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禁忌の魔力 - 2024/01/07

職場の天井が剥がれていた。
地震の影響により2箇所ほど大きく損壊しており、その手前には「危険!通行禁止!」という黄色い張り紙がこれでもかと付けられていた。

翌日にこっそり撮った。
フォートナイトみたいな壊れ方。

通るべからずと上司から念を押されたのだが、この一言が起因して、通行禁止エリアが言葉の魔力を帯びてしまった。
開けるなと言われた箱。
喋るなと言われた秘密。
押すなと言われたボタン。
人に禁止されればされるほど、そこには目に見えない不思議なパワーが溜まっていく。

今回はなんとか思いとどまったが、次にあのエリアを見てしまったが最後、私は別世界へと飲み込まれてしまうやもしれない。
気をつけよう。本当に普通に危ないから。ケガって怖くて痛いらしいから。

禁足地や心霊スポットのような場所に足を踏み入れる人間の気持ちを、ほんの少し理解した。
「するな」と言われたら「したくなる」というのは、単純だけど強力な暗示かもしれない。

これを書いていて、少し昔のことを思い出した。
思えばそれは、人生の分岐とも呼べる選択肢だったかもしれない。


今から3年ほど前、自分用にゲーミングPCを買った時のことだ。
家庭用のゲーム機や、スマホでのアプリケーションだけを触ってきた私にとって、PCゲームの世界はとても輝いて見えた。

「Steam…?水蒸気?吸って気持ちよくなるブツですか?それって合法ですか?海外のやつ?なんだか怖そうですね。」
何もわからないので、こんな事を本気で考えていた。
最初にどんなゲームをしようか、と悩んでいた時にふと知り合いとの会話を思い出す。

ーーーーーーーーー
「お前がたまにやってるゲーム、あれ面白いのか?」
「League of Leagendsってやつ?やらなくていいよ。後悔しかしない。」
「ふ〜ん。わかった。」
ーーーーーーーーー

こうして私は、兼ねてより「やらなくていいゲーム」と聞いていたそれに手を出してしまった。
再三「やらなくていい」と聞いていた為に、そこに不思議なパワーが宿ってしまった。
そいつの語った言葉を信用していなかった訳ではない。
全ては邪悪で偉大なる魔力の仕業だった。


League of Leagends、通称LoL。
・1億人のプレイヤー人口を誇る、世界最大のeスポーツタイトル。
・5対5で協力して行うチーム戦で、相手の本拠地を叩くことが勝利条件。
・100体を超えるキャラクターが存在し、そのキャラクター達全員にストーリーがある。

なるほど、中々面白そうなゲームじゃないか。
あいつめ、こんな良さげな物をつまらなそうに話していたのか。

……
………
結論から言えば、LoLは面白いゲームだった。
この3年前から現在に至るまで、私はこのゲームをずっとプレイし続けている。
ただ「面白いゲーム」というのは、上記のゲーム説明に1つの誤りがあると気づいてからの話だ。

LoLは決して「5対5のチームゲーム」などではない。
「全員が敵。信じるのは己のみ。」
実際にはこれが正しかった。

この3年間で、私が見知らぬプレイヤー達から投げかけられた言葉を書き記しておく。
大事なのはこれらが全て”味方チーム”から投げかけられたチャットだという事だ。

・「俺は暴言やめるからさ、お前はこのゲームやめろよ。」
・「お前手帳何級?」
・「”ゲームのアンインストール方法が書かれたURL”」
・「”中国語スラング”(およそnoteには書けぬ内容。)」
・「”謎の言語”(前後の行動からキレ散らかしている事だけは読み取れる。)」


当初の私は、愚劣極まりないプレイヤーであった。
無知で、弱く、他者をいとも容易く信じてはその度に傷つく…。
この頃の弱さがあったから今の私が存在するのかもしれない。

勘違いしないでほしいのは、決して彼ら(もしくは彼女ら)を憎んではいないという事だ。
逆に、これらの出会いに感謝しているくらいだ。
私が強くなる為に必要だった下水溝のエッセンスを、着実に魂に染み込ませてくれたのだ。
様々なプレイヤー達との出会いを経て、私は強さに執着するようになっていった。

私は…
このゲームを通して、人と理解し合えない事を知った。
このゲームを通して、人を見限る事を覚えた。
このゲームを通して、人を憎んだ…。

そして何よりも、
このゲームを通して、人を信じる事の強さを知った。
このゲームを通して、人を許す事を覚えた。
このゲームを通して、人を愛した…。


今までプレイしたゲームで、ここまで初心者に対して排他的なコミュニティは無かった。
ゲーム中はタール便を擬人化をしたような悪辣な怪物どもが、延々とどす黒い手汗を飛び散らしつつ互いに喰らい合う、そんな最悪のプロレスが常に行われている。
毒電波にのせる呪われたメッセージは、1文字ずつがまごころと悪意と殺意を込めてタイピングされた真っ赤で素敵な血文字なのだ。
こんな暴言と電子の唾が飛び交うような環境でも尚LoLをし続けたのは何故なのかと言われれば、LoLのゲーム性がとてつもなく面白いからだった。

このゲームをインストールする者は一切の希望を捨てなければならない。
しかし私のように、それに見合っただけの価値を、もしかすると手に入れられるかもしれない。

改めて結論を言うと、「LoLは面白いゲームだけれど、自ら進んで人に勧められるゲームだとは到底思わない」というのが正直な所だ。
なので、もし何も知らない人間にLoLの事を聞かれたなら、どう答えるかも決めているつもりだ。


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「お前がたまにやってるゲーム、あれ面白いのか?」
「League of Leagendsってやつ?やらなくていいよ。後悔しかしない。」
「ふ〜ん。わかった。」
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