見出し画像

25人の偉大なW 〜WNBA編〜

不可能だと言われたシュートを決めたら、相手にこう言ってやりなさい。
「カウントして」
そしてやつらの前言を撤回させるの。
やつらにこう言ってやりなさい。私のところに来なさいって。

やつらは言う。「女はダンクできない」って。
私たちは言う。「カウントして」
女性は子供を持ったらプレーできない?
キャンディスはMVPになり、歴史を作った。
双子がほしいなら、2回カウントしなさい。

やつらは「黙ってドリブルしてろ」と言った。
だけど私たちはそうしなかった。
コート上にそのプライドの居場所はない。でもこのコートでは愛が勝つ。
アジア人の記念碑をカウントして。Rock the Vote をカウントして。
私たちはビデオゲームに登場し、あらゆる場所に登場する。
不可能なシュートに次ぐ、不可能なシュートに次ぐ、不可能なシュート……。
私たちは何をするべきか知っている。

2021年10月、NBA75周年記念チームのメンバー76名が発表された。

NBAの創設75周年を祝うため、現役および元NBA選手、コーチ、GM、チームおよびリーグの幹部、WNBAのレジェンド、メディア関係者らの投票によって選ばれたリーグ史上最も偉大な選手のリストは、当初は75名の予定だったが、75位で2名が同点で並んだため、最終的に76名となった。

私たちに馴染みのある名前でいうと、ラリー・バード、コービー・ブライアント、ステフィン・カリー、アレン・アイバーソン、ピート・マラビッチらが選ばれており、そしてもちろん、トリスタン・トンプソンは選外となっている(残念ながら)。

ところで、その一月前には、WNBA史上最も偉大で影響力のある25人の選手「The W25」が発表されている。2021年はWNBAの創設25周年にもあたり、「The W25」の選出はそれを祝う行事のひとつだった。

2021年9月、ニューヨーク州ニューヨーク
ラスベガス・エーシズ対シカゴ・スカイの試合のハーフタイム中に「The W25」は発表された。

その選考基準は以下のものである。

候補者は少なくとも2シーズンWNBAでプレーし、次の7つの基準のうち4つを満たしている必要がある。

  1. 主要な個人賞を受賞していること。

  2. オールWNBAファーストチームまたはセカンドチームのいずれかに選出されていること。

  3. WNBAオールディフェンシブファーストチームまたはセカンドチームのいずれかに選出されていること。

  4. WNBAオールスターゲームに選出されていること。

  5. WNBAで優勝経験があること。

  6. 少なくとも一つの主要スタッツにおいて、キャリア通算ランキングでトップ40に入っていること。

  7. WNBAのシーズン全体におけるコミュニティ・アシスト・アワードの受賞者であること。

また、選考においてはコート上でのパフォーマンスや能力だけでなく、リーダーシップやスポーツマンシップなどの影響力、社会奉仕活動などによるリーグやコミュニティへの貢献度も評価の対象となった。

そして選ばれたのが、以下の25人である(上から年齢順)。

1.  シンシア・クーパー

178cmのポイントガード/シューティングガード。WNBAの初代チャンピオン、初代レギュラーシーズンMVP、初代ファイナルMVP、初代得点王。それからチームは4年連続で優勝し、クーパーは4年連続ファイナルMVP、2年連続シーズンMVPに選ばれ、3年連続で得点王を獲得した。

2.  ヨランダ・グリフィス

191cmのセンター。1999年にMVPと最優秀守備選手賞を受賞。女子バスケットボール史上最も偉大なリバウンダーおよびディフェンシブ・プレーヤーの一人と見なされている。

3.  シェリル・スウープス

183cmのガード/フォワード。WNBA史上、シーズンMVPを3回、最優秀守備選手賞を3回受賞した唯一の選手。WNBAで初めてトリプルダブルを記録した選手でもあり、ナイキから女子選手史上初となるシグネチャーモデル「エア・スウープス」が発売された。

 4.  リサ・レスリー

196cmのセンター。3回のファイナルMVPと3回のシーズンMVP。WNBAの試合で初めてダンクをした選手。
「やつらは言う。女はダンクできないって」という「Count It」キャンペーンのPR映像は彼女がナレーションをしている。

