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e-fuelが日本の自動車産業を救うか?

はじめに

 EUは2023年3月28日のエネルギー相会議で、2035年からのエンジン車の新車販売禁止方針を転換し、e-fuelの使用を条件に販売継続を認めることで合意した。
 カーボンニュートラル実現に向け、世界各国で様々な取り組みが進められていますが、e-fuelがその一つとして注目されている。これのメリットや課題、そして日本の自動車メーカーの取り組みについて探っていく。

e-fuelとは

 e-fuelは、再生可能エネルギーを利用して生成されたグリーン水素(H2)と大気中から回収された二酸化炭素(CO2)を原料とする合成燃料で、これは「人工的に作られた原油」とも言え、ガソリンや灯油、軽油の代替燃料として注目されている。
 e-fuelは燃焼時にCO2を排出するが、そのCO2は大気中や工場排出から回収されたものを使用しているため、カーボンニュートラルを実現できる点が特徴である。

e-fuel

e-fuelのメリット

カーボンニュートラル・クリーン
 原料になるH2やCO2はグリーン水素や大気中や工場から回収されたCO2を使用するため、燃焼時に排出されるCO2とバランスが取れ、カーボンニュートラルを実現する。
 また、石油に含まれる硫黄などの不純物がないため排気ガスがクリーンである。

高エネルギー効率
 e-fuelはガソリンと同等の液体燃料でエネルギー密度が高く、少量で多くのエネルギーを生み出せます。そのため、大容量の電池や水素タンクを必要とせず、既存の自動車構成を変更せずに使用可能です。特に大型車やジェット機では、電動化や水素化が難しいため、エネルギー密度の高いe-fuelは今後も重要であり続けると考えられる。

エネルギー密度の比較
経済産業省・資源エネルギー庁
合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた 官民協議会の設置について より

既存インフラの利用
 ガソリンや軽油と互換性があるため、貯蔵、配送、供給施設(ガソリンスタンド)は既存のものが利用でき、大規模な設備投資は不要で、自動車エンジンも大きな改良は必要としない。

e-fuelの課題

生産コストと生産量
 日本ではe-fuelの商用化に向けたロードマップとして、2025年にベンチプラントで年産0.06千kL、2028年にパイロットプラントで年産20千kL、2030年代半ばには商品化と生産量の拡大を目指し年産600千kLを計画している。日本自動車工業会は、2050年に2020年の自動車用燃料総量の約20%が合成燃料に置き換わると予測しており、このシナリオに基づけば、2050年には自動車用途のe-fuel需要を満たすことが可能とされる。
 現在のe-fuel生成コストは約700円/Lで、その90%が水素の調達コストです。しかし、将来的に水素が大量かつ安価に供給される見込みがあり、2050年にはe-fuelの価格が現在のレギュラーガソリンと同等の170円/Lになると推計されている。(ただし、この推計は収量100%のもので現実的には収量はこれより低く、輸送コストなどは含まれていない)

e-fuel生産量とコストの推移予測

H2の調達
 e-fuelはCO2を排出しない再生可能エネルギーから作られた電気を使って製造された「グリーン水素」を使わなければならない。現在日本でもいくつかのプロジェクトがあるが、現在のコストは海外から輸入に加えて2倍高く供給量も少ない。
 これらを解消するには次世代原子力を使った「イエロー水素」や次世代火力でCO2回収貯蔵を使った「ブルー水素」もe-fuelとして認められるようにすべきであり、次世代原発や火力のリプレースが必要である。

グレー水素・ブルー水素・グリーン水素
資源エネルギー庁

CO2の調達
 大気中の CO2を直接回収する「DAC(Direct Air Capture)」や工場や発電所のCO2回収・貯留技術「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)」で得られたCO2が必要になるが、日本ではやっと動き始めたばかりで2023年6月に独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構がいくつかの地域をCCS事業地域に認定して2030年までにCO2の年間貯留量約1,300万トンの確保を目指している。またNEDOはCCUSの研究・実証事業を苫小牧で初めている。
 これらも大量に回収し、大幅にコストを下げるには、次世代火力発電へのリプレースが重要であると考える。

先進的CCS事業

日本の自動車メーカーの取り組み

 2026年のF1レギュレーション改正において100% e-fuel使用義務化に先駆け、ホンダはF1において2021年からe-fuelを混合した燃料をしている。
 また、スーパーGTにいては、2027年もしくは2028年より日本で生産されたe-fuelを使用する計画である。

 市販車においては、トヨタ系3社(トヨタ、スバル、マツダ)が5月28日に共同記者会見でカーボンニュートラル燃料エンジンの開発を宣言した。
 これらとそれぞれの電動化を組み合わせて、HV/PHEVに磨きをかけるとのこと。

まとめ

 H2、CO2原料調達と製造コストに問題があるが、貯蔵、配送、供給施設は既存が利用でき、エンジンも大きな改造も必要なく、ガソリン、軽油の代替として有望であると考える。
既存エンジンは日本は世界有数の技術を持ち、日本の自動車メーカーにとってこれを普及させることが、メーカーだけではなく、下請け孫請け企業などサプライチェーンの維持ができ、雇用も維持できる。
 これにはH2、Co2の地産地消のため次世代火力発電や次世代原子力発電へのリプレースやペロブスカイト太陽電池を使った高層ビルでのメガソーラー普及など電源事情も大きく関わってくる。これらを活用することにより多くの日本企業が再び力をつけ日本を豊かに強くなっていくと考える。

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