「いまの仕事の進め方、正しいですか? それとも間違っていますか?」(第15回)

重仮設専門工事会社のDX推進者 加藤 俊

 今回のお話をいただいた際、私は専門工事会社(重仮設)(以下、重仮設業と称する。)に所属しているのでその視点でしか書けないので良いかと確
認させてもらいました。広報の方より『これまでと違った視点でお願いします。』と快いお返事をいただけたので専門工事会社の視点で本コラムを書かせていただきます。
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 私の所属する重仮設業界を簡単に説明すると、お客様にあたる方は元請建設会社の皆様になります。営業対象としては上流にあたる発注者や建設コンサルタント会社の方々も含まれます。また、専門部分の計画・施工はさせていただくものの、元請けではないため新しい取り組みを行う際も元請建設会社の皆様と歩調を合わせなければなりません。そのような外的要素が強い業界の中で、現在BIM/CIM(DX)を推進しております。
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 では連載のタイトル「今の仕事の進め方、正しいですか?それとも間違っていますか?」について触れていこうと思います。
 結論から申しますと。下記の公式が成り立っているでしょうか?
 BIM(BIM/CIM )= 会社の利益(価値)、業務効率化・省力化
 よく上の式ではなく、下の式になっているケースがあります。
  BIM(BIM/CIM )= 便利、わかりやすい
 きっかけはこの公式でもよいと思いますが、この式のままでは会社の経営層の承認がおりません。承認が下りないと予算も取れず推進が非常に大変です。
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 ここからは、私の体験と合わせ重仮設DX(重仮設BIM/CIM)を紹介させていただきます。
 『BIM(BIM/CIM )= 会社の利益(価値)、業務効率化・省力化』についても絡めていきたいと思います。
 私が個人的にBIM/CIMに関わり始めたのは2012 年であり、2015 年ごろからCUG(CivilUser Group)や社会基盤情報標準化委員会で小委員会等に携わってまいりました。2018年には社内で初のBIM/CIM分科会を発足しました。 当時はお客様(元請建設会社)と歩調を合わせることに重点を置いて推進しておりました。最初に市場調査として、お客様である元請建設会社が専門
工事会社へ何を求めているかをまとめることから始めました。当時の実際のヒアリングや打ち合わせメモを確認すると以下のような感じでした。
・会社によって進み方が異なる。
・ 同じ会社でも部署によってBIM/CIM必要性の認識が異なる。
・ 土木、建築で認識の違い。
・ 仮設はBIM/CIMは不要
・ 現段階でBIM/CIMモデルもらっても見る環境がない
・ etc….
 結局、要求事項をまとめることができず、社内で目標が定められなかったため分科会は半年で解散し苦い思い出があります。
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 そこから地下活動期(2018-2022年)と私が呼んでいる時期に入りました。その期間はBIM/CIMの可能性に気付いてはいるものの、社内でどういうスキームで推進するかを、たまに来るBIM/CIM 案件や社内プログラムの管理業務の対応をしながら熟考しておりました。2021年ごろから徐々に元請建設会社本部からのヒアリングが増え、コロナもあり在宅勤務で新しい働き方が
浸透しだすことでデジタル化が一気に加速した際に、社内でもBIM/CIMが受け入れやすくなりました。ここぞとばかりに流れに乗ってプレゼンを毎日していたのを思い出します。そのこともあり2022年5月よりDX推進の中にBIM(BIM/CIMを含む)推進が立ち上がりました。前置きが長くなりましたが、そこからが本稼働期のスタートでした。
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 地下活動期当時のメモで今につながった言葉が本稼働期の基盤になっておりますので紹介させていただきます。
1.視点 社外 → 社内
2.シンギュラリティ
3.デジタライゼーション
4.新しいプロセスの創造
 ただのメモなのでわかりづらいと思いますので、推進した流れと併せ説明させていただきます。
○最初のメモ
 『1.視点 社外 → 社内』についてです。2018年の苦い思い出があったので見方を180度変えてみました。簡単に言うと、社外目線を一切シャットアウトしました。BIMを社内の業務プロセスに取り入れると社員がどれだけ効率化できるか?省力化できるか?楽になるか?という部分に着目しました。現在の業務プロセス(割と大まかなもの)とBIM/CIMモデルを中心にしたMAP(ゼロベースで大まかなもの)を作成したところ、材料リースで設計、加工から施工まで一貫して行っている会社としては大きなメリットが見えてきました。それを文章化したのが以下となります。
・計画と在庫の連携
・数量表と見積の連携
・提案する計画の手戻り防止(施工計画を含む)
・加工図作成の手間削減
・工場の加工ミス削減
・施工計画の精度向上
・etc….
 これが実現できたら明らかに社内の業務改革の基盤となると確信した記憶があります。
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 次にBIM/CIMを社内標準にするには?ということを考えるようになりました。皆様の会社もそうだと思いますが、新しいものを導入し作業が増えるとなると、明確な大きな効果がない限り絶対に浸透しません。大きな明確な効果があったとしても、現場サイドから不満が出ると思います。
