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Kritik関連原稿④ 諸々

0.はじめに

 最後はKritik関連の諸々の原稿を投稿します。JDA2021一院制論題で提出されたKritikでも使用しました。一院制の時のパートナーが戦略をまとめてくれたので、こちらも参照ください。K-Affに対して否定側でKritikを作ったので、完成しなかったですがそれも挙げておこうと思います。

1.原稿

①General

1.共感や社会的属性に基づいてマイノリティの問題を議論するのは危険です。マイノリティは社会の中で共感を得にくい人だからです。

NPO法人アクセプト・インターナショナル 永井 2021
1点目は、理性の錨(いかり)を持つということだ。これまで再三指摘した通り、基本的に共感の問題とは、人々の感情が極めて限定的な範囲のみを照らすスポットライト的な性質を持つことにある。簡単に言うと、スポットライトの光が当たらない人、すなわち他者から共感されにくい人は、支援が必要な状況にあっても社会から取り残されてしまうというわけだ。(中略)この理性の錨は、他者を傷つける機会を減らすことにもつながる。共感の暴走が、他者の攻撃に発展することはままある。ジェノサイドのような圧倒的な暴力しかり、時に人を自死にまで追い込むSNSなどでの容赦のないバッシングや中傷しかり。

2.マイノリティを代弁することの危険

金沢大 仲正 2017
(批判的知の主体である)自分たちが、抑圧されている彼らの状況を(彼らになり替わって)把握していることを自明の理であるかのように振る舞う。「他者」を「表象 represent」することは時として、自らが「他者」を「代表=代理represent」することを含意している。一見、他者により添っているように見える「表象= 代表 = 代理」によって、認識する主体と、認識される客体(=他者)の間の非対称的・一方的な関係が自然なものとして固定化される恐れがある。

仲正昌樹『現代思想の名著30』215頁より、スピヴァク『サバルタンは語ることができるか』の解説


3.単にマイノリティが統合されるだけではダメで、ルールを変える必要がある。

東大 上野 11
というのは、男女雇用機会均等法、つまり女も男なみに働けば、男なみに処遇してあげるよという法律ができた時に、わたしたちは困惑を覚えたからでした。(中略)同じことが聖域なき男女共同参画のもとであらゆる分野に進むことになります。しかし、現実の社会構造を変えないまま、そのルールを変えないまま、競争に女も平等に参入することが、私たちの望んだことだったのか。それには、「まさか」と思わないわけにはいけません。

上野千鶴子『生き延びるための思想』(岩波現代文庫)331-332頁


②一院制のパラダイムの議論

我々の有権者としての政治的能力を高め、また意思決定能力を高めていくうえで、政策ディベートは特に重要です。

JDA理事 安藤 07
「ディベートにおいて政策形成パラダイムを採用するメリットは、いくつかあると思いますが、最も大きいものは、政策論題を用いたディベートでは、一番自然な考え方である、ということでしょう。現実世界においても、例えば選挙権・被選挙権年齢を18歳まで引き下げる、といった行為は、国会などでの議論を通じて相応の法律を成立させることにより実行されるでしょう。また、ある政策のメリット・デメリットを分析して、その政策を取るべきかどうか判断する、ということも、日常行われています。(中略)また、このような政策形成的な考え方を学ぶことは、実社会においても役にたちます。政治だけではなく、多くの行為(企業活動や、個人の選択など)が、メリット・デメリットの比較を通して決 定されており、様々な意志決定の場面に応用できるでしょう。」終わり

特に一院制の議論は政策という形で議論すべきです。一院制は実際にホットな政治トピックになっているからです。

国際大 加藤 2021
ただ、与党がこのまま衆参両院で多数の議席を占める状態が続けば、改憲論が現実味を増し、その際には大きなテーマとして二院制見直しが俎上に上がるだろう。逆に、与党が議席数を減らせば、再び「ねじれ国会」が常態化する可能性があり、その場合も二院制見直し論は再燃するだろう。2017年の総選挙の際には希望の党(当時)が、一院制の導入を政策の柱に据えて維新の会との共闘を図った。この問題は今後も大きな政治争点となり続けるはずだ。

例えば一院制の導入を目指す議員は改憲原案を国会に提出しています。

しんぶん赤旗 2012
特に、一院制国会実現議員連盟(一院制議連、会長・衛藤征士郎衆院副議長)は27日、国会を一院制とする改憲原案を横路孝弘衆院議長に提出。正式に受理されるかどうかはこれからの協議次第ですが、改憲原案が国会に提出されるのは初めてです。

③未完のKritik

論点1 肯定側の議論の問題点 リンクとインパクト
1990年代の政治改革以降、統治機構のあり方について多くが論じられています。しかし、それらは統治機構のあり方だけを論じるもので、再分配をどうするかなど望ましい具体的な政策のあり方と関連づけて論じませんでした。なお資料中の臨調型政治学とは、政治改革に関わった政治学者のグループのことです。

