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わたしが見た建設業 建設系学科の高校教諭から見た建設業③

宮崎県立延岡工業高等学校 土木科教諭 岡田 篤

 はじめに、1月1日に発生しました「令和6年能登半島地震」において、多くの被害に遭われた皆様にお見舞いを申し上げます。また、救助、救援に当たられている皆様に敬意を表しますとともに、活動の安全と被災された地域の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
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 突然の話題ですが、私は1月になると、阪神・淡路大震災を思い出します。1995年1月15日(日)は、当方の成人式がありました。1月16日(月)は、祝日で、それぞれの場所に移動する方が多かった日でした。その翌日、5時46分に地震が発生しました。山梨に住んでいた私は、遠く離れていた場所でその地割れの音と揺れを感じました。当時、携帯電話は、高価で所有する人は限られていました。阪神地区に住む友人に連絡を取りましたが、1週間以上音信不通でした。その後、震災の体験を聞き、胸が詰まりました。学生だった私は、その衝撃もあり、土木という学問が非常に重要だと認識しました。1999年から2003年にかけ、マリコンに勤務し、東京で現場監督をしておりました。
 当時は、東京港で、埋め立てや浚渫、改良等の仕事をしておりました。当時は、とても忙しく、2月や3月は工期に迫られ、厳しい現場を担当しました。労働条件が厳しい中であっても、それ以上に建設業にはやりがいがあり、出来上がったときの喜びは、誰かに伝えたいくらいでした。1番印象に残っている現場は、東京都神津島村の災害復旧現場でした。2000年8月に発生した三宅島の噴火に伴う直下型の地震に見舞われた神津島では、法面の大規模崩壊が発生しました。その災害復旧のため、現場に入りました。情報の少ない島内で、測量器械やパソコン、CAD等、今では当たり前の機器を駆使して災害状況の測量を行いました。そのデータを元に図面を引き、設計図を作りました。また、小規模な道路ですが、設計から施工までを行い、まだ残っています。直下型の地震の起こる現場で、とても貴重な経験をしました。
 それ以外にも、海上工事やシールドトンネルなどに携わりました。大きい規模の現場やDID地区での施工経験は、とても勉強になりました。
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 建設業を知らない人たちは、施工管理技士や監理技術者の資格をはじめ、どの仕事でも資格が必要なことは、知られていません。建設業を知らない若年者や入職者は、そこにギャップを感じることが多いようです。建設業のイメージとして『誰でもできる』、『勉強しなくてもいい』など安易に入れる業種のイメージがあります。建設系実業高校では、高校時代から資格取得を行うことに取り組んでいます。そのため、意識づけはできています。私が、教員の世界に入るきっかけは、会社が行った資格試験の講師でした。資格を取得した翌年、講師として教える機会をいただきました。その経験が、現在に繋がっています。教員免許を持っていた私は、仕事を自慢できるこの業界を若い人に伝えたいと思い、転職をしました。
 しかしながら、当時、地元の宮崎での土木科の教員採用はありませんでした。そのため、正式採用職員として、長崎県で、14年間勤めました。その間、2年間は、佐賀県でも勤務しました。長崎県で担任を初めて持った時は、ちょうどリーマンショックがあった年で、建設業の採用も少なく県外の他業種に就職する生徒が多かった時代でした。ある先生から『土木科以外の業種に就職されるのは、学科設置の意義を問われるのではないか』と言われました。経済も政治も過渡期にあったあの当時、かなり厳しかったのを覚えています。その後、徐々に就職状況も改善し、地元採用も増えてきました。
 私は、2020 年から私の地元の宮崎県の教員採用試験を受け、地元で働くことになりました。そのころ、コロナウイルス感染症が広がりました。
 3年生の担任をした私は、進路指導でかなり苦労しましたが、全員の進路が決まり、卒業しました。
 次の年度、県外に行った卒業生から、『コロナの影響で、地元にも帰れない』という声を多く聞きました。その声を受けて、後輩たちは、地元就職を強く意識するようになりました。地元採用を意識するようになったタイミングと同じくして、地元求人も増えてきました。
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 その中で、宮崎県建設業協会では、さまざまな取り組みをされています。各県で行われているものとして、インターンシップ受け入れ、現場見学会開催などがあります。それ以外には、卒業した先輩を学校に招いて話を聞く教えて先輩』、保護者や生徒と建設業の若手の方との懇談会を行っています。  また、建設人材採用力向上セミナーが開催されております。当方も微力ながら協力をさせていただいております。地方の建設業にとって、求人活動は十数年停滞をしておりました。その間のノウハウがない建設業者は、新卒者の採用を獲得することができませんでした。コロナ禍を経て、高校生の採用活動は大きく変化を迎えました。私たち教員ができるものは、高校生の求人開拓と生徒たちに将来、未来の持てる進路先を示してあげることです。企業と高校生をうまくマッチングさせるために、宮崎県建設業協会とともにセミナーを通して情報発信を行っています。
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 本校2年生を対象にインターンシップ後、生徒への調査を行いました。調査データをクロス集計した結果が、下の表です。希望進路と生徒が欲しい進路情報を重ねて集計すると傾向が見えてきました。
 県内外の就職する生徒が一番情報として不足しているのは、給与体系のようです。給与について一番意識をしているようです。進路が決まっていない生徒も給与体系を気にしているようですが、続いて福利厚生を意識しており、給与、福利厚生、資格の情報が整えば、建設業への入職も視野に入れてくれるようです。その一方で、公務員を希望する生徒の多くは、休日を大切にしたいようで、その情報をほしがっているようです。そこが、民間企業と公務員を希望する生徒の違いのようです。今後、建設業への入職を意識させるためには、休日、特に週休二日制の普及についての情報提供が必要ではないでしょうか。

