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もう一枚何を読むか?(インパクト周り)

前回の補足:コミ点廃止へ向けて

 前回は時間や道具の使い方を見直し、コミ点を気にせずもう一枚読むべきであることを確認しました。将来的にはゆっくり喋らせるために導入されたコミ点は廃止すべきです。マナー点を存置すれば、マナー点の重要性が高まり、マナ悪が抑制されると思います。まずは、ジャッジがコミ点をつける際に、スピーチの早さとの関係を断ち切ることから出発しましょう。また、400字程度を目安とすることを推奨するガイドラインの記載削除すべきです。

 前回の内容について、沢山読むと選手が自分で処理できないという懸念を耳にしましたが、そんなことはありません。沢山読む中で、処理能力はつきます。論点を落とすことは二反の準備時間で考えればいいですし、どの論点を落とすか考えるか判断するのも力がつくので有益です。負荷をかけた方が成長は早いでしょう。

 ゆっくり喋る必要がある局面があるという指摘もありましたが、1Rまで速度があったからゆっくりとした2Rが印象に残るにすぎないように思います。ただ、立論や一反と異なり、二反はもう一枚読むパートではないので、別個の指針を示す必要があるなと思いました。ありがとうございました。

本題:インパクト周りの議論の一般論

・インパクトに理由づけがあるか
 全ての試合において、三要素が対応しており、かつインパクトがしっかり理由つきで説明されているわけではないと感じます。とはいえ、「選挙権を保障しよう」とか「格差は良くない」といったもっともらしい主張を、理由づけがよくわからないからといってダウトで切るのは、あまりにも思想の強いジャッジになってしまうので、そこまではできません。
 立論を作る際にも理由づけを意識することが必要ですし、反論を作る際にも簡単にインパクトに納得せず何とか争点にできないか考えましょう。

・2Rでインパクトを比較するときに伸ばせる資料があるか 
 発生の有無で決着がつけられない場合、ジャッジとしては投票理由を説明しやすい議論・資料が欲しいものです。「〜だから、〇〇を最優先すべき」といえないかを検討してみましょう。
 例えば、解雇規制論題のときには、経済成長は国民の暮らしを豊かにするための手段にすぎないから、雇用を最優先すべきというエビデンスが読まれていました。

日弁連 2013
現に、1997年と比べて企業収益は1.63倍に増えているにもかかわらず、労働者の賃金は12%も低下している。国際競争に勝つことを目標として各国が減税や労働基準・環境基準の緩和などを競うことは、「底辺への競争」でしかない。(中略)経済成長は、全ての国民の暮らしを豊かにするための手段に過ぎないのであり、国民を犠牲にする経済成長など本末転倒である。雇用規制の緩和を経済成長の手段とするべきではない。

https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2013/opinion_130718_2.pdf


 また、(将来の)日本では〜すべきという視点で優位性をつけるケースもよくあります。例えば、特に日本はマイノリティに対して不寛容だからこそ、政治制度として事前に差別を抑止すべきであるとか、終身雇用が崩壊したからこそ、これからは流動的な労働市場の形成を目指すべきといった議論です。引用するのは、一院制論題で使っていた、これからは決められる政治よりコンセンサス調達を重視しようというエビデンスです。

東大 菅原 2014
合意形成型の民主主義は意思決定が遅いとされるが、現在の日本の重要な政策課題(社会保障、少子高齢化、財政赤字)の場合は、その長期的な問題の性質を鑑み、多勢力間で合意を得て政策決定を行ったほうがよいと言える。おわり

https://00m.in/oDwPG


具体例:電子投票論題

・肯定側→電子投票によって、在外邦人・要介護3-4の人が投票しやすくなる
・否定側→中露からのサイバーアタックや買収により、選挙がうまくいかなくなる

という議論がされていたとします。否定側としては、インパクト周りの議論として何ができるでしょうか。

・肯定側への反論①:在外邦人の投票権は大切か?
 電子投票導入で、一定程度投票がしやすくなることは否定しきれないと思いますから、インパクトを争うことが重要です。
 在外邦人は、日本に居住する日本人と同じようには税金を納めていませんし、おそらく平均的な日本人より豊かであると思われます。こうした人たちは、多少負担でも在外公館や郵便投票のために努力すべきと反論することが考えられます。
 また、納税が少ないことに加え、国籍と参政権のつながりが明らかでない以上、在外邦人に選挙権を認める必要がないという見解も考えられます。