北大 山口 12
政権交代の意義づけについて、民主党と臨調型政治学には、統治形式への関心の偏重という共通点がある。政権交代の眼目として、政治主導の実現が謳われ、政権交代後も、事務次官会議の廃止などの制度改革が実現されたことはすでに見た。臨調型政治学の側においても、政権交代前はマニフェストによる選挙戦の実現、政権交代後は政治主導のための制度改革と、統治形式レベルの議論は盛んであったが、実体政策のレベルについての議論はなかった。(中略)政党にとって、統治形式の制度改革と実体的政策を分離することは、そもそもありえない話であった。

『政権交代とは何だったのか』


政策の中身を問わない間に「決められる政治」が進めた新自由主義改革は、貧富の格差を拡大し、民主主義を空洞化しました。

九州大 施 21
新自由主義に基づくグローバル化路線が続くと、政治的影響力のバランスが各国で崩れるからだ。グローバルな企業や投資家の声が強くなる一方、庶民の声はあまり国政に反映されなくなってしまう。(中略)実際、新自由主義が世界的に流行した90年代以降、日本でも他国でもグローバルな企業や投資家に有利な政策が数多く採用された。法人税率の引き下げ、雇用流動化の促進、株主重視の企業統治改革、低賃金労働力としての外国人労働者や移民の受け入れ、不況下でも稼ぎやすいインフラ事業や医療の民間開放などである。グローバルな企業や投資家は潤ったが、各国庶民の生活は貧しくなった。

https://www.sankei.com/article/20211013-AEBTJ44HWZLZDI7CUBB5AH66UE/?643573


その結果、非民主的な政治運営が行われています。

北大 権左 2020
ところが、二一世紀臨調を結成した政治改革派の学者は、「政治主導」の名で経済財政諮問会議を設置し、首相官邸の機能を強化するとともに、英国の二大政党制をモデルにマニフェスト選挙を導入するよう訴えた。しかし、2009年9月の民主党政権誕生と2011年12月の再政権交代を経て明らかになったのは、過半数議席を人工的に手に入れた選挙の勝者は、一強多弱の議会で権力を濫用し、反対派を排除して体制転換する機会も手に入れるという政治改革の大きなリスクである。しかも、内閣人事局を設置し、首相が官僚の人事権を掌握した結果、政権に都合良く公文書を偽造し隠蔽する官僚制の体質劣化が見られた。

権左武志『現代民主主義 思想と歴史』(講談社選書メチエ)240頁


論点2 オルタナティブ
私たちは、ディベートという文化的実践を通じ、こうした新自由主義的な統治のあり方にNoを突きつけ変革するための連帯を生み出し、民主主義を実現するべきです。

政治学者 シャンタル・ムフ 18
したがって、芸術的かつ文化的な諸実践は、左派ポピュリズム戦略において重要な役割をもっている。新自由主義システムがそのヘゲモニーを維持するには、人々の欲望をたえず動員し、人々のアイデンティティを形づくる必要がある。新しいヘゲモニーをつくり出すであろう「人民」の構築は、言説的/情動的な実践の多様性を育むことを必要としているのだ。これらの実践が新自由主義的なヘゲモニーを支える共通の感情を切り崩し、民主主義の根源化に向けた諸条件を創出するだろう。共通の感情を形成する重要性を認めることは、左派ポピュリズム戦略にとって必要不可欠である。なぜなら、スピノザが鋭くも強調したように、ある感情にとって代わることができるのは、抑制しようとするものよりも強力な、反対の感情のみだからである。

『左派ポピュリズムのために』104頁


とりわけ現代の日本のディベートコミュニティにおいてこのような投票をすることには意義があります。例えばCoDAHPでは、ディベートを学ぶ利点として「キャリアパスに有利に働く」「個人の意思決定の訓練」といった部分が強調され、ディベートが新自由主義的統治に組み込まれかけているからです。

CODAHP「ディベートを学ぶメリット」から
文書・論文の作成、ディスカッションにおいて、これらの訓練を集中的に詰めるディベートを経験することは、大いにメリットになります。[中略]我々が普段無意識に膨大な数繰り返している意思決定・判断のプロセスを、メリット・デメリット比較方式等を通じて可視化・プロセス化し、そ の精度をひたすら上げていく訓練をするのがディベートです。判断に必要な各種材料を収集し、論理的・科学的根拠に基づいてそれらを吟味し、適切な基準・ビジョンに基づいて最終的な意思決定を下すというプロセスを繰り返し体験し訓練していくことは、社会の変化が加速し、個人あるいは組織が重大な意思決定を迫られる局面が激増した現代において、極めて強力なツールとなります。


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