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Une Semaine à Zazie Films 週刊ザジ通信【1月5日㈬~1月11日㈫】

三連休明け、冷たい雨の降る火曜日の朝、その衝撃的なニュースは突然もたらされました。『岩波ホール  7月29日を以って閉館。54年の歴史に幕』。

岩波ホールで、ザジフィルムズ配給で初めてかけて頂いた映画は、アニエス・ヴァルダ監督の『落穂拾い』。1998年に『女は女である』で本格的に配給業務を始めたザジですが、80年代後半から2000年初頭にかけての岩波ホールはヘラルド・エース配給の『八月の鯨』や、大映『森の中の淑女たち』、東宝東和『宋家の三姉妹』『山の郵便配達』など、老舗配給会社が手掛ける作品が次々と大きなヒットを放っていた時代。新参の配給会社にとっては、敷居の高い劇場でした。

が、チャンスは思いがけない人物がもたらしてくれました。当時、既にザジではアニエス・ヴァルダ監督の過去作を扱っていたのは当noteの連載Histoire De Zazie Filmsでも書きましたが、そのヴァルダ監督自身が「新作『落穂拾い』をザジが買うなら、岩波ホールでかけて欲しい」と望んできたのです。ヴァルダ監督と当時の総支配人 高野悦子氏は、1958年に高野氏がパリの高等映画学院IDECに留学した際の師弟という関係で、長年の盟友。92年には監督作『ジャック・ドゥミの少年期』もヘラルド・エースの配給によって、岩波ホールで公開されていました。監督自身のリクエストとあれば、「当たって砕けろ」でアプローチしない訳には行きません。

ヴァルダ監督自身との交渉の末、契約がまとまったのは2001年のカンヌ国際映画祭。その映画祭に同じく参加していた岩波ホールのスタッフの方とカンヌのカフェで、緊張しつつ初めてミーティングをしたことを昨日のことのように覚えています。『落穂拾い』の公開は2002年2月9日。奇しくも岩波ホールが開館した日であり(1968年)、高野悦子さんが亡くなった日(2013年)でもあります。

2008年11月、テンギズ・アブラゼ監督作『懺悔』のPRで来日した主演俳優アフタンディル・マハラゼさんと、当時の総支配人故  高野悦子さん、現支配人の岩波律子さん。9Fの岩波サロンにて。今の時代、“ターバン”と言えばMISIAですが、当時は高野悦子さんの代名詞でした(ホント?)。でもターバンを巻いた高野悦子さんの画像はついぞ見つけられなかった。私の思い込みか?

『落穂拾い』を皮切りに、それから20年の間にザジフィルムズが岩波ホールでかけて頂いたのは、特集上映、リバイバルを含めて全部で12番組。時系列に書かせて頂くと、2006年『家の鍵』(ジャンニ・アメリオ監督)、2007年『ヒロシマナガサキ』(シグロ共同配給 スティーヴン・オカザキ監督)、2008年『懺悔』(テンギズ・アブラゼ監督)、2009年『アニエスの浜辺』(アニエス・ヴァルダ監督)、2012年『最初の人間』(ジャンニ・アメリオ監督)、2016年『木靴の樹』(エルマンノ・オルミ監督)、2017年『家族の肖像』(ルキノ・ヴィスコンティ監督)、『ナポリの隣人』(ジャンニ・アメリオ監督)、2018年“『祈り』三部作”(テンギズ・アブラゼ監督)、2020年“岩波ホールセレクション アニエス・ヴァルダ特集”、そして昨年の『わたしはダフネ』(フェデリコ・ボンディ監督)。新旧取り交ぜ、さまざまな国の作品を上映させて頂きました。

こうしてあらためて書き出してみると、ザジフィルムズにとって岩波ホールの存在がいかに大きかったのかが分かります。なので、昨日のニュースを聞いてからというもの、なんだか腹に力が入らない、というか、フニャフニャしてしまっていて、背骨がなくなって軟体動物になってしまったような気分で過ごしています。

トップに貼った画像は、一昨年夏“岩波ホールセレクション アニエス・ヴァルダ特集”上映の折に開催したMini Theater ParkHelp ! The 映画配給会社の共催トークイベント「わたしとヴァルダと映画館」の準備風景。不慣れなリモートイベントも、岩波のスタッフの皆さんの周到な準備のおかげで、無事終えることが出来ました。小泉今日子さん、渡辺真起子さん、安藤玉恵さん、斉藤工さん、井浦新さんが岩波支配人とやり取りする非日常感、というか、非岩波感(?)、披露して下さる貴重なエピソードも楽しかったなぁ。

正式に発表されてしまった閉館ですが、もう何があっても覆ることは無いのでしょうか?現在シアター・イメージフォーラムで開催している弊社配給の“奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション”の中の1本、『奇跡』も、元々は1979年にフランス映画社配給によって、岩波ホールで日本初公開された作品です。あぁ、奇跡が起こってくれないものでしょうか…。

texte de daisuke SHIMURA











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