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【紀行】楓林館跡(安芸太田町)

《楓林館跡(ふうりんかんあと)》
ここは、昭和初期二段滝上流の横川集落の住民によって経営されていた旅館の跡です。探勝路の整備や自動車の普及により、利用者が減少し、昭和33年に解体されました。今では屋敷跡が往時のにぎわいを偲ばせています。

《現地掲示板より》
三段峡水梨口から二段滝を目指して歩いて行きます。
葭ヶ原を過ぎると横川川(よこ・ごう・がわ)が見えてきます。
以降、遊歩道左岸が横川川となります。

広島の写真家、熊 南峯(くま なんぽう)氏が地元横川集落の小学校教師、斎藤露翠氏に招請されて彼の地を訪れたのは1912年。往時は楓林館下を流れる川が横川川(よこごうがわ)と呼ばれており。横川集落はこの川を遡ったところにありました。(恐羅漢山スキー場界隈が該当地)

これより手前の川上が藤ヶ瀬と思われます。
松懸之岳、夏場ゆえ山頂がかすかに見える程度でした。
蕭々と風雪のある冬場なら見えそうです。

館より少し遡った一帯を藤ケ瀬といい、藤ケ瀬・楓林館跡前対岸に立派な岩肌があり。南峯氏は「松懸之岳(まつかけのたき)」と名づけました。

そして、現在の楓林館跡。

掲示板の写真はネガ・ポジ反転の写真を銅板に焼き付けたものでした。撮って帰って、加工後の楓林館(往時)の姿がこちらです。

「松懸之岳」手前対岸側に宿所を建て、景観を楽しめる様に斎藤露翠氏は横川集落の有志に勧めます。足繁く同地を訪れる熊 南峯氏もまた同集落の皆さんに宿所開業を勧めました。かくて1923年宿所開業。

これが、楓林館となる前身「松懸館」の創業由来。

位置関係はすこし異なりますが、2022年06月の楓林館跡地。

三段峡渓谷内で営業する宿泊施設としては、無論はじめてのこと。開業なった「松懸館(後の楓林館)」にて熊南峯氏と斎藤露翠氏の交歓は続き。やがて、南峯氏の三段峡を公の認める景勝地としての登録運動へと繋がっていきます。

楓林館までは、無論車で直接赴くことはできません。現在でも直近の駐車場から30分程度は遊歩道を歩かねばなりません。横川集落から御当地までの道もまた山道。途中で船に乗るケースもあり。現代では考えられない不便さがあります。

景勝地に建てられた宿泊施設とは言え。山小屋を想像してもらった方が良いかもしれません。

現在の横川集落は住民高齢化につき、放棄民家が増加中。
あの角の家も空き家。
そして角を曲がれば「恐羅漢スキー場」なのです。

往時、横川地区はじめ近隣の地区内には農業・林業を主体とした方々がお住まいでしたが、一気に人口が増え。小中学校(分校含)もちらほらと開設されて行きます。

こんな山奥に分校始め小学校がどうして沢山あったのかというと…戸河内・筒賀の北端。樽床ダムに至る一帯は無限とも思える原生林に恵まれており。明治期の製鉄にかかる燃料取得のため『帝国製鉄』が着目。

これは、日露対戦を見据えて海軍の建艦競争を始めとした製鉄需要が背景にあるわけですが。そんなことは、中国地方の山間地域の人間にとって理解の枠を越えております。

ブナの木が多い感じ。植林してできあがった山ではないのです。

二束三文で山々(伐採権)を買いたたかれ。木の伐採と切り出しのための職員・その家族のための施設を奥地に作って行ったゆえの人口増加だといわれております。(横川集落界隈は、素朴に山仕事を担う現地の人々という位置付け)

当時の子供たち。熊の現れる山野を越えて分校や小学校へと通ったと、思い出話として語ってもおられます。

楓林館跡…基礎台石か館を囲む石垣の様です。

敗色濃厚となる大東亜戦争、その後の技術革新でこうした山間の事業撤退と共に、人口も減少。あちこちに廃村や廃棄された町が自然に侵食されて…また、自然に戻っていく。

楓林館に関しては、景勝地での営業形態変化が衰退閉館の大きな理由。

明治の御代に起こった都市化事業の一端として、地方の山間集落までもが振り回された…いや。協力を余儀なくされ、やがて見捨てられ。また、江戸の昔以前の状態に戻っただけの話でございます。

うち捨てられた、五右衛門風呂の風呂釜ですな。

日本全国にある炭鉱跡地。工業用地。廃旅館に廃ホテル。英雄のたどる生死の記録は平家物語や吾妻鏡に記されて残りますが…こーいう浮き沈みの跡の語る歴史の方が、身近で雄弁に思えてきます。

知り得る人の全てがお亡くなりになれば、それは無かったことと同じにされても。残った石垣や、すっ転がった風呂釜の残滓が…静かに語ってくれます。

ゆく川の流れは絶えずして…。(三段滝)

しかしながら。
今は今で。そこに住まう人々が各々暮らしを見つめ直し。沢山の方々にお越しいただくための営みも、始まっております。

春夏秋冬、この山野に恵まれた場所をどう生かすか。
難問は山積ですけれど、若い方を交えて有意義な活用方法を見いだしていただきたいものです。

長文御披見、ありがとうございました。(^。^)