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世界にひとつだけの花

 かつてナンバーワンだったことがある。
 それが、報われない現在(いま)を支えてくれている。
 そういう話を、今から書く。

 「自分は誰からも、何にも支えてもらう必要は無い」と考えている人は、この先を読む必要は無い。
 「自分は何に支えられているのか知りたい」
 「自分を支えてくれるものがあるなら手に入れたい」
 そう思う人だけ、一緒に進もう。

 私を支えてくれているのは、ナンバーワンだった実績ではない。ナンバーワンを本気で目指した時間だ。
 結果、ナンバーワンになった。そのことにも大きな意味はある。ならなかったなら、ナンバーワンとは何なのか分からなかったと思うからだ。
 順を追って、話していこう。

 ①オンリーワンじゃ物足りない
 ②ベスト以外、選べない
 ③必ずナンバーワンになる方法
 ④まずは勝てる相手に圧勝する
 ⑤ナンバーワンは、ひとりぼっちだった
 ⑥オンリーワンは、ナンバーワン
 ⑦話は全力を出した後で
 ⑧誰が為のオンリーワン

①オンリーワンじゃ物足りない
 世の中には二種類の人間しかいない。
 ナンバーワンと、それ以外だ。
 「ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン」という考え方がある。
 今日はこの考えの向こう側を考えてみたい。
 「ナンバーワンにならなくてもいい」という言葉は、誰に宛てたものだろう。当然、ナンバーワンになった人間ではない。ナンバーワンになれなかった人間だ。
 これは「ナンバーワンになれなかった事実」を肯定的に受けとめるための言葉だ。
 ナンバーワンになれなかった人間は、二人しかいない。
 全力でナンバーワンになろうとした人間と、全力でなろうとしなかった人間だ。
 前者に慰めは必要ない。ナンバーワンになれなかった事実は、誰に言われずとも肯定的なものとして受けとめられるからだ。理由は後述する。
 「ナンバーワンにならなくてもいい」と肯定してもらうことを必要とするのは、全力を出さなかった者だ。
 理由はさまざまだろうが、それぞれの事情はどうでもいい。
 重要なのは、全力を出す選択肢を放棄したことだ。
 これに自分で後ろめたさを感じている、あるいは恥ずべきことと認識している・・・・・・そんな人のためにこの記事を書いている。
 もしも「全力を出さない」ことを是とし、恥じらいもためらいも無く、今後もスタイルを変えずに生きていくのであれば、ここから先を読むのはやめておいた方がいい。あなたのスタイルが変わることになる。だからここで、サヨナラだ。
 全力を出したいけど、出せなかった。そのことをどうにかしたい、「ただのオンリーワンじゃ物足りない」と思う人だけ、一緒に進もう。

②ベスト以外、選べない
 全力を出したかった人、ようこそ。
 まずは全力を出せなかったのは何故か、考えてみよう。
 人間はどんなときでも絶対に「ベストの選択」以外できない生き物だ。
 あなたが今の状態を肯定的に受けとめていたとしても、いなかったとしても、あなたはベストの選択をしつづけた果てに、いまの状況にたどり着いている。そしてこの瞬間も自己ベストを更新しながらこの記事を読み進めている。
 理由はさまざまだろうが、それぞれの事情はどうでもいい。
 要するに「それがベストだ」と、その時点では判断したということだ。
 ベストの選択をしても、後悔はする。何故か。成長しているからだ。「あっちを選んだら良かった」と思える程度に成長したから、後悔をする。
 成長したのに、同じ過ちを繰り返すこともある。何故か。「今度は上手くいくかもしれない」と思うからだ。実際、繰り返していれば上手くいくかもしれない。

 繰り返して上手くいくことと、いかないことには違いがある。上手になるかどうかだ。上手になることは、続けていく価値がある。上手にならないことは、続けるだけ無駄だ。
 しかし続けてみなければ、上手になるかどうか分からないと言う人のために、(横道にそれるが)上手になるかどうかを見極める方法を書いておく。
 上手になるとは、「違いが分かる」ようになることだ。違うアプローチができるということだ。ある程度トライしてみて、いろいろなアプローチのアイデアが自分の中に生まれているならば、上手になる可能性はある。本を読んだり、人に教えを請うてもいい。いかなる手段を使ってでも、新しいアプローチを試み、より良い方法を見つけられるのならば、上達の可能性は高い。
 簡単に言えば、「面白がれる」ということだ。失敗した後「あ、悔しい。もう一度やってみたい」と思えるかどうかだ。

 話を元に戻そう。
 ベストの選択の結果、全力を出さなかったのは、全力を出して負けるのが怖いからだ。他に理由は、無い。
 「そんなことない! ほかに理由がある!」と思う人は、ここから先を読まない方がいい。読んでも理解できないし、読んだら傷つく可能性がある。ここでお別れだ。
 「そうかもしれない」「そうだったのか」「その通り!」と思う人は、一緒に進んでいこう。

