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サルの魂

以前、とある事情で一年限りで就いた仕事の最中に聞いた話を書いてみる。元が会話の中での話だっただけに、そのまま記すと読みづらいので、大元の話の内容は変えずに、表現方法だけ当方なりの工夫を盛って記す。

とある老婆の話。
「いくらサルが悪さする言うても、それで無慈悲に撃ち殺して構わんということにはならんもんじゃ。サルの悪さと言うても、それは人間から見た話で、サルにはサルの事情もある。人間からしたら、こんなひどいことと見えても、サルにしたら人間の事情なんか知らん。サルはサルの考えで生きとるんじゃから。
昔な、この先の町で床屋をやっとる人が猟師もやっとってな。ある時、畑をやっとる人から、芋を掘って食い散らかすサルどもを撃ってくれと頼まれたんだと。
それで、商売の床屋の方の都合のついた時、猟の準備万端整えてな、その畑で待ち構えておったら、案の定サルが群れでやって来たんじゃと。その人は気配を悟られぬようそーっと近付いて、群れの固まったところを狙って撃ったそうじゃ、パーンとな。
そしたらな、どうやら弾が子ザルに当たったみたいでの。鉄砲の音で散っとったサルの群れのうち、一頭がな、おそらくその母ザルなんじゃろうが、それが死んだ子ザルのところに近づいて、ずっと子ザルを見とるんじゃと。それで暫くしたら、今度は群れの他のサルたちも近付いて来ての、その母ザルを囲むようにして輪になってずっと見とるんじゃと。その有り様といったら、我が子が死んで悲しんどる母ザルをみんなで慰めとるみたいでの。猟師さんは、サルも人間みたいなことをする、サルも魂を持つもんで、子どもが死んで悲しんどるということがはっきりわかったんじゃと。
それからは猟師さんは、そのことがずーっと心から離れんかって、悪いことをした、罰当たりなことをしたと本当に後悔しての、体もどこかおかしくなってしもうたんじゃと。
と、そういうようにな、一時は腹が立って、構うもんかと思ってしたことが、あとになると、ああ、せなんだらよかったと思うことがようけあるし、よく考えたつもりじゃっても、あとになると浅はかでバカじゃったと見えたりの。人間の知恵ちゅうのは、見ようによっちゃ大したものにも見えるかしらんが、実のところ、そんな大したもんじゃないということじゃの」
話を聞き終えて当方、ありがたきお話を頂いたと心中感謝しながら頷いた。

ーーー以上。

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