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涙鉛筆(#毎週ショートショートnote)


ママ友の洋子さんに断捨離を勧められた。

「いいわよぉ、捨てるって」

溜め込んでいた紙袋から始めて、衣類、食器、子どものおもちゃからカラーボックスに至るまで、意を決してバッサリと処分したらしい。
「快感なのよ、とにかく。仕訳するたびに気持ち、軽くなるわよ。私これだけの過去に捕らわれてたんだーって気づくわよ。あなたもやったら?」
新しい恋人ができた洋子さんは、ネイルをキラキラさせて笑った。

彼女は仲の良い娘を持つシングルマザーだけれど、私は違う。
恋人時代のときめきなど、とうに失くした夫と思春期真っ盛りの息子からは、完全に家政婦扱いだ。
私は半ばヤケ気味に、断捨離を始めることにした。

先ずは押入から。
どうせ家族皆、不要な物ばかりのはずだしー

「あ…」

息子の使っていた筆箱が出てきた。
ちびた鉛筆が、5本。
小さな傷が幾つも刻まれた鉛筆を、そっと撫でた。
幼い息子の歯形が笑いかけてきて、涙がとまらなくなった。


私の断捨離は、そこで止まっている。



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しばらくお休みしてました。1000本記念のお題で復帰の予定が、遅れてしまいました。
時間許す限り、また楽しんでいきたいです(^-^)









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