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男♂2人のディズニーシー(リバあり)

前回の続きです。

「ゴゴゴゴゴ……」という凄まじい地響きで目が覚めた。カーテンから差す朝日と洋風の天井。左を見やるとグが洞窟に潜むドラゴンくらいのとてつもないいびきを響かせていた。何気にグとは初めての旅行だったが、これで今後は部屋を別にすることを決めた。おれはドラゴンと暮らす心優しき小僧ではない。


誰もいないディズニーシー

窓を見下ろすと閑散としたディズニーシーが見える。昨夜と違い朝日に照らされているものの誰もいないというのは不思議なものだ。カ曰く、ホテルの部屋とタイミング次第ではショーのリハーサルが見えたりするらしく、ファンにはたまらないのだろうと思った。先日からずっと「ファンにはたまらないのだろう」みたいなことしか言ってない気がする。ファンじゃないから仕方がない。

通常より早くディズニーシーへ入場できるチケットだけ持ってて通常のチケットを持っていないという稀有な状態だったが、フロントで普通にチケットを買えた。前行った時は8000円くらいで入れたんだけどもう1万円くらいした。夢は値上がりする。

通常の入場時間より1時間、早く入れる時間よりも45分早くチェックアウトした。


人が人のようだ!

で、これである。まだ1時間前でこれ。しかしこれは通常のゲート。反対側は早く入れる人用のゲートなのだが、そっちも普通にめちゃ混んでた。なんなんだこいつら。なにが君たちをそこまで突き動かすのだ。

ここで椅子に腰掛けてグに事情聴取する。グは親がユニバーサル・スタジオ・ジャパン派だったためディズニーランドには行ったことがない。しかしそれとは別に今回ディズニーシーに行きたい理由があったという。

「パパ活とかホス狂いのアフターとか、そういうのを見に来た」

とのこと。相変わらずわけわからないことばかり言っている。そんなものを見て何が面白いのか。思い返せばこの男はわざわざ東南アジアばかり旅行に行くのもその国の暗い部分やアウトロー、路地裏が見たいからと言っていた。それはそれとしてそういう店でク〇ニしすぎだが、筋は通っている。

そんなことを話していると近くの椅子にプリンセスの格好をしたメスガキが現れた。何が気に食わないのかめちゃくちゃに泣いている。父がなだめている。メスガキの妹はさきいかを貪りながらケラケラ笑っている。めちゃくちゃすぎる。

「あれはパパ活じゃねえなあ」

当たり前だ。

姉が泣き止むと、焼きかまぼこを食べ始めた。絶対親父のおつまみの残りだろ。

入場を待っている人々の中にも怪しいヤツがいる。男女のうち片方が著しく劣った容姿をしていたらパパ活、ホス狂いのアフター率が高い。また、女の格好が地雷系、黛冬優子みたいでめちゃくちゃ退屈してても確率は上がる。しかしなかなかそんな奴はいなかった。グは「怪電波出してるのに普通に虫いるじゃねえか」とぼやいていた。令和に怪電波て。

開場すると、なのは完売とかモノ売るってレベルじゃねえぞを想起させる事態となった。めっちゃうんこ我慢した時にも近い。通常より15分早く入場できるとはいえ全然優雅ではない。とりあえずカからおすすめされていたソアリン・ファンタスティック・フライトを探した。恐らくこの集団の中で唯一「どこに何があるのか全く分からない2人組」は、とりあえず人の流れに身を任せた。

どうやらこの列で正しいようだ。なぜなら待ち時間30分と看板が掲げられていたからだ。うそだろう?15分前に特別に入場しているのだぞ。幼少期、ディズニーシーに訪れた時を思い出す長い行列に身を委ねる。

ディズニーデートをすると別れるっていう都市伝説は、つまりこの苦行たる行列でイライラしてしまう故なのだよと告げると、グは「え、そうなの!???!!!!??」と驚愕する山賊の声を挙げた。そんぐらい知っとけよ。これだから田舎者は。しかしグと話していると発見もある。いかにこの長蛇の列を飽きさせないか。いかにこの待ち時間を楽しませるか。いかにその後のアトラクションを期待させるか。そんなノウハウが散りばめられている。こう言ったらあれだけど、もしどのアトラクションも待たなかったらあんま面白くないんだろうな。

待ってる間、前のおじさんがずっとマフィアとギャングについて解説してたのが気がかりだった。夢の国でしなくてもよくない?

