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※本記事は『オオカミの家』パンフレット付録の『骨』B4ポスターに掲載している作品概要、解説などを転載したものです。

STORY

2023年、美術館建設に伴う調査で、ある映像が発掘された。それは、少女が人間の死体を使って謎の儀式を行っているもので……。1901年に制作された、作者不明の世界初のストップモーション・アニメ(という設定)。
 
DIRECTOR STATEMENT
『骨』は、フィクションである。一本のフィルムとミイラ化した遺体の一部が、発掘調査で発見される。発掘されたフィルムは、世界初のストップモーション・アニメーションであることが判明した。この作品は1901年にチリで制作されたもので、現在知られている欧米初のアニメーションが作られた数年前の作品である。この発見には、いくつか画期的な点があった。まず、チリがアニメーション映画発祥の地であることが明らかになった。第二に、このアニメーションは人間の死体の破片から作られている(本物の死体が実際に使われている)。第三に、発見されたフィルムの中のストーリーから、当時まだ生まれていないピノチェト独裁政権の大臣ハイメ・グスマンと、1833年のチリ憲法、ならびに寡頭制の伝統を作った大臣で知識人のディエゴ・ポルタレス、二人の登場が判明した。
このショートフィルムは、20世紀初頭にリトアニア自然史博物館の館長を務めていたポーランド系ロシア人のアニメーター、ラディスラフ・スタレヴィッチの作品にオマージュを捧げている。スタレヴィッチは甲虫の生態を映画にしようとしたが、撮影用の強力なスポットライトを浴びて甲虫は死んでしまった。そこで彼は、死んだ甲虫の足をワイヤーに置き換え、1コマずつアニメーション化することで問題を解決し、この技法が死霊術の宿命であることを明らかにした。本作では、人間の偽物の死体を使ってこの技法を再現した。自身とは異なる倫理観や判断基準で作品を制作するために、他人になりきるというロールプレイング手法を用い、アニメーション技術、ひいては現代の映像文化の根幹を見直すのだ。さらに、権威主義的で寡頭政治的なチリを構築する2人の中心人物、ディエゴ・ポルタレスとハイメ・グスマンの出会いを通して、チリの政治・経済構築に対する批判的なビジョンを示している。『骨』は、世界の映像文化の偽りの発見であり、アニメーション技術の病的さと、チリの政治的・社会的偶発性による激変の両方を強調している。1980年にグスマン自身が起草した憲法、それはチリの新自由主義に基づいた実験を失敗に追い込み、2019年10月18日、ついに社会暴動が最高潮に達した。それを排除し、国が新しい憲法を起草する時、『骨』は出現するのだ。
 
RULE
1 連続性はない
2 光は太陽から来る
3 1900年に作られた作品である
4 これは劇場だ
5 死体と幽霊だ
6 儀式だ
7 史上初のアニメーションだ
8 少女は何でもやる
9 発見された映画フィルムだ
10 パンデミックの渦中にいる(マスクをつけよう!)
11 全部フィックスの画だ
 
KEYWORD
コンスタンサ・ノルデンフリーツ Constanza Nordenflycht (1808-1837)
チリの貴族の両親のもと、1808年にリマで生まれる。15歳の時に、15歳年上のディエゴ・ポルタレスと出会い、恋人関係になる。その翌年の1824年に第一子となる長女を出産。コンスタンサは結婚を望んでいたが、ポルタレスは結婚もせず子供の面倒もみなかった。その後さらに二人の子を出産。ポルタレスが暗殺された直後の1837年に29歳で亡くなった。二人の死後、三人の子どもたちはホセ・ホアキン・プリエト大統領によって正式にポルタレスの子として認知された。
 
ディエゴ・ポルタレス Diego Portales (1793-1837)
チリのナショナリズムや保守主義の発展において重要な役割を果たしたチリの政治家、起業家。1824年、タバコ、茶、酒などの専売事業で莫大な利益を得る。専売制が廃止された後は、2つの新聞を創刊し、保守的な政治理論を支持・普及させた。1830年に保守派が勝利して実権を握ると、ホセ・ホアキン・プリエト大統領のもとで大臣などを務め、以後7年間にわたり事実上の独裁政治を行なった。政治的自由に批判的で、リベラル派の反対者を投獄し、反対派の報道を封じ、軍隊を鎮圧した。1833年には憲法を制定し、寡頭制による中央集権国家を作り上げ、強力な保守支配を実現した。1836年、ペルー・ボリビア連合の形成に脅威を感じ、宣戦。この連合戦争は最終的にチリが勝利したが、ポルタレスは反乱軍により1837年に暗殺された。
 
ハイメ・グスマン Jaime Guzman (1946-1991)
チリの憲法学者、政治家。学生時代より政治活動を開始。1973年から1982年まで、アウグスト・ピノチェト軍事政権の法律顧問、政治顧問を務め、演説の作成、政権の政治的・制度的方向付けに参加するなど、アドバイザー的役割を果たす。その後、1983年に、右派政党である独立民主同盟を設立。ピノチェト軍事政権下の政治的な支柱となった。民主化移行中の1991年、共産主義ゲリラグループの一員によって暗殺された。
 
キーワード監修:新谷和輝(ラテンアメリカ映画研究)
 
Directors QA
―― 『骨』は、実在した政治家をあたかも“道化”扱いしているのが大胆だと思いました。こういった表現をするのは、勇気が必要だったのでは?
 
コシーニャ: この作品では、複雑な内容をクスッと笑えるような形で映画の中に取り入れる、ということをしています。勇気のいることだったかと聞かれれば、もちろん、とても勇気がいることでした(笑) チリでは、つい最近まで政治家のことを悪く書いたり、茶化したりすると、「それは犯罪だよ」と言われるような時代でした。今はそうではないので、大丈夫なんですが。映画に登場させたハイメ・グスマンの遠い親戚の方だと思うんですが、その方から「映画を観たが、なぜあんな風に描いたのか」と言われたこともあります。ハイメ・グスマンは軍事政権を成り立たせる法律の基礎を書いた人ですから、その方も仕方のないことだと思っていたのか、すごくひどい言い方をされたということではないのですが、そういうこともありました。
 
レオン: 『骨』を観た方が、登場人物をまるでピエロのように扱ったと感じるのは理解できます。ただ私たちは、彼らに憎悪を抱いて作ったわけではないんです。自分が今いる現実の世界とは別に、空想したこと、夢で見たこと、そういった色々なことが混在しているような世界を作ったら、あのような描き方になりました。有名な人だろうが、普通の人だろうが、現実と夢の中での混在する姿というのがあると思います。それを表現したら、あのような形になったわけです。
(2023年7月4日実施のオンラインインタビューより)
 
 
クレジット
監督:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
脚本:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
撮影:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ、ナイルズ・アタラー
音楽:ティム・フェイン
美術:ナタリア・へイセ、クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
アニメーション:クリストバル・レオン、ホアキン・コシーニャ
編集:ホアキン・コシーニャ
VFX:クリストバル・レオン
製作総指揮:アリ・アスター、アダム・バターフィールド、ルーカス・エンゲル
2021年 / チリ / スペイン語 / 14分 / モノクロ / スタンダード / ステレオ /
原題:Los Huesos(英題:The Bones) / 字幕翻訳:草刈かおり
配給:ザジフィルムズ 協力:WOWOWプラス
© Pista B & Diluvio, 2023

発行日:2023年8月19日
編集・発行:株式会社ザジフィルムズ
無断転載禁止 
http://www.zaziefilms.com/lacasalobo/

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