5.  ケイティ・スミス

180cmのシューティング・ガード。キャリア通算 7,000得点以上を記録した初の女子プロバスケットボール選手。生粋のスコアラー。

6.  ティシャ・ペネチェイロ

ポルトガル出身。180cmのポイントガード。19歳でアメリカに留学し、大学で4年間プレーした後、ドラフト全体2位指名を受けWNBA入り。 キャリア通算アシスト数2位。6年連続を含む7回のアシスト王に輝く。ノールックパスなど見た目は派手だが精度の高いパスが特徴。

7.  ティナ・トンプソン

第1回WNBAドラフトの全体1位でヒューストン・コメッツから指名を受ける。弁護士を目指していたトンプソンはロースクールの学費を集めるためだけにWNBAで3年から5年プレーするつもりだったが、コメッツはWNBAの最初の4シーズンで4連覇を達成し、彼女はチームメイトのシンシア・クーパー、シェリル・スウープスと並び、リーグのビッグ3と目されるようになる。188cmの身長で3ポイントシュートを得意としていた彼女は、エレーナ・デレ・ダンやキャンディス・パーカーのような3ポイントが打てるビッグマンの先駆者だった。キャリア通算得点で歴代2位。ルビーレッドの口紅がトレードマーク。

8. ベッキー・ハモン

168cmのポイントガード。ドラフト外でニューヨーク・リバティに入団し、数年間控えのポイントガードとしてプレーしたのちスターターの座をつかみ、歴代1位のフリースロー成功率(89.7%)とWNBA史上7人目となる通算5,000得点を記録した。引退後、サンアントニオ・スパーズで "NBA" 初となる女性のフルタイム・アシスタントコーチになった。

9.  タミカ・キャッチングス

191cmのスモールフォワード。キャリア通算得点で歴代3位。キャリア通算スティール数で歴代1位。最優秀守備選手賞を5回受賞した唯一の選手。12シーズン連続のプレーオフ出場もWNBA記録である。

10.  スウィン・キャッシュ

185cmのフォワード。現在はニューオーリンズ・ペリカンズのバスケットボール運営担当副社長。

11.  スー・バード

WNBAで19シーズンプレーし、キャリア通算アシスト数と出場試合数の記録を持つ。UConn(コネチカット大学)では4年間で114勝4敗の記録を残し、5つのオリンピック金メダルを獲得した 175cmのポイントゴッド。

おっと、これはハイライトじゃない。

12.  ローレン・ジャクソン

オーストラリア出身。3ポイントを得意とする196cmのセンター/パワーフォワード。優勝2回、MVP3回、得点王3回。けががなければ彼女の影響力はもっと絶大なものになっていただろう。

13. リンジー・ウェイレン

175cmのポイントガード。キャリア通算アシスト数4位の「コート上の将軍」。後にスー・バードに抜かれることになるが、リーグ歴代最多勝利選手(323勝)として引退した。

14. ダイアナ・トーラジ

183cmのガード。「ホワイト・マンバ」の異名を持つクラッチシューター。歴代最多得点記録(9,903点)保持者であり、WNBA史上 9,000 得点以上を記録した初めての選手(歴代2位はティナ・トンプソンの7,488点)。通算フィールドゴール成功数、通算3ポイント成功数も歴代1位。4年連続を含む5回の得点王は史上最多。しかも41歳を超えていまだに現役である。

15. キャッピー・ポンデクスター

素早いクロスオーバーからのミッドレンジジャンパーを得意とする 175cmのスコアリングガード。キャリア通算得点歴代6位の 6,811 得点を記録した。

16.  セモーネ・オーガスタス

183cmのシューティングガード。高校時代から「ネクスト・マイケル・ジョーダン?」と騒がれたほど有名な選手。LSU(ルイジアナ州立大学)にはシャキール・オニール、ピート・マラビッチの銅像の隣に彼女の像が建っている。子供の頃からのアイドル、アレン・アイバーソンの背番号3をつけたかったが空いていなかったため、背番号33をつけた。

