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租税史回廊

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税経通信の記事や、各種講演記事、関連論文をまとめて一冊の本にしたもの。

内容としては、租税の歴史を過去、現在、未来までの歴史を振り返るもの。雑誌の記事や論文を集めたものであるためか、記載内容にかなり重複がある。中里先生の関心分野がどこにあるか分かりやすいというメリットがある反面、同じ内容が度々色んな箇所で出てくるのは少し食傷気味になる。

具体的に、繰り返し述べられているのは以下の点かと思われる。

(1)租税の歴史

まず、ウェストファリア条約による主権国家の成立により、「公権力による対価なしの強制的課税権という・・・公法的な現象」が発生した。次に、名誉革命による国家財政と金融の密接な関係(「将来の税収を担保として償還する国際を発行」)が発生した点について述べている。

(2)課税逃れを放置することが体制の維持に影響があること

唐の国は、塩の密売人である黄巣の乱により滅亡した。また、日本でも班田収授の法による租庸調制度が、神社や貴族に対する非課税制度を濫用した荘園の蔓延により崩壊させられた点を例にとり、課税逃れによる税収減少の問題点を指摘している。

(3)租税の専門家について

租税法は、会計学、経済学、私法の各分野と密接な関わりがある。現在の租税法学者は、中里先生が研究を開始した頃に比べて、ほとんど経済学を勉強している。租税専門家同士の対話においては、相手の学問の理解(勉強)が大事である点、指摘している。

(4)日本の税務訴訟について

日本の税務訴訟は、興銀事件を境に大きく変化した。これ以降は、租税法理論の中でも事実認定の問題が重要となっていった。また、納税者が勝訴する事が、税務訴訟では納税者は勝てないという常識を覆すものとなった。


これらのことが繰り返し述べられていたと思う。この中で、特に、(3)については、興味深かった。本書では、専門家同士の対話や学者同士の対話といった軸で(3)が言及されていたように思える。しかし、これは、実務家も同じではないか。租税法という法律を理解するためには、当然租税法が適用となる事実関係を切り取るための民法、会社法などの法律知識だけではなく、その背景となる事実に対する証拠と推認過程および推認力の議論、さらには、会計の理論や知識(会計の常識)や、経済学(財政学的な見地や、ミクロ経済学的な見地)をもって取り組む必要があるように感じた。今後仕事をしていく中で、目先の法律改正や計算の仕組みに追われることなく、幅広な知識つけていかなければなと感じた。

なので、税務に、法律分野の立場から、会計分野の立場から携わる全ての方に、多少内容の重複や、ちょっと自慢に感じるような部分もあるけど、是非、一読を進められる本です(場合によっては、雑誌で興味のある箇所だけ拾い読みするのもあるかもしれないです)。

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