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夏目漱石からの手紙

勉強をしますか。

何か書きますか。

君方は新時代の作家になる積でせう。

僕も其積(そのつもり)であなた方の将来を見てゐます。

どうぞ偉くなって下さい。

然し無暗にあせっては不可ません。

ただ牛のように図々しく進んで行くのが大事です。

あせっては不可ません。

頭を悪くしては不可ません。

根気強くお出でなさい。

世の中には根気の前に頭を下げることを知っていますが、

火花の前には一瞬の記憶しか呉(く)れません。

うんうん死ぬほど押すのです。

それ丈です。

決して相手を拵らえてそれを押しちゃ不可ません。

相手はいくらでも後から後から出てきます。

そうして我々を悩ませます。

牛は超然として押して行くのです。

何を押すかと聞くなら申します。

人間を押すのです。

文士を押すのではありません。


1916年8月21日 夏目漱石


50歳の夏目漱石が、20代だった芥川龍之介と久米正雄に向けて送った手紙。内容を一部抜粋。

ー参考文献ー

三好行雄『漱石書簡集』岩波文庫、1990年、308、311、312頁

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