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わたしたちが見た建設業 「若い世代から見た地域建設業の災害対応と働く環境」

防災 THE PRESS 村上 聖奈

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 令和6年1月1日元旦に襲った能登半島地震。日本中、いや世界中が衝撃を受けた瞬間。日常がこんなにも簡単にさらわれてしまうのかと思った人も多く、また災害への対策の意識が変わった人も多いのではないでしょうか。今もなお予断の許さない状況が続いており、犠牲になられた方に心よりお悔やみ申し上げますとともに、甚大な被害を受けられた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。

防災 THE PRESSという取り組みを通して

 今回、全国建設業協会様から取材のご依頼をいただいたのは、2023年9月に横浜で開催された「ぼうさいこくたい2023」での出会いでした。私たちが活動している「防災 THE PRESS」は、防災に関する情報を若年層インフルエンサーと共にデジタルツールを活用し発信する事業。2020年より株式会社日本防災研究センターのプロジェクトとしてスタートしました。防災対策について、大規模なインフラ整備から各家庭での日々の取り組みに至るまで、その間を埋めるような存在になりたい。「防災をより身近に感じてもらいたい。」そんな想いから始まった情報発信プロジェクトです。防災に関する専門知識がない若い大学生メンバーを中心とするインフルエンサーを活用することでよりわかりやすく、伝わりやすい目線での防災に関する取材や記事作りを行った情報発信を目的としています。
 そこで今回ご依頼いただいた時に言われた言葉。
 それは
「災害時に建設業が活躍しているということをもっと知ってほしい。」
 その一言でした。確かに私たちの印象では、テレビのニュースで災害が起きた後、映る姿といえば、自衛隊の皆さんが救助の作業をしていたり、孤立したところに支援物資を届けたり、ボランディアの方が炊き出しをしていたり。でもその裏側には、建設業が大きく携わっていることを今回知ることができました。

災害復旧に対する思いとギャップ

 私たちが取材の依頼を受けて、2名の若年層インフルエンサーを連れて向かったのは、宮崎県の諸塚村(もろつかそん)と小八峡(こやかえ)。この場所は令和4年台風14号の被害を最も受けた地域。災害復旧の様子を1番実感できると全国建設業協会の担当の方に教えていただき、お伺いしました。
 実際に災害復旧を行う現場に車で向かっていると想像をはるかに超える被害を目の当たりにしました。まず始めに見たのは、土砂災害が起きた山でした。実際に土砂災害が起きた場所を見るのは自分自身もインフルエンサーも初めてで遠くから見るだけでもその土砂が崩れてしまっている範囲の広さ、そして一気にあの土砂が迫ってきたらと考えると恐怖を覚えたと口を揃えて話していました。それだけではなく、どんどん現場に向かう車の道は時折狭く、橋には流木が引っかかったまま、川には大きな石も転がったまま。通る道も安全のために時間規制があり、その時間しかその道を通ることができませんでした。
        *  *

 そんな被害の様子を直に感じながら災害復旧現場に到着し、株式会社太伯建設様の現場では、崩落した道路を大型ブロック積という方法で道路を作る工事が行われていました。その横にあった自分たちが何気なく通ってきた道は元からある道路ではなく道路が崩落し、住民の方が孤立してしまわないように仮復旧で新しくつくった道路だとお伺いし、いつも通っている道というのは当たり前ではなく、災害時にいち早く現場に向かい、道路を復旧させてくれる建設業のおかげであり、感謝しないといけないなと思いました。
 仮復旧とはいえど、ずっとこれからも使う道。災害復旧を行うには実は半年から数年ほど時間がかかるという事実をお伺いし、衝撃を受けました。その半年というのは、被害状況を役所が確認し、測量などの専門コンサルタントと組んで計画を行い、国の許可を得て認可が下りてから図面を入札にかけて建設会社が動くという流れがあるから。災害の一大事の時に道を再度作り直すことのリードタイムへのギャップを感じました。
        *  *

 次にお伺いした現場は、株式会社吉田建設産業様が行ったのり面保護工現場吹付法枠工という方法で土砂崩れが起きた現場が綺麗に整備されているところを見に行きました。見上げるとひっくり返ってしまうほどの高さまである大きなブロック。綺麗に整備されたブロックの様子を見ていたからこそ土砂災害が起きた写真と見比べるとその被害の大きさにびっくりしました。そしてその現場で見たのは、工事を行う区画というのは、国から決められており、その両サイドには同じく土砂災害が起きるかもしれない土砂が剥き出しのままの現場。決められてしまってはいるものの一度直す時に周辺を一緒に強化することはできないのかと考えるきっかけになりました。

