免税店(輸出物品販売場) インバウンド・爆買いの影で行われた不正利用


0.だらだらとした前置き


訪日外国人に対して消費税を免税で販売できる免税店であるが、申告もれや追徴課税のニュースが後を絶たない。

アイフォーン数百台購入の例も…免税認めず、アップル日本法人に140億円追徴課税 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 2022年12月7日
不適正“免税販売”「イオンリテール」に2億5000万円追徴課税(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース 2023年2月9日
大丸松坂屋百貨店、免税販売めぐり3億9千万円申告漏れ:朝日新聞デジタル (asahi.com) 2023年6月29日
三越伊勢丹、免税販売めぐり7億円申告漏れ 東京国税局が指摘:朝日新聞デジタル (asahi.com) 2023年7月28日

コンプライアンスを意識している大企業がこのようなことに陥ったのは、この免税店(税法用語で輸出物品販売場)の制度自体に欠陥があったという側面が強い。
この欠陥はどうやら令和6年度税制改正で何とかなると思いきや、令和7年度税制改正に持ち越されることとなった。

この制度として限界を迎えている輸出物品販売場について今回は解説を行うこととしたい。

1.誰が免税になるのか。なぜ免税になるのか。

インバウンドや爆買いといったニュースでこの免税店は知名度を得た。したがって、外国人が対象になるといったことは何となく理解されていると思うが、厳密には非居住者(本邦内に住所又は居所を有しない人。つまり日本国籍を有していても含まれることがある。)が対象となる(厳密と言っておきながら、本旨から逸れるため少々簡便的に記載しているがご容赦願いたい。)。
令和5年4月1日以降は、下記のとおり免税の対象となる非居住者の範囲が変更されているが、事業者による確認手続きの煩雑さの回避のための改正であったため、読み飛ばしてもらって問題はない。

  • 日本国籍を有しない非居住者:「短期滞在」、「外交」又は「公用」の在留資格を有する者等に限る。

  • 日本国籍を有する非居住者:国内以外の地域に引き続き2年以上住所又は居所を有することについて、在留証明又は戸籍の附票の写しで一定の要件を満たした「証明書類」により「免税購入対象者」であることが確認された者に限る。

次に「なぜ免税」となるのかであるが、消費税の消費地課税主義によるものである。つまり、インバウンドの外国人が日本国内で電化製品を購入し、それを帰国後に使用(消費)するのであれば、日本国内で消費は行われておらず、輸出と同じように消費税を免除すべきという考え方によるものである。
ここで注意いただきたいのは、免税の対象となるのは、「通常生活の用に供する物品」である。つまりは、転売目的での購入はこの制度の対象外なのである。

2.免税店が増えた理由

平成25年(2013年)3月に内国総理大臣が主宰し、全閣僚を構成員とする「観光立国推進閣僚会議」が立ち上がった。
観光立国推進閣僚会議の開催について (kantei.go.jp)
安倍内閣総理大臣(当時)の冒頭あいさつには「私の内閣では、成長戦略により力強い日本経済を立て直し、近隣諸国以上に魅力に あふれる観光立国に向けて、強力に施策を推進していきたいと考えている。今後、観光立国実現 に向けたアクションプログラムをこの閣僚会議で策定し、政府一丸となって取り組んでいきたい。」とあり、その後6月に行われた会議において「観光立国実現に向けたアクション・プログラム(案)」なるものにおいて、訪日外国人旅行者数2,000万人の高見を目指す方針であるとともに、「免税制度のあり方の検討」が行われることとなった。

従前から輸出物品販売場は存在していたものの、あまりメジャーではなかった。消費税の受験生時代にイメージを付けるためにわざわざ家電量販店の免税コーナーを見に行ったが、逆にそこまでしないとイメージが湧くことはなく、今のように(コロナで若干減ったが)繁華街を歩けば「免税店」ののぼりを見かける状況ではなかった。

免税店が増えた理由は、平成26年(2014年)度税制改正である。
同年度の改正前においては、免税の対象となる物品から「食料品、飲料品、薬品類、化粧品等の消耗品」は、国内で消費される恐れがあることから除外されており、事業者の事務負担に考慮する観点から金額の下限も税抜1万円超とされていた(したがって、家電、バッグ、衣料品等で1万円超のものが主な対象品であった。)。

それが観光立国を目指すという政策によって、同年度の改正で骨抜きにされたのである。

同年度の改正により、金額の下限は税抜5千円以上とされ、消耗品(食料品、飲料品、薬品類、化粧品等の消耗品)についても、同一店舗で1日あたり50万円分以下であれば免税の対象となることとなった。
ドラッグストアや高級食材を扱うスーパーが対象となったのはこの改正による影響である。爆買いが誕生した瞬間である。

3.インバウンド・爆買いの影で起こりべくして起こった多くの不正

免税の対象となるのは、「通常生活の用に供する物品」であり、転売目的での購入はこの制度の対象外ことについては触れた。
ちなみに、私の手元にある消費税の本質がわかる良書「消費税法の考え方・読み方(五訂版)大島隆夫氏・木村剛志氏 共著」は平成23年(2015年)7月時点の本であるため、輸出物品販売場のページにおいても通常生活の用に供する物品か否かについては、あっさりとしており、この時点においては、まだ上記の乱発する追徴課税が起こりえることは想定されていなかったのであろう。

