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春風吹く街の春のようなあなたへ

 タワレコでCDを買うと特典でポストカードがついてくることがあって、行き場に困ったので柄にも無く手紙なんて書いてみました。そちらはいかがお過ごしでしょうか。
 受験期に見ていた風景をどれも忘れたくなくて、今も記憶の中に巣食って生きています。あの頃から、行き詰まった時は普段と違う道を宛てもなく歩くのが好きでした。ずっと同じ風景の中で生きていると押し込められているような鬱屈さを感じるので。あの頃の術が未だに僕を救ってくれています。先日も思いつきで熱田神宮に行ってみたものの、よく考えたら特に祈ることがなかったので、とりあえずあなたの合格を祈願してきました。あなたも勉強に疲れたら偶には歩いてみてください。歩道橋の上で通り抜ける風を浴びるだけで、少しは憂いも溶けることでしょう。
 何回も言っているように、あなたは僕なんかよりずっと強いので、僕が心配しなくたって大丈夫だと思っています。根拠のない自信でいいから大事に抱いておいて、潰してしまわない程度に戦ってください。どこか遠くの街で祈っています。春風吹く街の春のようなあなたへ。

 一ヶ月くらい前の話。地元の予備校にいる友人に宛てて手紙を書いた。宛名の書き方すら碌に知らないのにね。よく考えたら能動的に手紙を書こうと思ったのは初めてかもしれない。

 ある日の午後、熱田神宮に行ってみたけど特に用がないことに気づいて、目的地を決めずに歩いていたらJRの駅舎に辿り着いた。少し行った先に高架道路があってその上を歩いていたらなんか急に涙が出てきた。同時にあの頃のどうでもいい記憶が溢れ出した。初めて訪れた場所だし、別に何かに似ているわけでもないのに。言葉にできるほど確証を持てる"好き"ではなかったけど、とりあえずこの場所の風景が好きだったみたいだ。なんの縁も無いはずなのに、自分の中では代替の効かない大切な景色みたいに思えていた。帰る前にもう一度熱田神宮に寄って御守りを買った。家に帰ったら手紙を書こうとか考えていた。

 戦うことを選ぶことができることは強さだと僕は思っている。目指していた大学に出願することを選べなかった僕に足りなかった強さだ。結局、今も何と戦うこともできてない。今を生きることすらできているって自信を持って言えるかといえば怪しいくらい。

 あの街で旅立つ前に最後に訪れた市役所の展望台から見た景色を思い出していた。物心ついてから初めて上がった。また暫く、この景色にも会えないんだね。いつもの駅で帰りの電車に乗り込んで、いつもの電車に乗るのも今日が最後なんだなとか考えながら何もない景色を眺めていた。記憶はまだ鮮明なのに、気づいたらあの日から3ヶ月くらいは経っているらしい。ずっと過去に居場所を求めてばかりいるけど、早くこの街の好きなところも見つけないとね。

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