17.  シルビア・ファウルズ

198cmのセンター。WNBAの通算リバウンド王で、歴代1位のフィールドゴール成功率(59.9%)を記録。

18. キャンディス・パーカー

ここではその発言をたびたび引用させてもらっているテネシー大レディ・ヴォルズのレジェンド。6,000得点、3,000リバウンド、1,500アシストを記録したWNBA史上初の選手。193cmの身長で信じられないクイックネスを持ち、できないことは何もない(ダンクもできる)。2008年にWNBA史上初めてMVPと新人賞を同時受賞し、産休のため2009シーズン最初の1ヶ月を欠場するも競技に復帰。2013年には再びMVPを受賞した。

19.  エンジェル・マコートリー

185cmのガード/フォワード。身体能力が非常に高く、2度の得点王と2度のスティール王に輝く。

20.  ティナ・チャールズ

196cmのセンター。歴代4位の通算得点と歴代2位の通算リバウンドを記録。突然の心停止によって将来有望な学生アスリートの命が奪われるのを防ぐため、学校、コミュニティ、レクリエーションセンター等へAEDを提供することに取り組むホーピーズ・ハート財団を設立した。

21. マヤ・ムーア

女性アスリートとして初めてジョーダンブランドと契約した背番号23。183cmのスモールフォワード。UConnで2度の全米制覇、ミネソタ・リンクスで4度のWNBAチャンピオン、オリンピックで2つの金メダルを獲得した後、30歳のキャリア絶頂期にムーアは2019シーズンを欠場すると発表した。それはアメリカの司法制度を改革し、無実の罪で50年の刑に服している男性を救う活動に集中するためだった。彼は2020年に釈放され、二人は結婚し、ムーアは今年一月、正式に引退を発表した。

22. エレーナ・デレ・ダン

196cmのスモールフォワード/シューティングガード。WNBA史上初のシュート効率 50/40/90 を達成したシューター。

23.  ネカ・オグミケ

188cmのフォワード。テキサス州ヒューストンでナイジェリアから移民してきた両親のもとに生まれたオグミケは、スタンフォード大学で医学部に入る前にバスケットボールをプレーしていたところ、うっかりロサンゼルス・スパークスからドラフト全体1位で指名を受けてしまう。2016年、全米女子バスケットボール選手協会の会長に選ばれ、選手の報酬、福利厚生、生活の質の向上を求める団体交渉協定の交渉を行った。アナウンサーなどによるファーストネームの発音は「(ン)ネカ」だが、本人による正しい発音は「ネムカディ」。

24.  ブリトニー・グライナー

「The W25」最長身、206cmのセンター。キャリア通算ダンク数 No.1。

25.  ブリアナ・スチュワート

「The W25」最年少の27歳(選出当時)。193cmのフォワード。昨シーズンのリーグ得点王で、現在のWNBAで最も支配的な選手のひとり。


「The W25 」について、WNBAコミッショナーのキャシー・エンゲルバートはこう語っている。
「今シーズンを通して、WNBAとファンは、WNBAが四半世紀にわたってスポーツと社会に与えてきた影響を祝っています。その影響を与えた人々に敬意を表するために、この名誉あるグループである『The W25 』のメンバーを発表すること以上に良い方法は思いつきません。これらの選手たちは、コート上で最高レベルでプレーし、スコアラーでありリバウンダーでありアシストメーカーでありディフェンスストッパーであり、リーダーであり指導者でもあります。コミュニティでは、彼女たちは個人的にも集団的にも、私たちの社会の重要な問題について発言する強力な声を持っています。彼女たちは共に競技のプレー方法を変革し、選手の見方を変え、素晴らしいロールモデルとなり、何世代にもわたる若く多様な選手たちにインスピレーションを与えてきました」

また、ネカ(ネムカディ)・オグミケは言う。
「このすばらしい25年間にWを開拓してきた過去と現在のレジェンドの中に私の名前が載っていることにとても感謝しています。コート上の選手として、私は自分のキャリアを誇りに思っており、今後も偉大な遺産を残していきたいと思っています。私が世代を超えてこのリーグの驚異的な女性たちとともにこの競技に貢献できたことは、私の最大の成果です。私が与えた影響が認められるのは本当に光栄なことです」