 「もともと特別なオンリーワン」と言われて、あなたは嬉しいだろうか。物足りなさを感じるあなたは、向上心がある。
 全力を出して負けるのが怖いのは、裏を返せば、それぐらい「勝ちたい」からだ。
 自己肯定感が低い人は「あなたはオンリーワン」と言われて慰められるかもしれない。しかし慰められた後どうする。「全力を出せないのも個性だから」で納得できるだろうか。
 オンリーワンになれる(自分がオンリーワンだと理解できる)のは、全力を出せた人間だけだ。

③必ずナンバーワンになる方法
 私はかつて、リクルートという会社で、営業成績が日本一になったことがある。入社した年から2年連続で日本一になった。
 26歳にして、生まれて初めてナンバーワンを体験した。
 と同時に、「自分は絶対にナンバーワンになれる」と確信してもいた。それまでナンバーワンになったことが無かったのにだ。
 理由は二つある。ひとつは、全力の出し方を知っていたから。もうひとつは、競争相手が全力の出し方を知らない人たちばかりだったからだ。
 株式会社リクルートに入る前から、私は「絶対的営業力」を身につけていた。
 私に絶対的営業力を身につけさせたのは、完全歩合制の訪問販売だ。朝9時から夜7時まで、時には9時、10時までアポ無しの飛び込み営業をやった。1日平均300軒のドアをたたき、50人程度の人に営業をする。それを週6日。休み以外の睡眠時間は3時間だった。趣味も将来設計も恋人も無い。お金も時間も夢も愛も無く、わずかな睡眠だけが、唯一の逃げ場だった。
 しかし夢の中でも訪問販売。寝ても覚めてもセールス、セールス。毎日求められる結果、実績、売上・・・・・・。
 収入はなかったが、営業の技術は身についた。目の前の人が、買うか買わないか、何で悩んでいるか、何を言えばいいか、すぐに分かるようになったのだ。

 しかし出会うのは、ほとんど買わない人だ。一日のほとんどを初対面の人に拒絶され、否定され、嫌悪されて、それでも前進するしか選択肢がない。次のドアを叩くしかないという生活。
 続けたのは、「負けるのが嫌だったから」。それだけだ。辞めどきを見失っていたとも言える。
 実際この仕事は二年半続き、辞められたのは交通事故で死にかけて、辞めるしかなかったからだった。
 この仕事でナンバーワンには、なれなかった。もうナンバーワンを目指すのも懲りごりだった。安定した会社で、プライベートを充実させながら、そこそこの仕事をしたかった。そうやって、リクルートに入った。

④まずは勝てる相手に圧勝する
 しかしリクルートの雰囲気に触れて、考えが変わった。「ナンバーワンになろう」と決めた。ポジティブな社風に触発されたからじゃない。ネガティブな人ばかりだったから「これなら勝てる」と踏んだのだ
 言うまでもなくリクルートは日本有数の営業会社だ。ユニークなプロダクトをフレッシュな人材が売っている。傍目から見れば、ポジティブな人材ばかりだろう
 それがネガティブに見えた当時の私は、頭がイカレていた。「今日は寒い」とか「昨日は飲み過ぎた」という発言、人前であくびをしたりガタガタ凍えたりすること、悩みや疲れを表す態度や表情・・・・・・これらをすべてネガティブと断罪した。訪問販売で、そのように仕込まれていた。
 「今日は3軒も回ったからヘトヘトだ」という愚痴をはいた人がいた。1日300軒を訪問していた私には信じられない言葉だった。1日30軒を回ったとしても、この人たちの全力の10倍だ。自分の全力の100分の1しか頑張れない人たちになら、絶対勝てる。
 売る力がこの人たちの半分しかなくても、10倍努力すれば、絶対に勝てる。そして私は入社した年から、先輩の5倍の結果を出し、日本一になった。
 私が身につけた絶対的営業力とは、買うか買わないか分かることではない。他人の10倍の努力がラクに感じられることだったのだ。

⑤ナンバーワンは、ひとりぼっちだった
 日本一になって嬉しかったのは、しばらくの間だった。
 あちらこちらの営業拠点からゲストとして呼ばれ、セミナーを打つ。社内メールでも「会いたい」「尊敬してます」「営業を教えてください」と、引く手あまただ。
 しかし日本一が決した瞬間から、次の日本一を決する戦いは始まっていた。私が営業を教えた人間は、私と同じ手法「10倍努力」で私に対抗してくる。私はすでにディフェンディングチャンピオンであり、追われる者なのだ。
 だんだん他人に営業手法を教えるのが嫌になった。請われれば教えたが、嬉しさは消え去った。狭い螺旋階段を後ろから追われながらひたすら上へ逃げ続けるような日々だった。
 孤独と戦いながら、全国の営業マンの努力におびえ、全力を尽くした。 
 2年目、昨年同様10倍努力をした結果、私はまた5倍の差をつけて日本一だった。

