本当に言いたいことが言えないとき 「場の空気を読む」とは?
先日、夜ウォーキングをしていたとき、不意に「つらい」という言葉が浮かんで来ました。
その日、食堂でいろいろなことがあり、モヤモヤしたまま歩いていました。問題の原因を分析しようとしたり、相手を批判したり、なんとか解決しようと考えてみたり・・・。
本当の声は「つらい」だったのです。
この言葉に出会えたとき、食堂にいた自分が蘇ってきました。
胸がキューッと締め付けられ、身体がこわばっています。涙が出そうになりました。自分で思っていた以上に、心も身体も傷つき、こわばっていたのです。でも、食堂にいたときは、本当の「つらさ」を体験していませんでした。
「つらい」という言葉が浮かんで来た後、本当につらかった自分を抱きしめた感じがして、心と身体は安らぎで包まれました。
このとき初めて、そのときの体験が完了したのです。
「本当に言いたいことが言えない」という悩みを持っている人は、実は多いです。
今この瞬間、どれくらいのことが言葉になっているのでしょうか。
残念ながら、ほとんど言葉になっていません。
「人間関係ファシリテーション」という技術があります。
私たちは家族や会社など、さまざまな場で、何かに取り組んだり、何かについて話したりしています。
何かをしながら、人との間にはいろいろなことが起こっています。このしている何かを「コンテント」といい、今起こっていることを「プロセス」といいます。
たとえば、会議で何かの議題について討議しています。一見すると、話し合いは順調に進んでいるように見えます。目標や役割も決まりました。議題、目標、役割、これらは「コンテント」です。
しかし、そこでメンバーのAさんは、そもそも目標の設定の段階で、疑問が湧いていました。しかし、話はどんどん前に進んでいるので、言い出せません。このAさんの中で起こっていることが「プロセス」です。結局、Aさんはモヤモヤを抱えたまま、会議を終えました。
自分や相手の中に起こる感情や思考、また場の空気など、今この瞬間にはさまざまなことが起こっています。これらはすべてプロセスです。
私たちの生活では「コンテント」が重視されています。仕事でも、何をするか、成果をどう出すかという「コンテント」のやりとりがほとんどです。
一方で、お互いの関係の中で、さまざまな「プロセス」が発生しています。揺れ動く感情、相手やグループに対して思っていることなど。でも、それらはほとんど言い出せません。気づいてすらいない「プロセス」も多くあります。
この1人1人感じている「プロセス」がチームで無視され続けていくと、どうなるでしょうか。
チームは「コンテント」に縛られていきます。
・一度決めた目標は、何か問題があっても達成しなければならない
・責任を持ってやり遂げられなくてはならない
要は「つべこべ言わずに結果を出せ」という空気です。
こうした空気が流れていると、陰で文句は言っても、本音を出すことは難しくなります。会議では建前の言葉ばかりが並び、メンバーは見せかけのやりとりに終始するようになります。メンバーのモチベーションも下がる一方ですし、恐らく成果も停滞するのではないでしょうか。
グループの空気がプロジェクトの成否を左右することは、多くの人が同意するでしょう。グループの空気を左右するのは、「プロセス」なのです。
「プロセス」を表出できるかどうかは、「コンテント」の成否に大きく関わってくるのです。しかし、「プロセス」を表出できているチームは本当に少ないです。
「人間関係プロセストレーニング」では、話し合うテーマを設定して、まずはそのテーマについて話し合っていきます。このとき、「コンテント」ではなく、極力自分の中に起こっている「プロセス」を場に表出することを体験していきます。
このトレーニングを体験すると分かるのですが、自分の中に起こっている気持ちを場に出すのは容易ではありません。その理由の1つは、気持ちを出すことに抵抗感があるからです。また、自分に起こっている「プロセス」が上手く言葉にならないのです。
本当に言いたいことは、ほとんどが「プロセス」です。この「プロセス」を素直に言葉にできたとき、人は言えたと感じます。
また、その「プロセス」を受け止めてもらえたとき、「自分のことを分かってもらえた」という深い安心感を覚えるのです。
「プロセス」のやりとり、これが人間関係の信頼につながっていきます。
「人間関係プロセストレーニング」において、テーマについて話し合っている時間ではなく、そのあとの振り返りが肝です。
グループでの話し合いのあとに、全員で振り返りをします。
あのとき、本当はどう思っていたのか。何が言いたかったのか。
丹念に振り返っていくと、そのときに起こっていた「プロセス」が少しずつ見えてきます。
すると、「コンテンツ」とは別に、自分の中では、実はさまざまなことが起こっていたことに驚きます。そして、ほとんどすべての「プロセス」を場に出していないことに気づくでしょう。
なぜ、「プロセス」を出せないのでしょうか。
「自分の『プロセス』など取るに足らないこと。『プロセス』を表出するのは、目標の達成においては無意味だ」と考える人もいます。
「『プロセス』を表出することで、プロジェクトの進行を妨げたり、成果の邪魔になったりするのではないか」という懸念を持つ人もいます。
なかには、「場の空気を読めない人は、グループから排除される」という恐れを感じる人もいます。
私たちは「コンテント」を重視しているのです。私たちのコミュニケーションは「コンテント」の力が圧倒的に強いです。
「『プロセス』は出すべきではない。あるいは、『プロセス』は感じなくていい」という「プロセス」への見えない壁があるのです。
ここで冒頭の、私がウォーキングしていたとき、「つらい」という気持ちが言葉になった経験に戻ります。
歩きながら、その日起こっていたさまざまなことが思い出されます。楽しかったこと、嫌なこと、腹が立ったこと。最初に言葉になるのは、ほとんどの場合、本当に言いたいことではありません。
これらは、ほとんどすべて「コンテント」だからです。「コンテント」に引っ張られているので、最初は「プロセス」が見えてこないのです。
いろいろなことを振り返る中で、少しずつ自分の中に起こっていたことが見えてきます。そして、あるとき、「あのとき、自分はそう思っていたんだ」という「プロセス」が言葉になります。
「あのとき自分はいろいろ傷ついていたのだ」と。そして、「つらい」という言葉になりました。
傷ついていたこと。つらいという気持ち。
この言葉に出会えたとき、自分の中の空気は一新します。もう何が原因か、誰が悪いのか、どうすればよいのかということは気にならなくなります。
深い「プロセス」に出会えたときに、もうそれ以上の言葉はいらなくなるのです。
自分の言いたいことがいえない。本当に思っていることが分からない。もっというと、本当の自分が分からないという悩みを持っている人にとって、「プロセス」が、その謎を解く鍵になります。
まずは、自分の中に起こっている「プロセス」に興味を持つことがスタートになります。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今、あなたの中にはどのような「プロセス」が起こっているでしょうか?
少し感じてみてください。
最初は、なかなか聞き取れないかもしれません。でも、それでいいのです。
ちなみに、先程まで、私はとても疲れていました。それが今は、スッキリしています。
人の「プロセス」は、刻一刻と変わっていきます。
「コンテント」と「プロセス」について、さらにお伝えしたいことが湧いてきました。
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