『千と千尋』の時間分析①
「映画はただ楽しめればいい」という考え方がある。だが、私は、映画の本当の楽しさはもっと奥にあると思ってる。ただ「面白かった」では話が盛り上がらない。どこに惹かれたのか、または何が退屈だったのか語れるようになれたら、かっこいい。そこで、このシナリオ学である。
映画を15分ごとに区切ると、この映画では何が描きたかったのかが分かる。これは「典型的なハリウッド・スタイル」というもの。観客が飽きないよう、15分ごとに盛り上がり、要所要所に見せ場を作ったものだ。
今回分析する『千と千尋の神隠し』は、なんだかよく分からん物語だと思いませんでしか?私は思いました。なぜなら千尋、はじめは豚になった両親を助けるために湯屋で働きだします。でも後半、父母の面影は頭の片隅に消え、ハクを助けるために奮戦しだす。そして、最後、ふっと湧いて出てきたように両親が登場。人間の姿に戻すことに成功するんです。なんだか、めちゃくちゃ。結局どういう話だったの、と。微妙に話の軸がずれてるんです。
前半
後半
ラスト
そこで、この時間分析です。なにが起きたのか、時間に沿って見ていくと話しの軸が分かります。映画って、かなり数学的な文学で、単純なルールが存在します。今回紹介するのは、そのルールの一つ、「時間配分」です。
と、その前に…時間の関係性について。
少し映画論について話します。つまらないかもなので、飛ばしちゃっても大丈夫です。
映画は、「時間の芸術」だといわれています。
そこで〔絵画・マンガ・小説〕と〔映画・音楽〕、この2つの違いは何か考えてみてください。何が思い浮かびますか?
・ ・ ・ 💡
はい、そうです。時間の流れ方が違うんです。前者は、自分のペースで物語を追うことが出来ます。どんなに時間がかかってもいいんです。だけど、映画や音楽には時間の制約がある。自分のペースは通用しない。
だから、映画は大衆にわかりやすく物語を理解してもらうために、楽しんでもらうために、時間の方程式を生み出しました。
時間の方程式
2時間に収まる映画は、だいたい15分単位で構成されています。
10分目までに、主人公の満たされない日常が映されます。そして、主要登場人物の顔出しと、状況説明が行われる。
15分目は、基本映画コンセプトが提示。
30分目(転換点1)には、主人公の行動を大きく変えるエピソードが起きる。この30分目までに登場人物たちの顔見せを済ませます。
45分目は、状況の変化。これは15分目の出来事が伏線となっています。
60分目は、折り返し点となる。ここは日常から最も遠い点であり、前半と後半を分ける役割があります。
75分目、主人公は引き返しのつかない行動をとる。(大ピンチ)
90分目(転換点2)で、ラストスパート。ここから自分の力で解決しようと動き出す。
という形が娯楽映画の基本としてあります。
では、『千と千尋』はどんな時間構成がされているのだろう。
次回、につづく、です。
ー参考文献ー
‐久美薫『宮崎駿の時代1941~2008』鳥影社、2008
‐岡田斗司夫『オタク学入門』株式会社新潮社、2000
‐田中靖彦『ハリウッドストーリーテリング』愛育社、2009
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