その後さっきのメスガキを発見したりしてソアリンに乗ってきた。いやあ、すごいですね、あれは。スキーのリフトみたいなのに乗って映像を見るだけなんだけど、マジで空を旅してるかのような臨場感。風と映像をリフトの動きだけでこんなにリアリティがあるのかと驚いた。あとこれは確かじゃないんだけど、映像に応じて匂いがあったように思う。そんな事全くなかったらウケるな。映像なのにめちゃくちゃタマヒュンした。これは並ぶだけあるな。

ソアリンを出ると、2時間待ちになっていた。頭おかしなるで。

グと相談した結果、もうアトラクションはいいやという話になった。待つのが嫌なのだ。全体をぐるっと散策して目当ての人間を探そう。こういう楽しみ方もあるんだね。


道具と美術さんすごい

途中からグとおれは装飾の類に魅了されていた。世界観の作りこみがやばすぎるのだ。そこらへんの壁や柱ですらリアリティを追求していて、明らかに変態が携わっているのが見て取れた。また、時折スポンサーが明記されていたり、商売的な一面が見えてそんな穿った分析も楽しめた。


何もないがある場所

色々なところに、メインストリートから外れた何もない場所がある。何もない訳では無いのだけど、特段人がいる訳でもない場所。しかし世界観は完璧で、むしろこういう所でこそ異世界感がある。ディズニーに誘われたけどアトラクションに興味が無い君、こういう楽しみ方もあるぞ。でもそれなら1人でも問題ないぞ。

それはそれとしてお目当てのやつが見当たらない。もう諦めようかと思ったその時。

ともはる♭「あ!!!!!!だっせえオタクと地雷系!!!!!!」

ゴスロリ女と錦織圭みたいなヘアバンドをしたデブオタクがいた。おれとグは初孫を見た時のような笑みを浮かべ暫くそれを眺めていた。あれはパパ活でもホス狂いでもない。きっと地下アイドルのデートチケットだ。あのヘアバンドはオタク精一杯のオシャレなのだ。おれたちはほとんど夢に魅せられたかのようにほんわかした表情でゲートをくぐっていった。次は女の子と来たい。

帰り、渋谷の歩道で普通にIKKOがマネージャーと歩いていてウケた。


どうした?

毎回来る、グの地元の中華料理屋で中華を喰らい尽くした。ナイフとフォークじゃなくて箸で中華を貪ってるのが1番気持ちいいぜ。ここで結婚についてお互いの心境を語り合った。結婚は結婚そのものよりも、それを祝福してくれる人を集めて祝福してもらう、祝福する、それ自体が良いという部分。親戚や兄の結婚式でも勿論祝福していたけれど、やっぱ友人となると話が違う。めちゃくちゃ祝福してる一方で、先を越されたというか1抜けされたというか。友人グループの中で1人童貞を捨てた奴が現れた時みたいな。少しソワソワするような気持ちだった。結婚できたらいいけど、焦らず今は生活を磐石にしようという話でまとまった。最後に、「相手いねえけどな!!!!」で閉めた。会計前にグがギリギリ聞こえるくらいの声量で「あーク〇ニしたい」と言ったのをおれは聞き逃さなかった。さっきまでの話はなんだったんだ。

グ家(公家みたい)に置いていたバイクに跨る。ド田舎は風と鳥の声と草木のたなびく音ばかりを運んでくる。煩わしく優しいその全てをエンジン音でかき消す。30歳、結婚という言葉に一人で苦しんでいたけど、何もかもちょっとずつ進めていくしかないんよな。とりあえず金がないので仕事をちゃんと続ける、相手を見つける、話はそれからだ。たとえ周回遅れだとしても。

家に着くまでおれは気づかなかった。引き出物を車に忘れたことを。

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