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EVはオワコンで未来はないのか?

はじめに

 飯山あかり氏の「魂の演説」と言われた街宣でEVの現状に関して「オワコン」と評した。筆者も現行のEVに関してほぼ同意するが、今後未来がないのか考えてみたい。

日本のEV普及現状

 2023年に日本のEV新車販売台数は約9.1万台で、前年比約1.5倍、新車販売のシェアは約2.28%だった。2020年は0.41%、2021年は0.60%だったのが、軽EV日産サクラ/三菱ekワゴン EV発売後の2022年には1.72%と増加し、これの影響で上昇しており、PHEVを含めたEV+PHEVの総販売台数は約14.3万台でシェアは約3.58%です。2024年1・2月のEVシェアは1.85%(約1.1万台)となり、前年より減少したが、これは国のEV補助金が2月で一旦終了したり、EVのデメリットが露呈した影響と考えられる。2024年3月末から新年度の補助金受付が再開され、販売台数の増加するきっかけになるかもしれない。

海外のEV普及現状

アメリカ
 2023年のアメリカにおけるEV(BEV)の販売台数は約119万台で、普及率は約7.6%に達した。これは2021年の3.2%(約49万台)、2022年の5.8%(約81万台)から着実に伸びている。バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)による最大7500ドルの税額控除や、カリフォルニア州のZEV規制などの支援策が背景にある。しかし、州ごとの普及率には大きな差があり、中西部では数%台に留まる州も目立ち、さらに2023年の第4四半期ではEV販売の伸びがやや鈍化しており、今後の動向は不透明だ。

ヨーロッパ
 2023年のEUにおけるEV(BEV)のシェアは約14.6%(約154万台)で、初めてディーゼル車のシェア(13.6%)を上回った。これは支援策の効果で順調に増加しているが、ドイツでは助成制度の終了が前倒しされ、フランスでは補助金制度の条件が厳格化されたため、2024年は鈍化すると思われる。

中国
 2023年の中国のEV(BEV)の販売台数は約669万台で、シェアは約22.2%に上り、前年から132万台増(24.6%増)したが、シェア自体の伸びは2%増にとどまった。中国は2019年より、自動車メーカーに販売台数の一定割合をNEV(BEV+FCEV+PHEV)にすることを義務付けるNEV規制を強化しており、2025年までに20%、2030年までに40%、そして2027年には45%とする目標を設定している。このボーダーラインに満たなかったメーカーは、他メーカーから超過分のクレジットを購入しなければならない決まりとなっており、クレジット購入を余儀なくされたメーカーも少なくない。昨年、中国市場で40万台以上のEVを販売したブランドはBYD、テスラ、埃安(アイオン)、五菱(ウーリン)の4つのみで、40万台がEVの損益分岐点と見られており、他の100以上のEVメーカーは政府支援によって辛うじて生き残っている可能性がある。

 これらの国々でのEV普及は、各国の政策や補助金制度に大きく依存していることがわかる。

各国の電動化の移行目標

 通商産業省によると、2035年には各国とも100%電動車が目標となっている。特に欧米は2035年にHVやPHEVのようなICE(エンジン)を併用するものも販売できなくなる目標となっているが、EUは方針変更し、3月28日のEUエネルギー閣僚理事会において水素やe-fuelを利用するエンジン搭載車に限り、新車販売を2035年以降も認めることとした。アメリカも次の大統領次第では大きく変更される可能性が出てきた。
 e-fuelと水素に関しては次の機会に。

2023年3月 通商産業省
「トランジション・ファイナンス」に関する自動車分野における技術ロードマップ より

日本でEVが普及しない理由

充電インフラ
 充電ステーションの数がまだ少なく(2024年3月現在急速1万口、普通2.2万口)、充電のためのインフラが十分に整っていないため、長距離の移動が難しいと感じる消費者が多い、
 また、ガソリン車は数分で満タンにできるが、EVは急速充電器を使っても充電に30分以上時間がかかり、バッテリーの温度や外気温によっても左右される。これが日常の利用において不便と感じられることがあると思われる。

車両コスト
 EVは初期購入費用がガソリン車に比べて高いことが多く、特にバッテリーの価格が全体のコストを押し上げ、消費者がコストパフォーマンスを考慮した際にEVを選びにくい状況である。

航続距離
 一回の充電で走行できる距離がガソリン車に比べて短いと感じる消費者が多く、特に地方や郊外では充電ステーションが少ないため、航続距離に対する不安が普及の障害となっている。またヒーターを多用する寒冷地では航続距離が大幅に低下し、渋滞などで止まってしまったり、充電時間が遅くなる不安がある。

国内自動車メーカーの戦略
 日本メーカーには長年、通常のエンジン(ICE)、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)で優れた技術を有しており、環境面においてもEVに劣らない性能を有しているため、現在はEVを普及させるより、既存の技術の磨き上げと、次世代EV両面を見ながら開発している。

電力供給
 EVの普及に伴い、電力需要が増加することが予想されるが、日本はエネルギー資源に乏しく、原子力発電の事故後に電力供給の安定性に対する不安が高まっており、次世代火力・原子力、再生可能エネルギーの普及や電力インフラの強化が追いついていない。

