自分でBIを作れ

トマ・ピケティは言った。

r > g だと。

つまり、労働で得る給料よりも、投資をして得る収益の方が大きくなっていく、と。

これは、特に成熟した先進国こそ顕著であろう。これから経済発展を遂げていく国と違ってすでに経済成長率は衰え、労働による給料増加はそれほど見込めない。しかしながら、世間に選ばれるサービスや物の提供ができる企業はそれによる収益から肥えていくことができる。また、株主は配当金により潤っていく仕組みだ。

その流れは、AI革命により加速した。これからますます人々の労働力をAIが代替していくだろう。それにより、仕事を奪われる人々は増大し、低賃金・低所得層は増加するであろう。

安定した中流階級を失うということは、社会の不安定化を招く。軋轢は生まれ、治安は悪化していくだろう。国家としては、国民の安定した生活環境を守ることは崇高な使命だが、国家財政でそれらの人々全員を掬い上げることはできない。おそらく、現在の生活保護システムの利用者は増加し、そのシステムの維持すら困難になっていくだろう。

ゆえに、今議論にあがってきているのが、ベーシックインカム(BI)というシステムだ。

生活保護は、労働して一定水準の所得を得てしまうと生活保護から外れてしまうため、今の生活保護システムは、生活だけを守り、労働へ戻ろうとするインセンティブは働かない設計になっている。

それに対して、BIは“働かなくても生きていける収入保障“はするが、それ以上に“働いて稼ぎたかったらしてもいい”という仕組みだ。換言すれば、労働と生活を切り離し、生活は保障されている状態で、労働して稼いで生活水準を上げたければしてもいいし、現時点で満足ならその収入の範囲内でしたいことをして暮らせばいい、ということだ。

先ほど、AIの進化により人々の労働を奪うと言ったが、これも言い換えると、“それほど社会の維持に人間の労働力は必要とされない“という状況に近づいている(あるいは、もうそうなっている)ということだ。

話は戻るが、だからベーシックインカムのような制度が社会実装されることが求められているにも関わらず、国家財政がそれを許さない。国家ができないので、どうするか。個人で「資本からインカムを得る仕組みを作ってくれ」ということになる。

ここで、トマ・ピケティのいうrの部分、つまり資本収入を得る仕組みを個人で作ってくれということだ。

では、その仕組みを個人で作るためには、どうすれば良いのか。簡単なことである。
「つみたてNISA口座を活用せよ。」ということになる。国として面倒は見れません。だから、自分たちで自分用のベーシックインカム(資本主義からの恩恵)制度を構築してくださいね。そのための優遇制度は作ります(作りました)。ということだ。

おそらく、国は今後増大する社会保障費用を捻出するために増税を続けるだろう。しかし、国民から税金を吸い上げて運用して(GPIF)、国民年金として還元しても、そもそもの日本の低いGDP成長率に支えられた年金システムは先細るビジョンしか見えない。

だから、結論を言おう。

国は、自分で自分の生活を保障するBI(ベーシックインカム)を作れ、と。そのために、つみたてNISA制度(と、iDeCoも)をフル活用しろ、と。言っているのである。

しかし、それは日本国家が国内で取れる政策の一つにすぎない。

それを世界単位で行おうとしている人物がいる。ChatGPTを生み出したopenAI社のCEOサム・アルトマンだ。彼は、これから、人間に代わって生産能力を得たAIが生み出した収益を、ブロックチェーンの技術を使って、世界中の人々に分配していこうとしている。

その構想を具体化したのがworldcoinという仮想通貨プロジェクトだ。彼は、UBI(ユニバーサルベーシックインカム)というものを構想している。現時点では、世界中で200万人が、目の虹彩をスキャンして個人認証を行ない実際にWLDというトークンを得ている。構想ではこれから20億人規模にするロードマップを描いているという。

現時点では、そのプロジェクトの善し悪しは議論しない。まだプロジェクトの恩恵も課題も見えてこないからだ。これから、進展するにつれて様々な課題に直面し、それを一つひとつ解決していくことだろう。その過程でさまざまな批評に晒されることになると思う。また、その規模と影響力から、国家当局に規制される可能性も考えられる。よって、このプロジェクトが絶対的に正しいと断言できるものではないが、しかし構想の大きさに世界の人々が魅了されていることも、また事実である。

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