自分という世界の旅 まずは世界の端までいってみよう
先日、読者の方から、「なぜ、赤野コーチは毎回、赤裸々に自分のことを書くのですか?」と聞かれました。そのときは、私もなぜなのか、よく分かりませんでした。
書いているときには、ただ、体験から生まれた気づきをどう素直に言葉にするかを探究しています。
ただ、どうもこれではカリスマコーチにはなれないみたいです。ある著名なコーチは、常に読者を意識し、有用な情報を分かりやすく提供することを徹底しているそうです。人のことをイメージできる人は本当にすごいですね。
私の記事は、真逆の方向かもしれません。個人の体験の中にこそ真理があり、深い気づきには普遍性があると信じているのです。
突然ですが、私は旅が好きです。それも自分の世界を旅するのが。
最近、「自分に起こっていることを正直に書くことは、さらに自分を深く知ることにつながるのでは」という言葉が浮かんできました。
赤裸々に自分の体験を書くのは、旅行記のようなものなのです。
いきなり深い自分には出会えません。自分を掘り下げるには、まずは今起こっていることを丹念に観察し、言葉にしていくことが必要です。
この今起こっていることに気づくことが結構、難しいです。普通にしていると、すぐに次の関心に移っているからです。これでは広く浅い自分にしか出会えません。次にいくのではなく、まずはじっくりと今の体験を味わいたいものです。
分からなかった体験が言葉になった瞬間、自分をギュッと抱きしめたような温かさに包まれます。自分を理解できたことに秘かに感動するのです。
そして言葉になってしまったとき、それは一つの旅の終わりです。すでに既知の自分になったからです。
既知になったとき、その側にある未知の世界が現れてきます。
一つ言葉になれば、その側にある、言葉になっていない世界が現れてきます。これが「分からない」ということです。一つ分かれば、また分からない世界が顕れてきます。
分からない→分かる→分からない→
この過程を続けていくことで、まさに未開拓の自分の世界を探検しているのです。
まずは、自分が知っている世界の端まで行ってみる。
そのために言葉を使うのです。
「こんなことを言って良いのだろうか」と思うときがあります。
そう思ったとき、多くの場合は、「言わない」方を選択するのではないでしょうか。
・場にそぐわないから
・嫌われなくない
・場の空気を壊したくない
・自分の個人的な感情など価値はない
これは社会的には正しい判断かもしれません。余計な波風を立てることもないですから。
私はこの「言ってよいのか分からない」という瞬間、身も心も震えています。
心の底から、身体の底から「言いたい」というエネルギーが溢れてくるのです。
これまで2回にわたって、コンテントとプロセスについてお伝えしています。
コンテントは、物事の見える側面です。コンテントの言葉は、出来事や目標を表現します。これは、社会を生きる上では必要ですが、これはすでに知っている場所の旅といえます。だから、コンテントについては、いくらでも言葉にできます。
一方でプロセスは、見えていないことを言葉にします。自分の中で起こっている気持ちや身体の状態であり、関係性の中で起こっているエネルギーです。
プロセスは、一見すると無意味に見えますし、社会的に求められる流れを疎外することさえあります。
ただ、このプロセスこそが自分の未知の世界への旅なのです。
この記事は、旅した体験を記した旅行記だと申し上げました。プロセスを言葉にしたいというエネルギーに突き動かされながら、言葉を紡いでいます。
そして旅行記として言葉にすると、もうそれは知っている場所です。プロセスは、刻々とコンテントに変わっていくのです。
そして、また新たな未知の世界に旅立ちます。
人は、知らないことを知りたいという無限の好奇心を持っています。未知への出会いに導かれているとも言えます。
未知の世界への旅は、どこに向かっているのか。
ちなみに禅の修行は、「自分になる」ことだとされています。
ヘルマン・ヘッセは著書の中で、「どんな人間の一生も、つまりは己へと向かう道だ」と述べています。
生きている時代や社会、信仰が異なる中で、表現こそ違えども、真理は同じなのです。
今、一年を前にして、これからどうなるか、まったく分かりません。これは、はじめての感覚です。
以前は、年初に目標を立てていました。また、この数年は目標を立てることはなくなっていましたが、一年の姿がおぼろげながら見えていました。それが今年は、まったく見えません。
この感覚をどう言葉にすればいいのか。先日までそんな問いを持っていました。それがさっき、言葉になりました。
今年の方向性は、「分からない」を生きること。
なにが起こるか分からない今この瞬間を懸命に生きる。未来を予測しない今は結構怖いです。でも、これがプロセスを生きるということかもしれません。
まだ見ぬ世界への旅。自分になる道。
どんな言葉に出会えるのか、そしてそれを出すかどうか、心震えるような体験をしたいと思っています。
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