換えてもよいでしょう。その時間短縮で密度の濃い仕事をするために、一般的に多くの人達が「ICTで何か時間短縮できないか」と考えるのです。
スマホなんてまさにその代名詞ですね。いつでもどこでも、欲しい情報を取得でき、また、出向かずとも対面で合わなくても、伝えたいことを瞬時に伝えられるツールとして、いまでこそ皆さん当たり前に使っているスマホですが、もうこれが無いと仕事を進めていく上でも不便で仕方がないと思います。
このようにすぐ使えるICTをつかって、時間短縮してどんどん効率を上げていくことが現在は求められており、そのために、いろんなICTツールを皆さん調べたり使ったりしているのではないでしょうか。
では図2の右側に移りましょう。
こちらは分母に「新技術の投入」とあります。例えばICT建機を使った施工管理などですね。ICT建機を使う事で、仕事の段取りや、立会検査など多くの取り組みが省略出来るようになり、まさにここ数年で出てきたツールだと言えます。
「新技術の投入=ICT建機の投入」で「新しい仕事の進め方=段取りを省略」「立会などの確認や検査などが省略」という事を進めている事例です。
イノベーションとかいってもてはやされているものです。
と、ここで違和感を持つ人もいるでしょう。
どんな違和感をお持ちですか?
「ICTを導入したら効率上がるのは当たり前、その導入にコストかかるし、人手もいないから当社はそんなこと無理!」と言われる方が多いのも事実です。
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さて、ここからが頭の体操です。
今回の事例では、今の世の中にある具体的な事例を出して説明していますが、「ICTを導入したから効率が上がるのは当たり前」という、まずこの部分に着目したいと思います。
本当にICTを入れたら効率ってなんでも上がりますか?
この考えが落とし穴なんです。
ICTを入れたから効率が上がったのではなく、ICTを導入し、そのICTが最大に活用出来る「仕事の進め方にしたから」効率が上ったのです。
そう、新技術を入れた場合はそれと合わせて、「新しい仕事の進め方=新しいプロセスの構築」が重要なのです。
いまの仕事の進め方を一切変えず、新技術を投入したとして、その効果は限定的かつ短期間しか効果が続きません。
「新しい仕事の進め方=新しいプロセスを創り出す」、これが本来生産性向上には重要なものであり、ここを間違わなければ、実はツールはなんでもよいのです。
ツールがあるから生産性が上がる訳ではなく、仕事の進め方を同時に見直し、変えることが重要です。
では、こんな進め方をしてすごく生産性を上げた事例を紹介しましょう。
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こんな現場を想定し、あなたが現場所長だったらどうするかを考えてみてください。
現場は処分場を構築するための造成現場です。
発注者からは、工期短縮を強く求められています。工期は当初予定の3分の2にして欲しいと言われました。
施工範囲7.8haで切盛土工量474,000㎥です。
(図3を参照)
当然ですが、コストの大幅な増減は認められません。さて、どこから手をつけましょうか。
もともと法面工事が工期の大部分を占めていることもあり、早速ICTバックホウを導入して丁張レスで、法面掘削整形をすることにしました。ここまでは順調です。
準備のために、早速計画を立てるように現場職員に指示しました。
数日後、以下の計画を現場職員が提示してきました。
工程と施工能力を考えて、法面整形するバックホウは4台必要。当初ICTバックホウの利用を想定していなかったので、通常バックホウとICTバックホウの差額が発生しますという説明を受けます。
また法面部分の整形と合わせて、平場の切盛を行うドーザーも丁張レスで仕事を進めるために、ICTドーザーを1台導入することにしました。
出来形や出来高についてもドローン測量を導入し、測量手間を一気になくす流れです。
現場としては何か今までの工事プロセスとは大きく変えた感じになり、一瞬戸惑いを覚えますが、それでも背に腹は代えられません。工期短縮を求
められている以上、今までの施工プロセスでは関係者を今以上に集めて仕事をしなければならない、もしくは残業を増やしてでも対応しなければならないため、コストが上がったとしてもICTバックホウとドーザの導入に踏み切ろうと考えました。
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さて、ここで一度話しを中断しましょう。
まず皆さんが所長の立場だったら、今までの流れをどう感じられますか?
様々な意見が出ると思います。各社の社内研修としてロールプレーをしても面白いかもしれません。
ここでのポイントは1つです。
「既成概念に惑わされるな」です。
確かに、ICTバックホウを多く導入すればするほど、作業効率化あがりますし、作業そのものの進捗が捗れば、工期短縮に大きく寄与します。しかし、その分、購入にしてもレンタルにしてもコスト高になることは当然ですし、ICTバックホウを使える人を配置しなければなりません。
この事例では、必要台数分ICTバックホウを導入することになりましたが、本当にそれ以外の方法はなかったのでしょうか。
通常1台のICTバックホウですべての仕事を進める事を誰でも考えますが、こんな考え方をしたらどうでしょうか。
① ICTバックホウを導入し、丁張レスで法面掘削を行います。ただ、法面
掘削の全部ではなく、最初の部分のみ、それで法面掘削を行います。
② その掘削の傾きを見て、横に並んで通常のバックホウでその延長線を掘
削します。先頭を走っていたICTバックホウは、通常のバックホウの後ろ
に回り込み、法尻を仕上げます。
ICTバックホウのカルガモ走行です。(図4でイメージ表示)
使い方をちょっと工夫するだけで、作業効率および1日の施工能力が大きく変わると思います。
この考え方だとICTバックホウは1台だけ導入するだけでよく、コストダウンにもつながります。施工工程を考える上でもこの方法を主軸に工程を組み直すことで、工期短縮が確実に履行できます。
言われると「確かに!」と思えるものですが、この流れを「創り出す」ためには、ICTバックホウの本質と従来の施工方法の本質のどちらも十分理解し、良いとこ取りをするのが重要です。その本質を理解するためには、ツールありきではなく、目的を明確にし、ツールを上手に使い倒すための知識と柔軟な「考える力」が求められるのです。
まさに、我々建設業にいま求められているものですね。
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事例として今回上げた内容が、今回の事例として最も正しい、最も功利的な方法だったかについては、人ぞれぞれ受け入れ方は違うと思います。
もっと別のやり方がある、あるいは、そもそもの考え方を変えるべき、など様々な意見があることは承知しています。我々土木技術者は、この創意工夫や業務改善を行ないながら、いままで多くの困難を乗り越えてきました。
ただ、昨今この工夫にかける情熱や創意工夫を進めるための「創造力」が低下している事もまた事実だと思います。
ICTという言葉が何か魔法のようなものに見えて聞こえて、ICT導入をすることが目的になっている状況が垣間見えるようになってきました
が、それに惑わされることなく土木技術者が持っている経験と知識とこの新しい知識を組み合わせることで、正しい生産性向上のプロセスを突き詰めなければなりません。
ICT施工については、従来の知識とは多少違う知識も必要になり、仕組みを理解する上でも多少は勉強しなければなりませんが、その努力を少しするだけで、いままで以上に我々に戻ってくるメリットは大きいのです。
ICTなどという言葉に惑わされず、小手先だけの取り組みにならぬよう、本質を忘れずに進めましょう。
「Let’s do our best」!
[全建ジャーナル2022.11月号掲載]
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