見出し画像

【一部先行公開】 壁画は語る〜コービー・ブライアント、あるいは不滅の伝説〜 【トリスタン文書 第3部より】

『トリスタン文書』第3部を書き終えるまでにまだかなりの時間がかかりそうなので、先行してその一部(コービー・ブライアントについて書かれた一節)を公開します。

壁画は語る 〜コービー・ブライアント、あるいは不滅の伝説〜

2020年1月26日(日本時間では27日)、ロサンゼルス近郊でヘリコプターが墜落し、操縦士と乗客の9人全員が死亡した事故のことは覚えているだろう……。忘れられるわけがない。

マンバ・スポーツアカデミーのバスケットボール選手だった13歳の娘、ジャンナ・”ジジ”・ブライアントを試合に連れていく途中、コービーがジジと同乗していた友人たちとともに山の斜面に衝突し炎上するヘリコプターの中で亡くなってから半年後、NFLのフィラデルフィア・イーグルスは彼に敬意を表すため、練習施設の壁にコービーの絵を描いた。
フィラデルフィアで生まれ育ったコービーは子供の頃からイーグルスの大ファンであり、イーグルスの選手、コーチの誰もが本拠地出身のコービーの大ファンだった。2017年の12月にコービーが練習中のイーグルスを訪れ、選手たちと会話を交わしたことはチームにとって大きな意味を持ち、そのシーズン、イーグルスは初めてスーパーボウルを制覇した。彼らの間には特別な絆があった。
その壁画にはフィラデルフィア市外にあるローワー・メリオン高校のジャージを着たコービー、レイカーズのジャージ、イーグルスのジャージを着たコービーとともに彼の10のルールが書き込まれている。

'Kobe Wall' (©️philadelphiaeagles.com)

コービー・ブライアントの10のルール
1.毎日より良くなる
2. やつらが間違っていることを証明する
3. 自分の弱点に取り組む
4. 練習したことを実行する
5. 偉大さから学ぶ
6. 勝ち負けから学ぶ
7. マインドフルネスを実践する
8.野心的であること
9. チームを信じる
10.ストーリーテリングを学ぶ

レイカーズの本拠地、ロサンゼルスにもコービーの壁画がある。
ロサンゼルスは壁画の街だ。www.kobemural.com によると、南カリフォルニアには339ものコービーの壁画が描かれているという。その中でも特に有名なのはレイカーズのホームコート、ステイプルズ・センターほど近くのレンガ壁にジョナス・ネバーによって描かれた絵だ。ネバーがこの壁画を描いたのはコービーの引退直後だが、ここはいまロサンゼルスの観光名所の一つとなり、壁画の前には今でも花束とろうそくの火が絶えない。

現役生活20年をレイカーズ一筋で過ごしたコービーはロサンゼルスのヒーローだった。そしてロサンゼルスのアイデンティティは「文化」だ。
だからネバーの壁画には「ロサンゼルス・カルチャー」と書かれている。

Kobe Bryant Mural by Jonas Never  (©️kobemural.com)

壁画はロサンゼルスの人々の傷を癒す。著名なストリートアーティスト兼デザイナーであるトリスタン・イートンは言う。
「アスリートの人生の物語を取り上げ、それを不滅にしたいのです。ペインティング(絵)は、それをつぎあてで補修したり、私たちを癒したりする小さな方法です」

「人生は続く。彼らを覚えておくのは私たちの責任です」それまでにコービーの壁画を3枚描いてきたゴズクチキャンは、2020年の事故の後、4枚目となる彼の壁画を描き、こう語った。
「これは単なるアートではなく、ドキュメンテーション(記録)です。私たちは現代に起こっていることを記録しているのです」

美術史家のイザベル・ロハス・ウィリアムズは語る。
「壁画は、彼らのコミュニティの物語、社会正義、平等、人権など、私たちに影響を与える問題、そして私たちが愛する人々の物語を語っています

Kobe Bryant Murals in Southern California (©️kobemural.com)

文化の形が様々であるように、誰かを追悼し(敬意を示しtribute)、記憶し、物語る方法は様々にある。追悼文を書く人もいるし、追悼歌を歌う人もいる。バスケットボールで追悼することもできる。

コービーの突然の訃報からわずか数時間後に行われたスパーズ対ラプターズの試合で、それは起きた。
ティップオフ後、ラプターズボールで試合は始まった。スパーズのホームコートに「ディフェンス! ディフェンス!」と観客の声が響く。しかしラプターズのガード、フレッド・バンブリートはコート中央でボールを持ったまま、まったく攻めようとしない。観客たちは戸惑った。そのまま24秒バイオレーションとなり、スパーズボールで試合が再開されると、スパーズの選手もまたリングに向かおうとせず、スリーポイントラインの外側でボールをつき続けた。その頃には観客も何が起きているのかを理解していた。「ディフェンス! ディフェンス!」の声は「コービー! コービー!」の大合唱に変わっていた。
スパーズとラプターズの選手たちは、コービーの背番号にちなみ、互いに24秒バイオレーションをわざと犯すことでコービーに敬意を示そうとした。あるいは、その瞬間に試合を止め、アリーナにいる1万人以上の観客とともに彼を思い出し、追悼するための時間を作ったのだ。

彼を覚えておくのは俺たちの責任だ。俺たち一人ひとりの。
あの悲劇から2年が過ぎた2022年1月26日、多くのファンが事故現場である山の中腹にコービーの追悼に訪れた。するとそこにはコービーとジジの銅像が置かれていた。
銅像を作った彫刻家のダン・メディーナは言う。
「これはすべて私ひとりでやったことです。誰も私にそうするように頼んだわけではありません。事故から2年目のこの日anniversary、日の出から日没までの間、ファンのためにちょっとした癒しのプロセスを作りたかったのです」
像の台座には事故の犠牲になった9人全員の名前と、コービーが残した次の言葉が刻まれていた。

ヒーローは来ては去っていくが、伝説は永遠だ。
ーコービー・ブライアント


Kobe & Gigi Bryant Statue (©︎REUTERS/David Swanson)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?