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小説「イヤホン」

 今夜、死のうと思った。32歳、7:00発の満員電車に乗り、上司から怒鳴られ、呆れられ、終電で帰り、家で一人カップ麺を食べる生活に嫌気が差していた。まとめ買いしていたカップ麺が尽きたことを思い出し、帰りにまたまとめ買いしなきゃと思った時、ふと、もう限界だと思った。  今も会社から帰る終電に揺られている。耳につけているイヤホンの中では甲本ヒロトが何か叫んでいる。パワハラ上司は今日も俺を怒鳴りつけ、無理難題に思えるタスクを押し付けてきた。仕事は終わっていないが、都心に位置する会

    • 小説「クリア率99%の初恋」

       「おっ、懐かしいな……。」  正月の帰省中、実家の押入れの奥、古いゲーム機たちが押し込まれている中に『星のカービィ スーパーデラックス』のソフトを見つけた。  手に取りじっと眺める。小さい時に親に買い与えてもらった初めてのゲームソフト。そして35歳になった今、人生で最もやりこんだゲームだと思う。プレイ時間ではなく、気持ち的に。  小学生の頃、このゲームを持っていたのは当時としては珍しく俺だけだった。そもそも一学年1クラスしかない田舎町で、スーパーファミコンを持っていたのが

      • 小説「くたばれ、普通」

         私はセックスに対する心理的障壁がかなり低いらしい  仲の良い友達とカラオケに行くように、私はセックスができる。  仲の良い友達と飲み会に行くように、私はセックスができる。  仲の良い友達と映画を見に行くように、私はセックスができる。  これはどういうことかというと、カラオケと飲み会と映画とセックスは全く同じ「楽しい」で括られているということだ。そこにあるハードルは全て同じ高さで、そしてそれが特別高いというわけではない。  仲の良い人とカラオケに行くように、仲の良い人とお酒

      小説「イヤホン」