そして、WNBA25周年記念イベントの一環として、「Vote for the GOAT」が始まる。「The W25」が発表された日の午後5時から、ファンはこの25人の選手の中から史上最も偉大なWNBA選手だと思う選手に投票することができるようになった。(ツイッターで #WNBAGoatVote を付けて名前をつぶやく、あるいは、WNBA.com、WNBAアプリを通して投票ができる)

2021年10月10日、「Vote for the GOAT」の投票結果が、WNBAファイナル第1戦の開始前に発表された。ファンによってWNBA史上最高の選手G  O  A  Tに選ばれたのはダイアナ・トーラジだった。(他にトップ5入りしたのは、シンシア・クーパー、スー・バード、キャンディス・パーカー、マヤ・ムーア)
また同時にこの日の試合会場では「The W25」の記念式典が行われ、選ばれた選手たちに記念のジャケットが手渡された。

WNBAの25周年を祝う取り組みはこれだけではない。

・25回目のシーズンのための新しいユニフォームと試合球。

・第25シーズン諮問委員会の結成:女子バスケットボールの先駆者やレジェンドは、「競技とそのファン層を拡大する方法について革新的なアイデアを生み出すために」定期的に会合する。メンバーには、リサ・レスリー、シェリル・スウープス、シンシア・クーパー、ローレン・ジャクソン、リンジー・ウェイレンなどが含まれる。

・WNBAソーシャル・ジャスティス・ムーブメント:人種とジェンダーの不平等と闘い、LGBTQ+ の権利擁護を促進するため前年に設立されたこのグループは、2021シーズンを通して、さまざまな社会問題をリーグが擁護してきた歴史を称える。

・WNBAコミッショナーズカップ(シーズン中の初のトーナメント)の開催。

・そして第25回の記念シーズン用に特別に用意されたロゴと公式スローガン。

WNBAは、1997年の最初のシーズン以来、リーグを現在のような形に作り上げてきた選手たちを称えるスローガンとして「Count It」を使用すると発表した。

この記念ロゴには「5」というアラビア数字の代わりに、数を数える際のメモ書きに使われる縦の4本線と、その上に引かれた横線(日本人が使う「正」の字と同じ使い方)によって「5」が表されている。その意味について、WNBAのチーフマーケティング担当であるフィル・クックはこう語る。
「これは、リーグがその成果をまだ数え終わっていないことを意味しています。なぜなら、これから数え切れないほどの成果が待っているからです」

さて、WNBAについて書くのはこれくらいにしておこう。
私がWNBAやNCAAやカナダバスケットボール協会やオーストラリアバスケットボール協会について書いているのは、そこに私たちが参照できるものがあるだろうと考えているからで、今回、WNBA25周年の取り組みについて書いているのも、2023-24シーズンにWリーグがリーグ創設25周年を迎えるからに他ならない。一足先に25周年を経験しているWNBAから私たちが学べることはたくさんあるだろう。(WNBAがNBAという先行者から多くを学んでいるように)

そして私は(私がこれまで書いてきた原稿をお読みの読者であればだいたい察していることだろうと思うが)、リーグ創設25年という 節目anniversary を利用して、これまでWNBAを築いてきた人々に敬意を表し、彼女たちのことを忘れないように、その偉業を改めて称える「The W25」という取り組みにとても惹かれた。

そこで私は、Wリーグの25周年を(勝手に)祝い、Wリーグ史上最も偉大で影響力のある25人の選手、すなわち日本版「The W25」を(私ひとりの独断によって)選出することにした。

その25人の名前は次回の原稿『25人の偉大なW 〜Wリーグ編〜』の中で発表されることになるだろう。

最後に最年少で「The W25」に選ばれたブリアナ・スチュワートの言葉を引用して終わろうと思う。

リーグとしてどこまで行けるかという点では限界はありません。 CBA(WNBAと選手協会との団体交渉協定)が締結されて以来、私たちは大きな勢いに乗っています。 私たちは最初にリーグを始めた人々のことを知っています。彼女たちはリーグをより良い場所にしてバトンを渡したいと考えていました。そしてそれは、いま私たちがしていることでもあります。つまり、可能な限り最高のバスケットボールをプレーし続けること。視聴者を獲得し、注目を集め続けること。このリーグを私たちが来た時よりも良くすることです。
ーブリアナ・スチュワート



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?