 そこで次のメモ書き『2. シンギュラリティ』が出てきます。この言葉は情報収集でセミナーに行った際、某建設会社の方が話していた単語でした。その場でGoogle検索した思い出があります。シンギュラリティとは、自律的な人工知能が自己フィードバックによる改良を繰り返すことによって、人間を上回る知性が誕生するという仮説。のことを言うようですが、私はちょっと違うようにとらえました。簡潔に言うと『新たな素晴らしいツールを活用すると、便利すぎて以前の体制に戻れなくなる現象』のことと考えております。そのツール=BIM、BIM/CIM+αだと考えております。ですので『BIM/CIMを使ったら業務がすごく楽になった!』と社内での会話が飛び交っているイメージです。今でも同じイメージを持って推進しております。
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 では、実際BIM/CIMのプロセスで一番手間がかかるのは何か?と申しますと、最初にモデルを作る作業(モデリング)でした。2Dの図面作成より明らかに時間がかかっておりました。修正については2Dの図面の修正よりも一つのモデルを修正するだけで済みますので手間が減ります。最初のモデリングが案件によっては2D作図の2~3倍の時間がかかることもありましたので、ここを解決しないとBIM/CIMの推進はうまくいかないと思いました。そのこともあり本稼働期で一番最初にRevitのアドインでモデリング補助プログラムの開発に着手しました。2024年4月に社内リリースを目標に開発中です。その補助プログラムは2Dでは実現できなかった社内独自の計算プログラムとも連動しており、作業構台に関しては数分でモデリングできます。これがあると2D作図より短時間でモデル作成が完了します。これでBIM/CIMの方が簡単で早いという土台ができます。今後は仮設橋梁の補助プログラム作成も着手します。
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 次は社内に水平展開の部分です。前項で『BIM/CIMの方が簡単で早い。』が実現できることでBIM/CIMへの抵抗感が一気に下がります。そこで将来のイメージが理解されると受け入れやすくなります。そこで次のメモが出てきます。『3. デジタライゼーション』『4. 新しいプロセスの創造』上記2つのメモはほぼ同じ内容となりますが、既存のプロセスにBIM/CIMを導入するだけでは絶対にうまくいかないです。大切なのは各部門ごとに合わせ詳細度の高いBIM/CIMを活用したプロセスMAP(フロー)を構築し、ツールとプロ
セスを合わせて展開することです。イメージをなるべく鮮明化し共有する必要があり、それが水平展開の鍵となります。建設業界はご存知の通り、図面中心に業務が進みます。他業界のDXと建設DXの違いはここにあると感じております。私なりの建設DX化までの流れは以下のように考えております。
○ 建設デジタイゼーション:BIM/CIMを導入し図面のデジタル化
○ 建設デジタライゼーション:BIM/CIMを活用したプロセス・フローの確立
○ 建設DX:BIM/CIMやその先のICTを活用した製品やサービスの創造
 現在、社内では建設デジタライゼーションのフェーズに入っております。今後はBIM/CIMを活用し、お客様の省力化や効率化につなげるシステム開発に着手していきます。現在は社内でBIMを7つのグループに分け、各部門と一緒に推進(開発・案件対応・教育サポート)を行っております。このように組織に横串をさすような業務ができるのは、大変ですが非常にやりがいがありチーム全体が楽しんでおります。社内で比べても平均年齢が若く、人気がある部署となっております。今後、その楽しさが伝染しリクルートや若手の活気に繋がればいいなと思ってます。
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 冒頭でも記載した通り、自身の経験からBIM/CIM、建設DXについて書かせていただきました。あくまで1つのユースケースとして捉えていただけると幸いです。建設業界で見ると私たちの重仮設業界はBIM/CIMで遅れております。それに反して最近は非常に多くのBIM/CIMに関する対応の要望をいただくようになりました。私たちの取り組みを重仮設業界に広め、あたりまえ(標準)にしていくことを目指します。
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 最後にまとめさせていただきますと、私たち専門工事会社はお客様である元請建設会社に視線を置くのは当たり前ですが、それを意識しすぎると非常に動きづらいものが出てきます。視野を社内に置き、機能し始めてから外部と連携をとるという流れが最適だと思います。そこで建設DXを意識したBIM/CIM環境を構築し、これからはお客様が喜ぶツールの開発に着手します。今後は、現在のハード(仮設構造物)と一緒にソフト(BIM/CIMツール)を提供することで、お客様の効率化、省力化の一助となるそれが会社の価値としていきます。
 『BIM(BIM/CIM )= 会社の利益(価値)、業務効率化・省力化』
 まだまだ、途中ですがチームみんなで今まで以上に楽しんでいきたいと思います。
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 また、重仮設で要望がありましたら、いつでもご連絡ください。

[全建ジャーナル2024.3月号掲載]


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