一橋大 森村 2001
しかしリバタリアニズムの立場からすれば、ある国の国政を持っているとなぜその国の参政権を与えられるべきなのか、その理由は明らかでない。むしろ、参政権の根拠は、人は誰でも自分が住んでいる地域を権力的に支配している政府の公的意思決定に参加する権利を持っているとか、税金を取られる人はその使い道について発言権を持つべきだ、という発想に求める方が自然である。(中略)その一方で、外国に定住している日本人はその国の参政権を与えられるべきだが、日本の参政権を与える必要はない。

森村進『自由はどこまで可能か』講談社現代新書、136-137頁
 

以上のような反論をすれば、一定の割合のジャッジが、インパクトを割り引く気がします。

・肯定側への反論②:要介護3-4の人の投票権は重要か?
 前述のように、電子投票導入で、一定程度投票がしやすくなることは否定しきれないと思いますから、インパクトを争うことが重要です。しかし、要介護3-4の人は、在外邦人より守られるべきな感じがします。どうすればいいのでしょうか。
 第一に、否定側の議論と絡めることが考えられます。こうした弱い立場にある人は、自分で十分に判断できず、買収や身の回りの人による操作を受けやすいでしょう。そうだとすれば、積極的に権利を保障すべきとまではいえず、否定側のインパクトの方が上回るのだと比較する道です。十分投票が動く議論だと思いますが、これで足りるのか、やや不安が残ります。
 そこで第二に、「十分な判断能力のない人の選挙権を積極的に保障する必要はない」と正面を切った反論をすることが考えられます。
1)現状でも、未成年者からは選挙権が奪われているわけですから、要介護3-4の人が投票しにくいことの何が問題なのかとジャブを打った上で、
2)望ましい政治的意思決定のためには、判断能力に応じて投票権も違うべきだというエピストクラシーを擁護する道が考えられます(例えば、 ジェイソン・ブレナン『アゲインスト・デモクラシー』のどこかに、そういう趣旨のことが理由付きで書いてありそうです。)。
 ジャッジの評価は結構分かれると思いますが、インパクトをドロップするよりはいいと思います。肯定側としては、包摂的なデモクラシーを目指すことの価値を正面から論じておくことが有効な備えになるでしょう。ただ投票権が大事だという主張では弱いと感じます。

・否定側のインパクトの補強
 電子投票は現実の投票と異なり確かな実感がなく、操作/買収されているという主張が罷り通りやすそうです。そこで、実際に選挙の公正が守られているかに加え、選挙制度への信頼が揺らぐ中で、公正な外観があることそれ自体がこれからの日本のデモクラシーにとって望ましいんだという主張をすることが考えられます。首相の暗殺事件やトランプの選挙不正主張周りでそういった主張をしている人はいそうです。
 この議論は、実際に選挙の公正が守られているかとは独立に投票理由を構成しうるので、肯定側としては対処が必要になるのが良いところです。

終わりに

 今まで述べてきた反論がジャッジにどれくらい取られるかは自分自身よくわかりません。しかし、1ARとしては、ドロップするのも怖いはずです。大切なのは、もう一枚読んで、1ARにプレッシャーをかけるチャレンジをすることです。もう一枚読むことを繰り返す過程で、インパクト周りの議論もよりブラッシュアップされていきます。もっと積極的にインパクトで勝負を仕掛ける際の参考になれば幸いです。

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