「どういうことだ」
 日本一に絶対になれる方法を、全国のあちらこちらで教えたのに、差は縮まっていない。
 答えは簡単。
 誰もやらなかった、あるいは途中でやらなくなったのだ。孤独なレースはは私の取り越し苦労。誰も10倍の努力などしない。
 私は追われる者の孤独からは解放されたが、今度は誰も自分の言葉を本気で受けとめない、しのぎを削る相手がいない孤独に苛まれることになった。
 ナンバーワンは、ひとりぼっちだった。
 オンリーどころかロンリーな、ワンだ。

⑥オンリーワンは、ナンバーワン
 考えてみれば、訪問販売時代の私が300軒の訪問を「600軒しろ」と言われても、出来なかっただろう。
 彼らにとっては1日最大3軒程度が全力。決めてしまった人には、それ以上の力は出ない。私だって、そうだ。

 負けるのが怖い人に勧めたいのは、自分の全力の最大値を常識の10倍に設定することだ。
 そうすればおのずとナンバーワンになる。誰と較べられることも、較べる必要も無い。自分との戦いに集中できる。これが、オンリーワンということだ。

 生まれたときからオンリーワン。そんなことは当たり前であり、どんなオンリーワンになるかが重要なのだ。
 頑張らなくてもなれる(すでになっている)オンリーワンは、ただのワンだ。ワンは削って、磨いて、尖らせて、光らせてこそ、オンリーを冠するのだ。
 簡単に言えば、ナンバーワンを目指すことからしかオンリーワンは生まれない。ナンバーワンが、オンリーワンだ。
 ここまで読んでも、まだ「ありのままの自分が素晴らしい」「みんな頑張らなくていい」「人はただ居るだけで肯定されるべきだ」と思う人は、この先を読むは必要ない。 価値あるオンリーワンについて考えたい人だけ、一緒に進もう。

⑦話は全力を出した後で

 「どんな人にも価値がある」

 そう伝えたくて、槇原敬之は「ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン」と詞を書いた・・・・・・かどうかは知らないが、結果として「ナンバーワンにならなくてもいい(なられなくても、仕方ない)」とは思う。しかし「ナンバーワンにならなくてもいい」と思いながらの努力は、いけ好かない。というか不毛だ。

 全力を出して敗れた者は、ナンバーワンになれなかった事実を肯定的なものとして受けとめられる、と書いた。

 もし私が10倍努力をして日本一になられなかったとしても、その結果は私を支えてくれるものになったはずだ。

 「全力の自分に出会う体験」は、気持ちの根っこの方をがっちり固めて支えてくれるものだ。

 いま40代に突入して過去を振り返ると、あの底辺の仕事が、塗炭の暮らしが、無意味に思えて焦りまくった日々が自分を支えてくれるのを感じる。砂を噛み、泥をすすり、風に飛ばされる塵を積み重ねた時間が、かけがえのないものであったと理解できる。

 「好きなことだけやる」とか「必要なものだけ手に入れる」などの、目先の結果だけを考えれば、もっとスマートで効率的なやり方があるかもしれない。

 30代にもなれば若いころと違って「何がやりたいんですか」「何ができるんですか」なんて誰も聞いてくれない。「やってきたこと」「今、やっていること」でしか勝負できないのだ。
 その意味では、まだまだ努力が足りない、報われるほどの努力を出来ていないと自分で不甲斐なく思っている。

 最後になるが、ぶっちゃけナンバーワン、オンリーワンの称号なんてリアルな仕事の現場では関係ない、慰めにも屁の突っ張りにもならないもんだ。

 それでも今日の私は、全力を尽くせた過去に支えられている。
 リクルートナンバーワンなど小高い丘に過ぎない。しかし自分が全力で登り、到達できたという事実は小さくはない。
 小高い丘も、登る前は峻厳な峰に見えた。どんなに高い山でも、登った後には更に高い頂を拝むことになる。
 ナンバーワンを目指す意味は、全力で目指した後にしか分からない。

⑧誰が為のオンリーワン
 オンリーワンであることは、目的だろうか、手段だろうか。
 「自分の存在を肯定するため」と考えれば、目的と言えそうだが、肯定されて、それからどうするのだろうか。さらなる肯定を求める手段として、もっとオンリーワンを求めるのか。
 人間は本性として「褒められたい」「人に必要とされたい」と願っている。世の中には多様な価値観があるが、ベースは「褒められたい」「人に必要とされたい」で、他はそこから派生したものだ。
 オンリーワンなだけでは、価値が無い。誰かを喜ばせて初めて価値のあるオンリーワンになる。

 自分を肯定する方法は二つ。
 自分の全力を引き出してやること、他者を喜ばせる力を身につけることだ。
 ナンバーワンを目指してこそ、他者の役に立つ自分のオンリーワン性が見えてくる。
 そのオンリーワン性がどうすれば他者を喜ばせるか追究する。その時、「自分というジャンル」が確立される。
 それ以外に、「特別なオンリーワン」は無い。

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