中国メーカーの脅威

 中国政府は「新質生産力」の強化としてEVメーカーに補助金を出し育成しているが、過剰生産で中国国内でも消費できず、余剰生産分は不当にダンピングされたものとして海外に輸出され各国は規制に動いている。
 米国政府が中国製の電気自動車(EV)に対し、異例の関税100%を課すことを5月14日(米国時間)に発表した。 この措置は米国の産業を「不当に価格設定された中国からの輸入品」から守るものだと、ホワイトハウスは主張している。 これまで中国製EVに対する関税は25%だった。
 EUは欧州委員会は6月12日に中国製EVに最大38.1%の追加関税を課す暫定措置を7月から始めるとした。

 さて、日本はどうなんだろう。
BYDは2023年度日本において1,446台販売した、日本で一番売れているEVは日産サクラが3万台以上で全然少ないと思う方がいると思うが、2014年に日本進出したテスラは販売データは公開していないが、年間4,000~5,000台とされており、かなり販売して、今後脅威になると思われる。
 CMに長澤まさみさんを起用したり、販売網を100店舗に拡大しようとしている。

 ここで、東京におけるEV車補助金適用後の実質車両価格をまとめてみた。
実は国や都は一律同額の補助金を出しているのではなく、日本メーカーは国の補助金額は若干優遇(当然だが)されている。都の補助金はメーカー販売台数に応じて5~10万円の上乗せがあり、ここも現状では日本メーカーに対して多く補助されている。ちなみにこの補助金はPHEV、FCEV、HVも対象となっている。

東京における各メーカーの主要EV車の実質車両価格

 ここでBYDの車種を見てみると、価格面で競合するのは日産リーフ、マツダMX-30 EVであるが、航続距離を考えるとBYDが有利となる。また、テスラ3とも競合しているが、車格が大きい(車幅はクラウン、ベンツCクラス、BMW3シリーズより幅がある。)ためだったり、修理代、バッテリ交換に新車1台分の費用がかかることが露見し、テスラ自体の販売台数が落ちているため、競合にならないが、一番売れている日産サクラ/三菱eKクロスEVよりは高いが、軽EVより大きく航続距離が長いため、BYDはあらゆる日本メーカーの主力車種を脅かす可能性がある。

東京における各メーカーの主要EV車の実質車両価格
BYDに補助金をつけない場合

 ではBYDに補助金を出さなければいいかというと、それでも安いというのがわかった。つまりBYDは中国政府の補助金で不当にダンピングされていることがわかる。日本では、自動車に関税がかかっていないようであるが、これは制裁関税をかけるべきである。

 BYDに30%関税をかけた場合が、下記の表である。欧米ほど極端な税率ではないが、これくらいが妥当ではないか。そしてこれはすぐ実施しないと日本の自動車産業は衰退し、また、自動車にはカメラ、センサー、GPSが使われており、経済安保的にも懸念されるため実施すべきである。

東京における各メーカーの主要EV車の実質車両価格
BYDに30%関税をかけた場合

EVゲームチェンジャー〜日本メーカーが注力する全固体電池

 全固体電池は、電解質を固体に置き換えた電池で、リチウムイオン電池の欠点である充電時間や温度変化に対する弱点を克服し、安全性、寿命、出力で優れている。
 バッテリーは10分で充電でき、航続距離は1,200kmとなり、バッテリー寿命も大幅に工廠することになる。またリチウムを使わないため、液漏れや発火の心配はなく、液漏れほごの構造がないため、設計の自由度が高く、より軽量で小型化され、自動車の重量バランスへも寄与する。
 トヨタは2006年から全固体電池の研究開発を始め、2023年10月には出光興産と提携して量産化に向けた取り組みを発表し、2027年度に固体電解質のパイロットプラントを稼働させ、2027〜2028年に全固体電池を搭載したEVを発売予定です。また、2030年までに電気自動車の販売台数を350万台に引き上げ、そのうち170万台に全固体電池を搭載する計画で、日産も全固体電池の開発を進め、2028年度までに市場投入を目指しており、ホンダも独自に研究を進め、2020年代後半にモデルに採用する計画である。

充電インフラの整備

 通商産業省は2023年10月に充電インフラ整備促進に向けた指針を策定し、充電ステーションの2030年に現在の10倍に増やし、高速充電の出力も倍増することを明らかにした。

充電インフラ整備促進に向けた指針 より

バッテリーリサイクルの取組

 2023年9月、日産自動車、JVCケンウッド、フォーアールエナジーが共同で、EV「リーフ」の再生電池を利用したポータブル電源の販売を開始した。このビジネスは小規模だが、EV普及における重要な課題を解決する一歩として注目されている。

日本のEVの未来

 日本メーカーはICE、HV、PHEV、FCEVにも注力しつつ、現在EV普及のネックになっている課題を克服し、ユーザーが安心して使えるものを目指し、2030年までにリリースしようとしていることがわかった。現行のEVはオワコンかもしれないが、未来の日本製EVへの期待が膨らむ一方、政府はこれを後押しし、日本メーカーを保護していかなければ、日本の基幹産業である自動車産業が崩壊し、日本経済が機器的状況に陥ることがわかった。短期的には中国メーカーの不当なダンピングに対抗すべき制裁関税や補助金の抑制が必要であると考える。

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