 建設業の未来を考えたとき、必要となってくるのは、建設業界への夢だと思います。若者に夢を持たせるためには、経験を持ったものが後輩へその思いを伝えることが必要だと思います。建設業種と他業種との違いは、構造物が1点ものであり、その製品が半永久的に使われると言う特徴を持っています。その特徴を生かし、その施工方法やその利用目的、構造物ができることによるメリットを若者に伝えることが建設業の未来につながると思っています。若者に就業先の1つとして建設業を選んでいただくためには、大人が歩み寄る必要があると思っています。そのためにも、少しでも交流の場が作れれば雇用の機会も増えていくと思います。私たちのような教育業界には、その使命が必要だと思います。
 若者の数が減ってきている今、新卒者としての若者の雇用は厳しい状況となっています。建設業界での改革としては、女性就労者の数を増やすこと、障害者の雇用を増やすこと、経験者の雇用延長等が考えられています。私は、女性就労者や障害者雇用に新しい活路を見出す必要があると思っています。そのためのDigital Transformation(デジタルトランスフォーメーション、DX)の活用が今後必要となってくると思われます。敷居の高い建設業ではなく誰もが振り向いてくれる建設業になる必要があると思います。例えば現場業務にとって、外業後の事務所に戻っての内業作業は、時間を短縮するには効率的ではありません。一方、建設ディレクターを配置した場合には、外業をしながら、事務所で内業をするというハイブリット作業を可能としています。私は、DXを導入するよりも、先に建設ディレクターを会社に導入した方が働き方改革につながると思っています。その上で、DXを導入することが必要となってくると思っています。また、DXを導入することで、困難だった作業を効率化することができ、これまで入職が困難だった障害者にとっての雇用先の1つにもなると思っています。地方にとっては、新規の就労者確保は、大きなハードルがあります。県外で働いている労働者を確保するためにも、建設業キャリアアップシステム(CCUS)の導入が必要だと思っています。工事実績や資格の確認等を一元的に行えるCCUSは、地方の建設業界にとっては、人材確保の有効な手段だと思います。
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 新年早々に発生した震災において、多くの場所で復旧作業が進められていますが、その陰には地元の建設業者の力があることを忘れてはなりません。災害が発生した際、最初に土砂を取り除くのは地元の建設業者です。建設業者は、名前も顔も知られることはありませんが、それが建設業の美徳だと思います。華々しい活動をしなくても、その存在が示されているのです。生徒たちに「もし、建設業がなくなったら」という話をすることがあります。生徒たちは、当面は普段の生活ができるかもしれませんが、いずれ便利な生活ができなくなるということに気づきます。当たり前を支えているのが建設業です。建設業なしには、当たり前の生活は継続できないのです。年始に発生した羽田空港での炎上事故でも、滑走路の早期復旧ができたのは、国土交通省や建設業界のおかげだと思います。当たり前の生活を維持するためにも、建設業の人材確保が重要であると認識しています。
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 私たち教育に携わるものが、新しい情報を提供していくことが、未来の建設業の担い手の確保につながると思っています。そのためにも、私たちが所属する全国高等学校土木教育研究会が果たす役割は、大きいと思います。皆様のさらなるご支援をよろしくお願いいたします。

[全建ジャーナル2024.2月号掲載]

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