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ZEMAITIS 「CAJ-300HS-12」伝統のZEMAITIS・12弦サウンドが身近に楽しめるエレアコモデル

「ZEMAITIS」の生みの親である英国のギター・ルシアー、トニー・ゼマイティスは、1950年代半ばにギター製作を開始したが、1970年頃まではアコースティック・ギターを製作していた。

少年時代に製作した最初のギターは、友人から借りた古いクラシック・ギターのコピーだったが、手先が器用で研究熱心だったトニー少年は見よう見まねでギターを完成させた。
その自作したギターを手にしたトニーは言葉にできない特別な喜びを感じ、やがてギター製作の道を歩むようになる。
以来トニーは、音楽好きの友人のためにギターをハンドメイドするようになり、やがて彼が製作するギターはロンドンのミュージシャン達の間でも注目されるようになった。

ギター製作を始めた頃から、トニーが製作するギターには幾つかの特徴があった。
大型ボディを採用した個性的なデザインが多かったこと、そして当時としては珍しい12弦モデルが多かった。
トニーは若い頃からギタリストとしても活動したが、ライブではよく自作した12弦ギターを愛用していた。
当時トニーのライブを若き日のエリック・クラプトンが観客として観ており、クラプトンは後年のインタビューでそのことについて述べている。
実際にクラプトンは60年代前半にトニーが製作した中古の12弦ギターを入手し、ブラインド・フェイスのプロモーション写真の撮影でも手にしていた。
その後クラプトンは、特別大きく豪華な12弦ギター(通称イヴァン・ザ・テリブル)をトニーにオーダーして使用したことは有名な逸話である。

トニーは70年頃からエレクトリック・ギターの製作をメインで行なうようになったが、少数ながらも、継続して12弦アコースティックも製作した。

今回は、近年のゼマイティス12弦ギターにまつわるストーリーを紹介しよう。

トニー・ゼマイティスが2002年に他界し、その遺志を継いでゼマイティス製品が日本で企画・生産されるようになったのが2000年代前半である。
当初はソリッド・ボディ・エレクトリックが中心の製品ラインナップで構成されていた。
しかし、トニーが遺した独創的なアコースティックギターのデザイン、製作法を活かす形で少し遅れて、アコースティック・ギターのフラッグシップ・モデルが北アイルランドや日本の工房で少数製作されるようになった。

2007年になると、クラプトンがオーダーしたことで知られるイヴァン・ザ・テリブル・タイプのスーパー・ジャンボ12弦モデル、Z-SJHW12/Rが少数製作され、クラプトン・ファンの間で話題となった。

Z-SJHW12/R
Z-SJHW12/R

以来ゼマイティスでは、日本製の上位モデルからCAJ-200HS-12やCAJ-100FW-12Eなどスタンダード・モデルに至るまで、数多くの12弦アコースティックをリリースしている。

今回は、昨年後半に発売された「ZEMAITIS CAJ-300HS-12」を採り上げて詳しく紹介しよう。

CAJ-300HS-12


このモデルは、昨年同時に発売された6弦モデル「CAJ-300HS」と
使用材等の基本的な仕様は共通しており、その12弦バージョンである。

まずは各部分の仕様から見て行こう。

写真を見て分かるように、丸みの強いデザインのオリジナル・ジャンボ・ボディ(437mmワイド)を採用。
最大幅17インチを越える大型ボディながら、ウエストが深くくびれているため椅子に座った状態での演奏でも、抱えやすく、ボディの大きさを意識させるシーンは少ないだろう。

ボディ・トップは、厳選されたソリッド・シトカ・スプルースを使用。
スプルース材を真空状態で加熱することで水分やミネラル分、樹脂分を最適な状態に調整する独自技術の「トリファイド加工」が施されている。
この特殊な熱加工は、ギター用木材としての安定を促し、長年弾き込んだ音色を彷彿とさせる熟れたサウンドを人工的に作り出す方法として、現在様々なメーカーが熱心に研究、採用している技術と同様のものである。

ゼマイティス・アコースティックの大きな特徴となるハート型サウンドホールを採用し、ロゼットには美しいアバロンのインレイが施されている。
さらにトップ外周にもアバロンのパーフリングとウッドバインディングが施され、ゼマイティスならではの華やかさを演出。
バック&サイドには、バランスが良く温かみのあるトーンウッドとして知られるマホガニーを使用。
ボディバックにも3プライのウッドバインディングと7プライのセンターストリップを施している。

ナット幅48mm(12フレットで約58mm)という12弦としては握りやすい標準的なサイズを採用したマホガニー製のネックは「UとV」の中間的なグリップに削り込まれ、6弦ギターやエレクトリック・ギターに慣れたプレイヤーにも手に馴染みやすい仕上がりとなっている。

個性的なデザインのマスタッシュ・ブリッジとフィンガーボードには、高級トーンウッド材として知られるエボニーを使用。

エレクトリック・アッセンブリには世界的に信頼性の高いL.R. Baggsの上位モデル、「ステージプロ・プリアンプ・システム」と純正のアンダーサドル・ピエゾ・ピックアップを採用し、ボディサイドには、ボリューム、トレブル/ミドル/ベース、ノッチ、フェイズ・スイッチ、デジタル・チューナーが非常に見やすい位置に搭載されている。

実戦的な高級プリアンプシステムを標準仕様で採用することで幅広いサウンド・バリエーションを作り出すとともに、豊かな響きが感じられる12弦ギター特有の広がりのあるサウンドをリアルにライン出力する。

気になるアコースティックのサウンドだが、トリファイド加工されたトップに、豊かな表現力を持つフォワードXブレイシングとバランスの良い25-1/2インチ・スケール、さらに量感のあるジャンボ・ボディにより、12弦モデル特有の煌びやかなサウンドに張りのあるテンション感と力強さがプラスされている。

高級ギターとしてのスペックを採用し、華やかで個性的な外観と美しいサウンドを持ちながらも、10万円代前半(価格はオープンプライス。専用ギグバッグ付)で入手可能な「CAJ-300HS-12」。
その魅惑のZEMAITISサウンドをぜひ一度体験してもらいたい。


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