命の道を作る災害復旧の仕事と地域への想い

 今回お話をお伺いすると、以前は自然災害や地震など何かあった時には会社にいるのが当たり前で、いつでも要請があれば出てくることのできる体制づくりがあり、復旧の際にはすぐに行くことが普通だと思っていた矢先。
 3年ほど前にとある村の土砂災害の際に、建設会社で待機をしている方が亡くなったことがあり、災害待機することに対する見直しが行われたとお伺いしました。道路・河川を守らないといけない、そして家族を守らないといけない、その責任の重さを当時のお話に付け加えて語られていました。そこでまずは、身の安全が確保できてからパトロールを行うことで2度と同じことが起きないように防災対策の見直しが行われました。とはいえど、土砂災害などで被害のあった道はなるべく早く復旧しないと、例えば毎日透析を行わないといけない患者さんがいた時にどこの道だったら通れるのか情報を伝えなければいけないし、地域の建設会社として、車も人も通れない状態を車1台でも通れるように動くのが仕事であるというお話をされていました。加えて、建設業として塞がれた道の先にある集落や村に住んでいる方たちの『命の道』を守っていると話をしてくださいました。
 人が住んでいるからこそ、仕事があり、誰がどこにいるか知るためにも地域の方との触れ合いをとても大切にしていること、そして同じ地域の建設業をしている会社との横の繋がりを大切にすることで建設業全体が町や地域の方たちを守っていることに繋がるということを教えて頂きました。
 パトロールや地域を守るために、たくさん動いてくださる建設業の皆さんにどうしてここまで続けられるのかをお聞きすると、「生まれ育った町が、大好きだから、守りたい、使命感でやっている。」皆さんの顔がとても愛に溢れていると同時に使命感で引き締まった顔をされていました。

地図に載る唯一の仕事である誇りと働く環境

 ここまで災害復旧に関して話をしてきましたが、建設業という業界への印象もお伺いしました。インフルエンサーの建設業界に抱く印象として話にあったのは、「力仕事が大変そう。朝から晩までと労働時間が長そう。男性社会であること。」などぶっちゃけた話を聞いてみました。すると、「確かに昔はそういうところもありましたが、今は凄くホワイトだよ」と笑いながら。仕事の時間は会社にもよりますが、8時から16時や17時、週休2日制で時間外労働もなく、「子どもたちの習い事の送り迎えだって行けるんだよ」と
お話してくださいました。今回取材の行った株式会社太伯建設様では女性も現場でお仕事されていたり、60歳台の方もまだまだ現役。
 建設業界では今若者が少なく、経営がうまくいかずに辞めてしまう建設会社も多いのが現状です。国土の面積は変わらないし、もちろん道も老朽化するからこそ若い担い手が必要です。そのため、昔のイメージではなく今を知ってほしいからこそ今後の課題としては子供たちの将来の選択肢の1つに増えることを目指して子供たちにはもちろん、その親世代にも現状を知ってもらう機会を作りたいとお話されていました。
 建設女子という言葉が少しずつ当たり前になってきた昨今。女性が現場にいることで変わることがあるかお伺いすると、男性だけでは気づかないところを気づいてくれたり、その現場をなるべく意識的に綺麗に保つようになったり、女性ならではの目線がとても助かることがあるとお話してくださいました。
 そして、建設業の仕事への魅力はなにかお伺いすると、それは『地図に載る唯一の仕事』であること。
 自分たちが作った道路や橋が地図に掲載されたり、Google Earthで写真を見ることができることに誇りを持って働いているとお話されていました。
 地域の建設業の災害復旧と課題についてお話をお伺いし、建設業が私たちにはなくてはならないものであるということを実感しました。
 これからも自分たちの歩く1歩1歩の道に大きな感謝を持って。
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 この取材を通して少しでも今回知ったこと、感じたことを1人でも多くの人に発信してきたいなと思いました。
 アテンドをしてくださった宮崎県建設業協会災害対策委員長で株式会社北部産業開発の坂本様、取材に対応頂きました株式会社太伯建設の甲斐様、株式会社吉田建設産業の吉田様、本当にありがとうございました!

[全建ジャーナル2023.2月号掲載]

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