【朗読】白い指輪

短めの作品です。


  白い指輪

  
 意図せず漏れた溜息に、傍らのその人が顔を上げた。
「まだ見つからないのか、アンタの奥さんの形見。」
星明かりも乏しい暗がりで、自分の娘の形見を探す男が声をかけてきた。
私は黙って拾った鉄パイプを握りしめる。
あの日以来、妻の消息が途絶えてもう何日過ぎたのだろうか?

 あの日…私達の住む町は炎に包まれた。

いがみ合っていた隣国からの奇襲により攻撃され、真っ暗な夜空から大量の炎が降り注ぐ。
慌てて逃げ惑う人々の波に呑まれ、離すまいと必死で繋いだ手はあまりにも弱かった。
「あなた!」
振り向いた瞬間の、妻の美しい碧眼を見たのはそれが最後だった。

命からがら逃げ延び、戻ってきた町は、無数の瓦礫と硝煙ばかりの山と化していた。
妻の呑まれた人波は、最も被害を受けた噴水広場に向かっていたのを思い出し、真実を確かめるべくこうして乞食の真似事をしている。
 
頼むエリー。
 頼むから、ここに居ないでくれ
 
白さを失った瓦礫をやっとのことで押し退けた。おそらく近くの協会のものだろう。欠けた煉瓦、黒焦げの本の背表紙、そして

「……あぁ、見つけた。」

拾い上げた硝子の塊は拳ほどの大きさで、失いかけた四肢の力を振り絞り、私は塊を勢い良く地面に叩きつけた。
 
銀色の指輪が朝日を反射して眩しかった。

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