異郷訪問譚という見方①
論文紹介
今回は、下の論文を紹介します。
大喜多紀明「アニメーション映画『千と千尋の神隠し』みみられる二重構造について:ミハイ・ホップの「裏返し」モデルを適用した場合」http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/7469/1/kokugoronsyu-11-77-89.pdf
これは『千と千尋の神隠し』の、物語構造を研究した論文です。この研究によると、『千と千尋の神隠し』は、「異郷訪問譚」をベースに作られた物語だといいます。
異郷訪問譚とは
「異郷訪問譚」とは、異郷を訪れる話のこと。構造の特徴として、物語の前半と後半が裏返しになっていることが挙げられています。
この説明、かなり大雑把なので、より詳しく知りたい方は下の論文にあたってみてください。↓
勝俣隆『異郷訪問譚・来訪譚の研究-上代日本文学編』2009https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/124210/1/ybunr00552.pdf
そして、この『千と千尋の神隠し』も前半と後半で出来事が“裏返し”になっています。このことから大喜多(この論文の筆者)は『千と千尋』は「異郷訪問譚」であると述べています。
はて、“裏返し”とはどうなってるのか。実際に見ていきましょう。
[譚Ⅰ]
① 出来事の前 ⇔ ⑩出来事の後
千尋: 幼い 成長をとげた
② 現実から異界へ ⇔ ⑨異界から現実へ
トンネル: モルタル製 古い石造り
川: 水が満ちて通れない 水がないので通れる
③ 契約 ⇔ ⑧契約解除
名前: 千尋を知っている ハクを知っている
釜爺: 契約のきっかけ 解除のきっかけ
イモリの黒焼き、湯婆婆へ誘導 切符、銭婆へ誘導
④ 引き入れる ⇔ ⑦導き出す
衣服: 洋服から作業衣 作業衣から洋服
ハク: マジナイ解けない マジナイ解ける
⑤ 河の主の業 ⇔ ⑥カオナシの業
大湯: 千尋とリン 青蛙
客人: オクサレサマ 上客
正体: 河の主 カオナシ
ニガダンゴ:受け取る 渡す
砂金: 本物 偽物
評価: 千尋の手柄 千尋の落ち度
こう見ると、前半と後半で出来事が裏返しになっていました。
ふぅ
矢継ぎ早になるが、『千と千尋の神隠し』には異郷がもう一つあります。 銭婆がいる「沼の底」だ。ここも異郷訪問譚の構造が見て取れるという。
〔譚Ⅱ〕
① 訪問の前 ⇔ ⑧訪問の後
坊: 歩けない 歩ける
↓ ↓
ネズミになる 元に戻る
湯バード: ハエになる 元に戻る
カオナシ: ついて行く 戻らない
銭婆: 恐ろしい存在 やさしい存在
② 湯婆婆から銭婆へ ⇔ ⑦銭婆から湯婆婆へ
移動: 地上 空中
③ 宝物の返納 ⇔ ⑥宝物を受理
宝物: 魔女の契約印 髪留め
特徴: 魔法に関わる 魔法に関わらない
④ 消えたマジナイ(印) ⇔ ⑤消えたマジナイ(坊)
マジナイ:解けるべきではない 既に解かれている
↓ ↓
解けている 解けていない
まとめ
確かに、物語の前半と後半で出来事が反対になっていました。
これで、『千と千尋の神隠し』は異郷訪問譚をベースに物語が作られている裏付けがされました。
以上が、この論文の概要でした。
私は、この論文を読むまで、こんな見方があると知りませんでした。
仰天。Σ(・□・;)
この研究論文について、より詳しく知りたい方は、ぜひ原文を読んでみてください。『千と千尋』好きの方にはうってつけの論文です。
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/7469/1/kokugoronsyu-11-77-89.pdf
次回は、
この異郷訪問譚を深掘りしていきます。
それでは、みなさんよい一日を。ばいばーい。
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