競泳時間 2018年4月に書いた記事の下書き

 

以下の記事は、2018年4月に共同通信の「世界から」というコーナーに書いた記事の下書きです。発表した記事はリンク切れになっていて読めないので、下書きをこちらにはりました。

米専門家に聞く。米NBC局が東京五輪に及ぼす影響力。


▽平昌五輪

 今年2月に開催された平昌五輪をテレビ観戦して、申し訳ないような気持ちになった。

 私は米国在住。フィギュアスケート、スノーボードの人気種目などは、米国のゴールデンタイム(午後8時-11時)に生中継された。これは、平昌の朝から競技が始まっていることを意味している。開始時間の早い平昌五輪では転倒するスケーターが少なくなかった。早朝からコンディションを整える難しさがあったのではないか。

 一般に、スポーツ選手のパフォーマンスは午後の方が良いとされている。

2016年8月、米ABC電子版は、バンダービルト大メディカルセンターのアレックス・ダイヤモンド氏の談話を掲載した。「複数の研究結果は、身体パフォーマンスに最も適した時間は、午後の遅い時間か夕方の早い時間であることを示している」。

 体温、血圧、ホルモンの分泌などから、自己最高のパフォーマンスをするには、午後から夕方にかけて時間帯が適している。記録更新もこの時間帯のレースや試合が多いそうだ。

 フィギュアスケートなどの午前開始には、米国のゴールデンタイムに放送したいテレビ局の思惑があったと言われる。ニューヨークタイムズ紙は2月12日に「米国東部と14時間の時差がある冬季五輪で、スケートは朝10時から始まっている。米NBC局が(米国東部の)午後8時のプライムタイムに放送できるよう便宜を図るためだ」などと伝えた。五輪の放送権を持つ米NBC局が競技時刻に影響を与えたのだろう。優遇された北米の視聴者として、居心地が悪かった。

 

▽東京の午前中に

 2020年の東京五輪でも、米NBC局の都合を優先した競技時間になるのだろうか。

 書籍「OLYMPIC TELEVISION」の共著者で、米ユーティカ大の研究者、ポール・マッカーサー教授にメールで取材した。 

 マッカーサー教授は米NBC局が平昌五輪の競技時刻に影響を及ぼしていたとの考えを示し、東京五輪でも同じことが起こるだろうと予測。同教授は「水泳、陸上、体操、飛び込み、ビーチバレーの多くは東京の午前中に行われると予想している。特に決勝では、そうなるだろう」と述べた。これらは米国で人気の高い種目。北米のゴールデンタイムに生中継するなら、日本の午前中に競技が行わなければならない。

 マッカーサー教授は、08年の北京五輪では競泳は午前中に行われ、16年のリオデジャネイロ五輪では夜遅い時間帯に行われたことを挙げ、どちらも米国のゴールデンタイムだったと指摘した。

NBC局の影響力が強い背景には、巨額の放送権料にある。2016年7月号のJournalism誌によると、米NBC局は2014年から20年大会までの4大会分の米国向け放送権に、43億8000万ドル(約4665億円)を支払っている。一方、NHKと民放で構成するジャパンコンソーシアムの放送権料は1020億円。米NBC局のマネーパワーがうかがえる。

 

▽アスリート中心

 マッカーサー教授は「仮にアスリートにマイナスの影響があったとしても、米NBC局の支払っている金額から考えれば、この状況はすぐには変わりそうもない」としている。

オリンピック・パラリックは4年に1度の大舞台。出場選手たちが持てる力を発揮できるような条件で行って欲しい。

 もちろん、時差のある国際大会を渡り歩いている選手とスタッフは、医科学的知見と細心の注意を払って、コンディションを整えるはずだ。それでも、オリンピックマネーよりもアスリート中心であって欲しいと願う。

 そう願いながらも、私は再び米NBC局のゴールデンタイム生中継の恩恵に預かるのだろう。今から心苦しい。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。記事は無料で公開し、みなさまからのご支援は、今後の取材の経費とさせていただきます。