「通常生活の用に供する物品」と「転売目的」との境界線はどこにあって、かつ、その判断を行うのは誰かといった問題が生じる。
判断を行うのは、免税店を営む事業者であり、境界線は下記の判断が必要とされる。

国税庁HP 「輸出物品販売場制度について」

全文はこちら↓
0021009-040_02.pdf (nta.go.jp)

繰り返しになる、判断は事業者が行う必要があり、上記の①から④を総合勘案して判定を行う必要がある。
一見の外国人観光客に対して、各々の業界においてはプロフェッショナルではあるものの税制には精通していない、一般企業の販売員が判断ことの難しさはわかってもらえただろうか。
税務コンプライアンス体制ができていない、といえば済むかもしれないが、上記のニュースで紹介した大企業でも徹底ができていなかったとなると、これらの事情を総合勘案(敢えて使ってみた)して、求める水準が高すぎたと言わざる得ない。
消耗品も同一店舗で50万円までOKと謳っているなら、それまでの金額内でハシゴされる可能性もある。例えば「大量購入した際の袋詰めの手際が良すぎるから、転売目的が疑われる」など言い出したら、それは名探偵コナンの世界観ではないだろうか。

令和2年(2020年)4月以降において免税手続きの(購入記録情報データ)電子化に伴い税務調査の体制が強化がされたことなどによって、明るみがなったケースが多いとのことであるが、電子化の導入が平成26年度(2014年)税制改正から6年が経過していることも指摘しておきたい。
(参考:税務通信3663号「消費税免税手続の電子化で調査体制が強化」)

実際に、第211回 国会 衆議院 国土交通委員会 第11回における古川元久議員の審議において、調査の状況が参考人から語られている。
政府参考人:「また、電子化された購入記録情報を含め、様々な資料情報の収集、分析等から、輸出物品販売場で免税購入した物品を国内で販売するような事案につきまして税務調査を実施しておりまして、例えば国税当局におきましては、令和三事務年度では三十件、追徴税額で十二億円の税務調査を実施し、その購入者に対して消費税相当額を賦課決定を行うなどの取組を実施してございます。」

ちょうどいい機会なので、古川議員と政府参考人とのやり取りを一部抜粋して載せておく。
古川議員:「令和二年の四月から令和四年の二月の間に免税購入した外国人等は約六万九千人。そのうち、一億円以上の買物をした人は約二百二十人。この人たちの購入金額は、免税売上げ全体千五百六十七億円のうちの千四百七十二億円。全体の僅か〇・三%の人が免税販売額全体の約七五%を占める、こういう話を聞いたことがあるんですけれども、この数字は事実ですか。」
政府参考人:「(一部省略。)数字について申し上げますと、完全電子化されました令和三年十月から、御指摘の令和四年二月の間に国税庁において電子的に送信を受けた購入記録情報を集計いたしますと、一億円以上免税購入した者は延べ百三十九人、その免税購入金額につきましては約八百二十五億円となってございまして、一億円以上免税購入した者の免税購入金額は全体の金額の約八割となっており、御指摘のように、少数の外国人旅行者等によって多額の免税購入がなされている実態があるのではないかと考えてございます。」
古川議員:「今の私が言った数字は、あれはほぼ割合とか何かは合っていたということだと思うんですが、普通考えて、一億円を超えるほど多額に購入された物品が、これを全部自分の国へ持って帰っているというふうに考えられますか。」

私は古川議員について、今回のリサーチを通じて初めて知ったが、同議員の指摘は至極真っ当であるという印象を覚えた(若干、テキストで読むと言葉遣いは怖い印象を覚えたが、、、)。
興味関心がある方は是非全文をご覧いただきたい。

全文はこちら↓↓
第211回国会 衆議院 国土交通委員会 第11号 令和5年4月26日 | テキスト表示 | 国会会議録検索システム (ndl.go.jp)

4.令和6年度税制大綱に思うこと

残念ながら令和6年度税制改正においては、方針のみが示されたのみで、制度の詳細は令和7年度税制改正に持ち越しとなった。
令和6年度税制改正大綱 (jimin.jp) P.23

方針としては、「免税店が販売時に外国人旅行者から消費税相当額を預かり、出国時に持ち出しが確認された場合に、旅行者にその消費税相当額を返金する仕組みとなる。」と空港で返金をするドイツやフランスなどの諸外国を見習った制度設計になると思われる。

「さらに令和6年度税制改正においても、横流しされた免税購入物品と知りつつ仕入れた場合に、その仕入税額控除を認めない措置を講ずる。」とあるが、「知りつつ仕入れた」というのは、どういった場合が想定されるのかを明示してもらう必要がある(少なくとも事情を総合勘案などと逃げてほしくない部分である)。

5.おわりに

輸出物品販売場の制度自体(消耗品の購入には疑問符が付くが)は理にかなったものであると思うし、インバウンドの需要を取り込むことは国策として必要なのであろう。平成26年(2014年)度の税制改正後が事業者に丸投げであったことが問題であったのだと思われる。
令和6年度税制改正では方針のみしか決まらなかったのは、制度の詳細をより精緻にしたいという意図があったと思うしかない。
コロナも明けてインバウンドや爆買いが元に戻る可能性があるなか、令和7年度税制改正が施行されるまでの間、事業者にとっては輸出物品販売場のコンプライアンス体制を整える必要があると考えられる。




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